ターレス                

     %1 【証明と民主主義】

『ターレスは、証明という面倒な事を何故始めたのか。』
  

taresua.jpg (23550 バイト)ターレスって知ってる?
--知らない。でも、どうせ数学者でしょ。
--その絵の怒っている人のこと?

「イソップ物語」という童話を読んだことあるだろう。古代ギリシャの残した偉大な遺産の一つなんだけど、その中の話の一つにターレスのことだという話がある。聞きたいかい。
--うん。

今から二千五百年前、当時ギリシャはまだ文明は発達していなかった。商人だったターレスは、文明の進んだ国エジプトと交易をやっていた。そして、エジプトに行った時は進んだ文化を勉強した。ある時、ろばに塩を運ばせていた。当時、塩は貴重な商品だった。塩のことをサルトというけど、そこからサラリーという言葉が生れたくらいさ。
ろばはその塩を何袋も背に乗せて、よたよたと川まで来た。なんのはずみかろばは、足を滑らせ、川の真ん中で転んでしまった。溺れまいとあわてて立ち上がったろばは、はたと気が付いた。なんと荷が軽くなっているではないか。それ以来、川を渡る時には必ずひっくりかえるようになったとさ。なぜかわかる。
--転べば楽できるから、条件反射になったんじゃないかな。

ターレスは困った。何とかしなければならない。そこで、ある計画を思いついた。何を考えたか解るかい。彼は、塩の代りにあるものを積んだのだ。
--綿でしょ。

そう、良くわかったね。川へ来ると、ろばは楽になろうといつもの様に転んだわけだ。ところが今度は軽くならない。それどころか、かえって重くなっている。それ以来、ろばはもう転ばなくなったという話だ。
--なんか聞いた事あるな。

ターレスは、日食を予言したりして当時の人を驚かしている。当時の人は、自然界におきる事は神様がやった事、全ての物は神様が作った物、と考えていた。ところが、この人は万物の元になる物が、水であるということを、始めて言った人なんだ。
--そんなのおかしいよ。元素は、水だけじゃないよ。
(万物は水からできている)図 taresb.jpg (6151 バイト)

水は雲となり、雨となって植物を育てる。その植物を動物は食べている。血は、水から出来ている。その水は、川となって流れ、海へそそぐ。その海の中で魚が育つ。その魚を、人は食べる。だから人も水から出来ているといっても良い。
--鉄だってある。

その通り。だから、後の人は、火、木、金、土、とつけたしてこれが万物の元だと説明したわけだ。
--それに月と日をつけたせば曜日になるよ。

良く考えたねえ。曜日だってちゃんと意味があるんだな。ところで、ターレスのえらいのは、それまで神様で説明していたのを、自然をよく見て、そこから元の物を探っていく事により、いろいろな現象を説明していこうとした所にある。これが理科で勉強する原子論の基で、科学の始まりさ。だから、ターレスは、数学の神様と呼ばれている。
 彼はエジプトから学んだわけだが、単に真似しただけではない。彼が新しく始めたものに数学の証明がある。
--ターレスのおかげで、僕たちは苦しんでいるのか。

この証明は、ギリシャでしか生れていない。数学は、文明の発達と共に生れたから、世界中にあるが、証明はギリシャにしかない。
--他の国には数学がなかったの?
(世界の4大文明
 科学の発展 エジプト→ギリシャ→アラビア→ルネッサンス→ヨーロッパ

 いや、どんな国にも数学はあった。だけども証明はギリシャ人の発明なのさ。たとえば、中国の数学を見てみよう。ここに昔の中国の数学の本がある。内容を見ると、まず問題が書いてある。そして、次にやり方と答が書いてある。そして、それだけ。また問題、やり方、答と続いていく。ここには、何故そうなるのかの説明はいっさい書かれていない。ギリシャ人たちは、ちゃんと説明を書残している。この説明が実は証明なのだ。
そしてこの証明のおかげで数学は発展していく。

