オイラーの公式の発見
― オイラーの見え方 ・ 複素数の不思議 ―
オイラーの公式 eiχ=cosχ+i sinχ
はじめて見た時、意味がわかりませんでした。eって何? i 乗ってできるの?・・・しばらくして微分方程式を学習した時、なんてすごい公式だろうと思いました。
この公式は中学生にはほとんど縁がありませんが、やはりこれを取り上げないと数学の面白さが味わえません。
数学の拡がりと面白さをできるだけ体験してもらえるように書いていきたいと思っています。
1、虚数も数 i2=−1 ( √(-1)×√(-1)≠√(-1)×(-1) )
三次方程式の解の公式にはたびたび虚数が出てきます。最初、虚数は単に解を求めるために計算の途中で出てくる意味のわからないものでした。
だから、「意味わからん」と思う気持ちは当時の人たちも感じていたはずです。
ところがこれを認めて計算をしていくと三次方程式が解けるのです。中学生で言えばどんな二次方程式だって解けるということになります。
χ2+1=0 という方程式も、ちゃんと二つの解を持つということになればすっきりします。ま、そんなことで虚数を、計算上の便宜的存在から数学的に存在すると認めた方がより広い世界が広がってくると考えたわけです。
数として認めようとすれば、四則計算ができなければいけません。まず足し算です。
2、複素数の足し算 《複素数をガウス平面で表現するなんて素敵だ!》
z1=a+b i と z2=c+d i を足し算してみます。
z1+z2=(a+b i)+(c+d i)=(a+c)+(b+d) i となります。
これは、力の合成を示しています。
力の合成といえば平行四辺形です。これを図にしてみましょう。そうです。ガウス平面です。
このように縦軸を虚数に、横軸を実数に表せば、足し算は力の合成の平行四辺形になります。
何でも図で表現すると意味を持ってくるということはよくあります。
3、複素数のかけ算
では、かけ算はどうでしょうか。
z1×z2=(a+b i)×(c+d i)=(ac−bd)+(ad+cb) i
と計算できます。これはどういう意味でしょうか。図にしてもはっきりとわかりません。
z1に i をかけてみます。
z1×i=(a+b i)×i=−b+a i
図にしてみましょう。
どうやら90度回転しているみたいです。i をかけると回転し、実数をかけると拡大するのです。
回転しているということは、角度で表せるということです。角度を使って複素数を表すにはどうしたらいいのでしょうか。
そうです。三角関数を使うことです。あなたは鋭い。右図を見るとわかりますね。
4、複素数の偏角表現 a+b i=r(cosα+i sinα)
三角関数と聞くと拒絶反応をする人が多いのですが、それは三角関数の公式が多すぎて何が何だかわからなくなるからです。
でも、このように三角関数を使うとかけ算が意味を持ってくるのです。先ほどの計算ではわかりにくかったものが偏角を使うことでわかってくるのです。やってみましょう。
z1×z2=r(cosα+i sinα)×s(cosβ+i sinβ)
=rs((cosα・cosβ−sinα・sinβ)+i (cosα・sinβ+sinα・cosβ))
これはもっと簡単にならないものでしょうか。そうです。加法定理を使います。
5、三角関数はわかりにくい
三角関数の加法定理を忘れた人のために、少し解説します。この図を見てください。
どうでしょう。図を見ただけで次の加法定理がいえることがわかりますね。
cos(α+β)=cosα・cosβ−sinα・sinβ
sin(α+β)=cosα・sinβ+sinα・cosβ
そうすると、さっきのかけ算は角度のたし算になります。
6、ド・モアブルの定理
r(cosα+i sinα)×s(cosβ+i sinβ)=rs(cos(α+β)+i sin(α+β))
どうでしょう。実にシンプルに表されたではありませんか。さて、ここで計算を簡単にするために、r=s=1としましょう。
さらに、β=αとすると、累乗の公式が見つかります。
(cosα+i sinα)2=(cosα+i sinα)×(cosα+i sinα)=cos(2α)+i sin(2α)
同様に
(cosα+i sinα)3=cos(3α)+i sin(3α)
ということは、
(cosα±i sinα)n=cos(nα)±i sin(nα)
となります。これをド・モアブルの定理といいます。
7、オイラーの見え方
オイラーは、このド・モアブルの定理、
cos(nα)+i sin(nα)=(cosα+i sinα)n
cos(nα)−i sin(nα)=(cosα−i sinα)n
から両式を加えて、
cos(nα)=((cosα+i sinα)n+(cosα−i sinα)n)/2
i sin(nα)=((cosα+i sinα)n−(cosα−i sinα)n)/2
を導きます。
ここからがオイラーのすごい所ですが、オイラーはこの式と自然対数の定義を結びつけるのです。
