「学びのレシピ」の作り方

― 教材を作るコツ ―

1、「プロフェッショナル」と「パーソナル」

 職人には名人芸といわれる技を持っている人が存在し、定年を過ぎても同じ職場にとどまって活躍できる人がいます。一方教員は定年を過ぎるとほとんど役に立たたなくなります。例外(芸能教科の教員)はありますが、教育の職人と言われる人が極めて少なくなっているのはなぜでしょうか。
 教育の仕事が専門職ではなくなり、職人が育たなくなっていることが一番大きな理由だと思われます。ですから情熱と体力勝負となり、歳をとって体力が衰えると子どもとつき合うことが辛くなってくるのでしょう。

 ところで、教師は教育におけるプロですが、その伝える内容においては専門家ではありません。教師はその道のプロ=専門家に教えてもらいながら、その内容を子どもたちに伝えるからです。教師が内容において専門家でないということは実は大事なことではないかと思います。私たち教師は無知であり未熟であるから、子どもたちと同じ立場に立って追求できるのです。
 でも、子どもたちの前に立った時には、その内容を教材として提示しなければなりません。その場合に、教育のプロとして「教材化」し提示することが必要になります。では、「教材化」とは何でしょうか。私は、「教材化」とは「家庭用料理のレシピ」を作るようなものだと考えています。
 レシピには営業用と家庭用の二通りがあります。営業用とは調理人のためのレシピです。教材で言うと、営業用は学者やその道のプロのためのレシピで、費用もかかり技術も高度でとても専門的です。
 家庭用(パーソナル)のレシピは、主婦(夫)のためのレシピです。安い材料と誰でも作れる方法を用います。でも、主婦(夫)はアマチュアとはいえません。強いて言えば、パーソナル(個人用の、小型で手軽な)です。
 家庭用のレシピは、誰でもできる素人の技術を用い、しかも美味しい料理を作ります。子どもたちには家庭用のレシピの方が適しています。私の提案は、「家庭用の《学びのレシピ》をたくさん作りませんか」ということです。

2、家庭用「学びのレシピ」をたくさん作るトレーニング

 最初は「まね」から入ります。他の人の作ったレシピを使います。優れたレシピはこんな素材でこんな素敵な料理ができるのかと感動を与えます。そのうちに、このレシピはこうしたらもっと美味しくなるのではと思いつきます。そして、自分でレシピを作った方が楽しいことに気がつきます。さらに、どんなことでも素材(教材)にできることにも気がつきます。
 どんな素材でも工夫次第ですばらしい料理になるということに気がつくと、自分でレシピを作ってみようと考えます。その場合、少しトレーニングが必要です。それは、身のまわりの全てのモノをとりあげて「問い」にするというトレーニングです。
 例えば、落ち葉をテーマにすると、「なぜ葉は落ちるのだろうか」という「問い」を思いつきます。
次にその答えの「予想」を考えます。
A、古くなって葉がボロボロになる B、木が不要だからと自分で切り落とす C、下から次の芽が出てくるから押し出されて落ちる D、その他
 こうやって予想の選択肢を作るだけでレシピができます。つまり、どんな問い(調理)を持つか、その問いが興味深い(美味しい)ものとなるかがポイントです。これが「教材化」です。

3、足を使って素材を探し、身体で料理を作る

 さて、このレシピ作り(=教材化)を身につけるためには、いくつかの努力が必要です。その一つが身体を使うことです。
 例えば、
 (1)100円ショップやホームセンターへ行って何かないか探す。
 (2)それらを利用して教材を作る。
 (3)それを子どもたちに見せる。
 たったこれだけです。生徒たちが「先生暇やなぁー」と言ってくれたら大成功です。今度は何を作ろうか、何を教材にしようと考え出します。
 
 ホームセンターで、菊の花を支える針金を売っていました。これを見たときにひらめいたのが、外角の和が360度になるという定理です。左を見せて「これは何だと思う?」と言いながら、菊の話や見つけた経緯を話します。
 そして、「この3つの外角をたすと何度?」と言って、おもむろに右のようにします。子どもたちはすぐに気がつきます。
 「では、この三角形を六角形にしたらどうなるだろう?」と聞きます。外角が自然に浮かび上がるのです。

 料理(数学)の面白さは出会いと偶然の面白さにあるといっても良いでしょう。教師がどれだけ楽しい素材(現象)を見いだせるかです。自身の楽しさの感性を磨くことが子どもたちの感性を磨くことにつながります。

4、アナロジーという方法・・・「たとえ」をつなげる「問い」

 ここまで読まれた方は、ここにも教材化(レシピ)の方法が隠されていることに気がついたと思います。それは、「教材化」ということを、料理のレシピに「たとえる」ことです。こうやって譬えるとぐっと身近になってきます。
 そうすると、この料理を作ってみたいと思わせるようなレシピの工夫に対応して、「学びのレシピ」にも様々な工夫があることにも気がつきます。その場合、素人の強みを生かすことです。わからないからこそ専門家に聞き、調べるということです。そうしているうちに「これは面白そうだ!」となります。

 もう一つ、私たちの現実に迫っていくためには、現実に働きかける必要があります。その働きかけは、最初は「問い」から始まります。この「問い」を子どもたちが自分自身のものにしたときに、現実に積極的に働きかけ、そこから様々なことを学んでいくことができます。教師は一方的に「問う」だけでなく、その「問い」を常に子どもたちのものにしていくことを意識しなければなりません。そのために教師は、身近な様々な現象に対して、常に興味を持ち「問い」を身につけているのです。    「数学教育」2012年1月号原稿

   【授業のレシピ・・・一日一個の楽しみと感動を!】←レシピの例です。

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