( 古代中国の数学
円田があり、周が30歩、径が10歩であれば、田の広さはいくらか。  答 75歩
術にいう。半周と半径を相乗して、広さを求める。)→日本の数学(和算)

--後から本を見た人が、その説明のおかげで考え方が良くわかり、さらに発展させることができたからだね。

『証明と民主主義』

 ところで、ターレスが何故証明を始めたのか考えてみよう。理由の一つは、さっき説明した、物事の元になる物をあくまで追求する心があったこと。
--物事にはちゃんと理由があるということですね。

taresud.jpg (5523 バイト)←図 身分のピラミッド                         図 民主主義→democra.jpg (6630 バイト)
二つ目は、民主主義だ。エジプトには、帝王がいて、押しつけ押えつけの国。それに対して、ギリシャは、民主主義の国。エジプトは一人の帝王が命令し、他の者はそれに従うだけ。だから、もめない。ところが、ギリシャはみんなが王様みたいなものだからワイワイガヤガヤ。
--つまり、まとまらない。

どちらの国が強いか、これははっきりとは言えない。でも、マラトンの戦いというギリシャとペルシャの戦いがある。専制王国だったペルシアがギリシャに攻めてきたのだが、見事これを撃退した。戦いの結果はどうなったのか心配しているアテネの市民のもとまで、その勝利の知らせを持って、40数キロを走り、「勝ったぞ!」と叫んでバタリと倒れた兵士を記念して古代オリンピックの種目になったのが、後のマラソンの基となる。
--マラソンというのは地名なのか。

彼等は、自分たちの国を守るために必死で戦ったのだ。誰かから命令されたからではなく、自分が主人公であるから自分で自分の国を守ろうとしたわけだ。命令されて、王様のために戦うのとはまったく意気込みが違う。
 そして、この古代ギリシャから科学の芽が生れたのだ。科学は民主主義の基でしか育たない。なぜなら、民主主義というのはややっこしいもので、みんなが違った事を言っていたらまとまらないから、相手を説得して意見をまとめなければならない。また、誰の言っている事が一番正しいのかを知らなければならない。それは、まさに証明なのだ。
--民主主義は証明をしないとまとまらないわけか。

 説得と納得が証明を生み出したといってもよい。どんな、場合でも、何時でも、何処でも、誰でも、その事が正しいといえるために証明を使う。ターレスは、数学では見たところ同じらしいというだけではいけない、絶対に確かな証拠がなければいけないと考え、証明することを始めたのだ。これは、納得するための証明とも言える。そして、説得のための証明とも言える。
たとえば、君に好きな人ができた時にどうする。
‐‐好きだーと言う。
--相手に自分の気持ちを説明する。

今、その説明の勉強をしているという事なんだ。
--私は証明は難しいけど、証明するとしっかり解るのでいいなと思う。

だから、証明=説明と考えても間違いではない。
--自分が納得する時にも使うから、証明=解り方(納得)と言ってもいいな。

証明を使って
「二つの辺の長さが等しい三角形では二つの底角も等しい」ことを、誰でも納得がいくように説明した。(ターレス)
「どんな三角形でも内角の和は180度である。」 ことを証明した。
(ピタゴラス) →「神の存在証明」

  『ターレスの定理 』
  
”誰でも納得のいくような理屈を組み立てる”方法をおこなうことによって、どう変ったのだろうか。
彼等は、自分が発見した事や、わかったことを相手に伝えるために、証明を使い始めた。
この方法を使って、ターレスが発見したすばらしい定理があるので、紹介しよう。
「まず円を書く。直径を引いて、円周上に一点をとり、直径の端からその点に線を引いて三角形を作るとそれは、必ず直角三角形になる。」
--へー、でも真上へ来る時は、あたりまえだな。
--何処に1点をとっても、必ず90度になるんだね。