さて、自然対数eの定義は
eχ=lim[n→∞](1+χ/n)n
です。どう結びつくのでしょうか。オイラーのマジックは、極限を用いる所にありました。
nα=χとします。χは一定の数です。そうしてnを無限大にするのです。当然αは無限に小さくなります。すると、三角関数の性質から、
lim[n→∞]cos(χ/n)=1 lim[n→∞]sin(χ/n)=χ/n
がいえます。これを使うと先ほどの式は、
cos(χ)=((cos(χ/n)+i sin(χ/n))n+(cos(χ/n)−i sin(χ/n))n)/2
=((1+iχ/n)n+(1−iχ/n)n)/2 ・・・(1)
i sinχ=((1+iχ/n)n−(1−iχ/n)n)/2 ・・・(2)
となります。
8、自然対数の虚数乗
(1+iχ/n)n はさっきの自然対数の定義と似ています。
違いは i が入っているところです。
この値は意味を持っているのでしょうか。発散したら意味を持ちません。
ためしにχ=1として、n=2、4を計算してみました。実部と虚部に分かれます。
(1+i/2)2=0.75+i
(1+i/4)4=0.62890625+0.9375 i
いちいち展開するのは大変です。
もっと簡単な計算はないものでしょうか。
そうだ!二項定理がある。 i は後からχへ代入すればいい。
(1+χ)n=納k=0→n]n!/((n-k)!k!)・χk (4!=4・3・2・1)
だから、n=8、χ=iχ/8とすると、
(1+iχ/8)8=納k=0→8]8!/((8-k)!k!)・(iχ)k
これをエクセルに入力します。そして、χ=1を代入してみると、
(1+iχ/8)8=0.579483092+0.89233017 i
という値が出ます。nをどんどん大きくしていくと、
n= 2 4 6 8 10 12
a=0.75 0.62890625 0.594885974 0.579483092 0.57079045 0.565229899
b= 1 0.9375 0.908179012 0.89233017 0.88250801 0.875845995
どうやら、一定の値になりそうです。
そうすると、lim[n→∞](1+iχ/n)nが定義できそうです。
lim[n→∞](1+χ/n)n=eχ だから (なぜe のχ乗なのか?)
lim[n→∞](1+iχ/n)n=eiχ とします。
さっきの式(1)を置き換えると、
cos(χ)=((1+iχ/n)n+(1−iχ/n)n)/2=(eiχ+e-iχ)/2
i sin(χ)=((1+iχ/n)n−(1−iχ/n)n)/2=(eiχ−e−iχ)/2
となり、両式を加えると、
eiχ=cosχ+i sinχ
という式が出てきます。これがオイラーの公式です。
これを使うと、さっきのエクセルで計算した lim[n→∞](1+i/n)n=ei の「正確な」値は、
ei=cos(1)+i sin(1)=0.540302306+0.841470985 i
となります。
9、i の i 乗の値は?
この公式に、χ=πを代入すると、
eiπ=−1 となります。
さっきの定義から確認をして見ましょう。もちろんエクセルに計算をさせます。n=170以上は計算してくれませんでした。収束はとても遅いです。でも、−1になるだろうことは予測できます。
eiπ=lim[n→170](1+iπ/n)n=-1.0294485+0.0003690 i
さて、ここで i i を求めてみましょう。
eiχ=cosχ+i sinχ にχ=π/2を代入すると、
ei(π/2)=cos(π/2)+i sin(π/2)= i
両辺を i 乗すると、
e(iπ/2)i=e(−π/2)=0.2078795763…=ii
結局、無限級数を使えば、i 乗も定義できるのです。さらに三角関数にも i を代入できます。
eiχ=cosχ+i sinχ にχ= i を代入します。
ei×i=e-1=1/e=cos i +i sin i
sinχとcosχをテーラー展開、または二項定理による展開をすると、
cosχ=1−χ2/2+χ4/4!−χ6/6!+・・・
sinχ=χ−χ3/3!+χ5/5!−χ7/7!+・・・
χ=i を代入すると、
cos i+i sin i=(1+1/2+1/4!+1/6!…)−(1+1/3!+1/5!+1/7!…)=0.367857143≒1/e=0.367879441
10、指数表現
以上のことから、右図のように複素数が指数で表現できます。
指数ですから、eiα×eiβ=ei(α+β) と簡単に計算できます。
ガウス平面で見るといかにも当然というような感じがします。
しかも、eχは微分しても変わりませんから、微分や積分が簡単にできるということが便利です。
ここから複素数の関数の世界が広がってきます。
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NHKの学問爆笑で紹介されていた証明