100分de名著 アインシュタイン相対性理論

中学生にもわかる、特殊相対性理論

T:100分de名著「アインシュタイン相対性理論」がとてもわかりやすかった。みんなにもぜひ見てほしい。このNHKの番組にそって、それを式で補いながら、中学生にもわかる特殊相対性理論を説明してみよう。
S:番組は見たけど、本当に中学生にもわかるの?
T:講師の佐藤勝彦先生はピタゴラスの定理さえ知っていれば、高校生にも理解できると言っていた。ピタゴラスの定理は中学三年生で習うから中学生にも理解できるはず。

1、二つの原理(仮説)

T:まず、次の二つの原理を理解しよう。

(1)ガリレオの相対性原理
 静止していても動いていても「物体の運動法則」は変わらない。

S:ちっともわからないよ。
T:例えば、君が時速200qで走る新幹線の中にいるとするよ。上に投げたみかんは時速200q(秒速56m)のスピードで後ろに飛んでいくの?
S:もちろん、その場に落ちる。後ろに飛んでいくんだったら、危なくて乗っていられないよ。
T:そうだよね。君がその場で飛んだら20mぐらい後ろに飛んでいくことになるけど、ちゃんとその場に落ちる。つまり、新幹線は揺れているだけで、時速200qで走っていても止まっている時と変わらないだろ。
S:飛行機でも同じだ。
T:でも、外で見ている人は、君たちもみかんもすごいスピードで動いている。例えば、このみかんを落としてみよう。君たちはまっすぐに落ちるように見える。でも、外にいる人から見ると放物線を描いて落ちていくように見えるんだ。
S:もう少しわかるように説明して。
T:じゃあ、電車が鉄橋を通るとする。窓から石を落すとどう下に落ちる?
S:まっすぐに落ちるように見える。

T:そこで、鉄橋の向こうからこの石の落ちるのをながめたら、どうなるんだろうか?
S:石は電車と一緒に動いているから、斜めに落ちていく。そういうことか。(加速度があるから放物線になる)

T:このことを、アインシュタインは光に拡張した。

(2)静止していても動いていても「光の物理法則」は変わらない。

S:光も新幹線の中では僕らと同じということか。
T:そうだよ。でも、光の場合は少し条件が加わる。それは、

「光速度はどんな時でも秒速30万qで不変である」ということだ。つまり、光の速度は静止していても動いていても変わらない。

S:僕らなら、新幹線の中で、進む方に走れば新幹線よりも早くなるけど、光は早くならないということ?
T:そうですよ!呑み込みが早い。
S:それなら、光の速さで進んでいるロケットから光を出しても光の速さは変わらないということか。変な気がするな。
T:アインシュタインも少年の頃、同じ疑問を持って考えたという。でも、自分が光の速さで進んでいる時に、光が止まってみえる方が絶対におかしいと思ったんだ。

この2つの原理から特殊相対性理論が生まれた。その結論は、(2)を認めると、時間が絶対ではないことがわかるということだ。

2、速度による時間の短縮

T:番組では「同時性の定義」をシュミレーションしていた。
S:シュミレーションってなに?
T:頭の中で実験をすること。アインシュタインは列車を使って思考実験をしている。番組では、小惑星に対して等速で動いている宇宙船で実験をしていた。
S:どんな実験なんですか?

T:すごいスピードで動く宇宙船の中で、真ん中から前後に光を出した場合、両側に光が到着するのは同時?それとも?
S:(2)を使うんだね。もちろん同時です。
T:じゃあ、それを小惑星から見ていたら、どう見えるんだろう?
S:新幹線の中でボールを前と後に同時に投げると、前後の壁に同時に着く。
S:車両の真ん中から等速で前後に打ち出すということでしょう。
S:それを外にいる人から見ると、後ろに向かったボールは新幹線の速さより遅くなり、前に向かったボールは早くなる。 でも、新幹線そのものが進んでいるので、壁にぶつかる時間は一緒だね。
T:ところが、光の速さはボールと違って宇宙船の速さには影響を受けずにいつも一定だ。