この定理を知った人は、必ず何故そうなるのか知りたくなる。これが証明なのだ。
taresue.jpg (5764 バイト)
 図 ターレスの定理の証明 (わしが発見し、わしが証明したから、わしの名前が付いたのじゃ)
--どうやって証明するの。

証明の仕方は極めて簡単。一本の線を引けば良い。そうすると、二等辺三角形が二つできる。二等辺三角形は二つの辺が等しい三角形だが、同時にその底角も等しくなっている。この事もターレスは証明している。
一つの三角形の方の底角を○としよう。もう一方の方の底角を△としよう。そうすると、△△○○で180度になる。そうすると、○△では何度か?
--△△○○度で180度だから、△○はその半分だから90度です。taresu6.gif (1373 バイト)

たまたま90度なの?
--どこでも90度になります。

これをターレスの定理という。この定理は、実に応用範囲が広い。
--二千五百年前というと、日本では繩文時代だな。ターレスって尊敬しちゃうよ。

    (参考文献  『数のはなしU』仲田紀夫著、『ピタゴラスから電子計算機まで』板倉聖宜編 )

『ターレスの定理の利用その1 斜面への応用』

syamen.gif (2273 バイト) --ターレスの定理って円周角の定理の特別の場合じゃないの?
 そのとおりだけど、この定理は応用が実に広いから独立の定理として名付けたのです。例えば、大工さんはこの定理と「さしがね」をつかって丸太の直径を簡単に求める事ができます。
--さしがねは直角三角形と言ってもいいよね。「左官さんの数学」に書いてあるよ。

 さらに、左の図のような斜面を転がり落ちる物体は重力(したへ引っ張られる力)が斜面を垂直に押す力と斜面にそってころがる力に分解されます。この時に直角三角形ができますね。この斜面にそってころがる力は斜面の傾きによって違います。一方重力は斜面が違っても同じだから、右の円のように直径であらわすと、斜面にそってころがる力は円周までの長さであらわす事ができます。

‐‐斜面の場合は力の平行四辺形が長方形だからターレスの定理が使えるのですね。これは「ガリレオと落体の法則」のところに出てきますね。

ターレスの定理の利用その2 直角三角形の合同条件への応用

tsankaku.gif (2141 バイト) 直角三角形の合同条件を示す時に、この定理を使うと簡単に証明できます。

‐‐何と言っても、分度器や三角定規を使わなくってもコンパスさえあれば直角三角形が描ける点が便利ですね。

ではこの図を見て、直角三角形の合同条件を見つけて見ましょう。

‐‐直角三角形は合同条件が二つあれば良いんだ。
‐‐斜辺と他の一辺がそれぞれ等しかったら合同だよ。
‐‐斜辺と他の一角がそれぞれ等しくても合同だ。

『ターレスの定理の利用その3 ピタゴラスの定理』

taresu9.gif (2012 バイト) ターレスの定理とピタゴラスの定理と結びつけるとどうなるか?

  【48、Javaで数学を遊ぼう】のページの

   【ピタゴラスの定理1】をクリック
    左の図の動画が出ます。

Aが円周上を動いても、2つの正方形の面積の合計は変わりません。そして、直径の作る正方形の面積と等しくなります。

エンピツをドラッグして円周にそって動かしてみて下さい。
‐‐変わらないものは∠Aだけではないんですね。
--これってピタゴラスの定理の証明になっていない?
 

『ターレスの定理の利用その4 円線図への応用』

 ここに「特殊相対性理論の新しい理解のしかた」時空間円線図法 浅野四郎・誠一著(東京図書)という本があります。アインシュタインの特殊相対性理論が、このターレスの定理を使って説明してあります。
 (ct)=(vt)+S(cは光りの速さ、tは時間、vは物体の速さ、Sは時空間隔)と表すと、これまたターレスの定理を使ってSを表すことができるのです。ちょうど斜面の円の様に、ctを直径にするとSはvがcに近くなるほど小さくなっていくのが分かります。
 詳しくは【143、100分de名著 アインシュタイン相対性理論】を見てください。

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