だから、宇宙船が移動するから後ろの側には光は早く到着する。前の側はすごいスピードで遠ざかるから光は遅く到着する。
S:同時じゃないんだ。宇宙船の中では同時だけど、小惑星から見ると同時じゃない。変だな。

T:見る場所によって、同時ではないということは、時間が異なっているということだ。
そこで、具体的にどれくらい時間が違うのかを調べてみよう。
S:それは中学生にもわかるの?
T:もちろん。シミュレーションとピタゴラスの定理を使って簡単に求めることができるよ。
それは、小惑星に対して一定のスピードで進んでいる宇宙船のシュミレーションだ。
ここで「光時計」が重要な役目をする。
光時計とは光が2分で往復している時計(片道1分)。
S:ということは、この宇宙船の幅は30万qということですね。
T:その通りです。下から上に向かって光時計の光が進みます。
宇宙船の中では、1秒で上に到着します。
ところが、これを小惑星から見ると、光時計の鏡も動いているので、光は斜めに進みます。

S:宇宙船の速度が加わるので、斜めに進むのですね。つまり、光の移動距離が長くなる。ということは、時間がかかるということか。
S:小惑星から見て一秒たった時、宇宙船の中の光時計はまだ上に達していない。
T:つまり、宇宙船の中では時間が進むのが遅くなっているということです。
S:小惑星から見た宇宙船の時間は遅れているということですね。
T:これを計算で出してみよう。
S:そうか。これは直角三角形だ。ピタゴラスの定理が使えるね。
T:数字を使うよ。

光の速さを c
宇宙船の速さを v
宇宙船の時間を t0
小惑星の時間を t1   とすると、

宇宙船は、OからBへ移動している。
小惑星から見ると、宇宙船の光時計の光の移動距離はOAになる。
距離はどう出すんだったけ?
S:速さ×時間です。
T:この距離OA=光の速さ×小惑星の時間=ct1
一方宇宙船の中の光時計の高さBA=光の速さ×宇宙船の時間=ct0
宇宙船の移動する距離OB=宇宙船の速さ×小惑星の時間=vt1

S:そうか、この図からピタゴラスの定理を使うと、
(ct02+(vt12=(ct12
(ct02=(ct12−(vt12
 ct0=√((ct12−(vt12

宇宙船の時間 t0=√((ct12−(vt12)/c
           =√(((ct12−(vt12)/c2
           =√(t12−(vt12/c2
           =√(1−v2/c2)t1

T:つまり、宇宙船の時間は小惑星の時間よりも、√(1−(v/c)2)だけ遅くなることになる。
S:うーん。式だけだと、どれくらい遅くなるのかイメージが浮かばないな。

3、時空間円線図でイメージする

T:では、それを図で示してみよう。
OAはロケットの速度によらずに一定(光速度不変の原理により)だから、これを直径とする円を描くよ。

S:円周角の定理で、∠Bは直角だ。ピタゴラスの定理が使えるね。
T:OAは光の進んだ距離。ABは宇宙船の進んだ距離。
OBは宇宙船の中の光時計の高さ。
OAに対するOBが時間の遅れ。

仮に宇宙船の速度を光の半分とする。v=0.5c
この直角三角形の辺には全てcがあるので、cで割ることができる。
S:そうか、これは三角定規だ。1:2:√3の比が使える。
AB:AO:OB=1:2:√3なので、OB=√3/2=0.87となる。

T:これは小惑星の時間1に対する宇宙船の時間の遅れを示している。
S:小惑星で1秒だったら、宇宙船では0.87秒。1時間だったら、52分か。


ということは宇宙船の速度が光の速度と比べてずっと遅かったら、

となって、OBとOAはそんなに違わない。
つまり、普通の生活では、時間が短縮することは気にしなくてもよい。

T:じゃあ、宇宙船が光の8割の速度ですすんでいるとするとどうなるかな?

S:えーと、0.8を10倍して、10:8=5:4だから、3:4:5の直角三角形になる。
つまり、OBは3×2=6だ。
つまり、OAが1秒ならOBは0.6秒。
小惑星が1時間なら宇宙船では36分。


S:もっと速度を大きくしてみよう。
宇宙船の速度が光の9割だったら、
v=0.9cだから・・・

左のようになって、かなり時間が短くなるね。小惑星の時間を1とすると、
√(1−0.9)=0.43だ。

S:宇宙船が光の速度になると、時間は0だよ。
S:これは、光にとっては時間が経っていないということ?光は歳をとらないんだ。
S:そうだよな。何十億光年の向こうの星雲から地球に届いた光にとっては、地球までの距離は0で、時間も0なんだ。

ジオジェブラでシュミレーション・・・ターレスと定理と円線図

S:ところで長さの方はどうなるのですか?
T:まったく同じだよ。距離=速さ×時間なので、距離(長さ)も同じ比率で縮む。

S:では、宇宙船から見た小惑星の時間はどうなるのですか? 早く進むのですか?
T:まったく同じことが言えて、今度は小惑星の時間が遅くなる。だって、宇宙船が止まっていて小惑星が反対側に動いていると考えても良いだろう。それが、相対性ということなんだから。
S:じゃあ、見ている場所が違うと時間の流れが変わるということで、宇宙船の中の時間が遅れたり、早くなったりするというわけではないのですか。

T:そこで出された、思考実験が「時限爆弾を積んだ宇宙船」

地球から見て1光年離れた惑星から、地球に向かって宇宙船が飛ぼうとしている。宇宙船には時限爆弾が積んであって、それは地球でしか解除できない。さて、宇宙船の乗組員は助かるか?
S:宇宙船が光より早く行くことはできないから助からないよ。
T:ところが、光の80%の速度で進む宇宙船の中では時間の進みが60%になった。到着するのに地球では1年以上(456日)かかっているけど、宇宙船では1年(292日しか)かかっていない。
S:ということは、宇宙船の時計と地球の時計の時刻は違っているということか。
S:でも、スタートするときには、惑星から地球までの距離は1光年で変わらないでしょう。それなのに、どうして292日で到達できるの?光よりも早いスピードになったの?

T:それは、空間が縮んだからです。宇宙船から見ると、惑星から地球までの距離が80%に縮むのです。
S:地球から見ると惑星までの距離は変わっていないけれど、動いている宇宙船から見ると縮んでいるわけか。
S:不思議ですね。
(ただし、この宇宙船は瞬時に光速の80%まで達し、瞬時に減速して地球に到達すると仮定する)

T:ここまでわかれば中学生としては立派ですよ。
でも、ここからは中学生には難しいから、興味のある人は自分で勉強してください。
アインシュタインの思考の流れだけを書いておきます。

4、速度の合成

 U=(v+w)/(1+(vw/c2) この式をどうやって導いたらいいのか。
 【速度の合成】 ジオジェブラ

5、光の速さを超えないことの証明

 v、w≦cならば
 U=(v+w)/(1+(vw/c2)≦cを証明せよ。
 相加平均≧相乗平均を使うと証明できる。

6、質量とエネルギー

 有名な公式 e=mc2 も特殊相対性理論から導くことができる。
 【速度と質量の増加】ジオジェブラ

7、そして一般相対性理論へ

 重力と加速度が同じであるというアイディア(等価原理)を使って、加速する運動体(系)にも使えるように特殊相対性理論を拡張した。
 等価原理と光速度不変の原理から空間が曲がることが導き出される。

8、あとがき

 参考文献【特殊相対性理論の新しい理解のしかた】時空間円線図法 浅野四朗、浅野誠一著

 27年前にこの本を読んだ時、これなら中学生にも特殊相対性理論がわかると思った。いつかこの授業をやってみようと思ったけど、やれないまま終わってしまった。TVを見てやっぱりやりたくなり、こうやって書いてしまったが、授業ができないのが残念。

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