数学とモデル (正・負の数とモデル) 1999.3

数学はどこで役に立つか
これはプラモデルです。なぜ、こういうもの(モデル)を作ったのかわかりますか。
--売るため。遊ぶため。
今はそうだが、もともとはこれを使ってあることをするために作った。
--わかった。これで実験するために作ったんだ。
そうです。この模型を使って風の流れの実験をしたんです。大きすぎるとやりにくいのでも、小さいと実験が簡単にできるからね。さて、そこで数学でもモデルを使うと、考えを進めたり深めたりすることが簡単にできるんだよ。

・温度計をモデルにしてみると
今日はまず温度計をモデルにします。この温度計モデルの仕組みを調べましょう。
現在の温度が18度。だんだん寒くなっていくとどうなるかな。
--下へ下がっていきます。
0度よりも寒くなると?
--マイナスになります。
では、実際に温度計の目盛りを図に書き込んでみて下さい。(作業)
 
・数直線モデル
これとおなじようなものがほかにもあるよ。温度計や電流計などのように、何かを基準にして上か下かを決める時に使われます。そこで、温度計や電流計をモデルして数学モデルを作ります。それが数直線です。
--マイナスのついたメモリだね。
--0から右は定規だよ。
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     -3       -2      -1       0       +1      +2

こういうように、右にも左にも広がっているものはまだ他にもあるね。
--貯金と借金。
貯金がプラスで借金がマイナス。貯金が減っていくと0になり、更に減ると借金になるね。
--前と後ろ
--歴史年表

さて、こうやってモデルを作ると、よりよくわかることがあります。
例えば、21世紀は2000年から?2001年から?
--2001年から。
どうして、2000年でなくて、2001年からなの?
--だって、テレビで言っていた。
それは、この数直線でわかるんだ。キリストが生まれた年を紀元元年として・・・

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   -3      -2     -1           +1(元年)   +2      +3年

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    -301     -201     -101 (前1世紀)+1 (1世紀) +101           +201年

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      -3001     -2001     -1001       +1     +1001    +2001年

--あれ? 0年がない。どうして
そうだね。なぜ0年がないか。これはおもしろい問題だ。誰か調べてみてくれないかな。

   より調べたい人のために   「2000年問題と21世紀」へ


・赤と黒のゲームの世界(モデル)    取られると得でもらうと損?
さあ、今日はトランプで赤と黒のゲームをやるよ。負けたら痛いで。このゲームでは、このことが分からんと負ける。それは「取られると得で、もらうと損」ということや。普通は「取られると損、もらうと得」やけどその逆の世界もある。それを早く見つけた人が、きっと勝つだろう。 ルールはババ抜きと一緒。カードは1から人数分の数字までのカードを使う。ババは0とする。黒の数のカードは得点。赤のカードは減点。自分が一番得点が多いと思ったら「ストップ」をかける。ただし、一周してからでないと「ストップ」はかけれない。一番勝った人がしっぺができる。勝った順に手を重ねる。 さあ、やってみよう。
(合計の出し方をビッグトランプで説明。 さらに、これらのトランプ画像はインターネットで入手可能)
--やったー。
--おもしろい。
マイナス2とマイナス3ではどっちが上なの?
--そりゃ、マイナス3が上です。
どう?「取られると得でもらうと損」ということはわかった?
--わかった、わかった。

・正負の数の世界(モデル)
この赤と黒のゲームをモデルにして正・負の数の世界をつくるよ。
まず、次ぎのように置き換えよう。
 持ってくる ←→ + 足す
 取られる  ←→ − 引く
 減点    ←→ マイナス
 得点    ←→ プラス
こうすると、赤の3を持ってくるという事は+(+3)と数式で表せる。
自分が黒の3を持っている時に、赤の3を持ってきたら?
―(+3)+(−3)で差し引き0です。

では、(−2)+(−3)は?
―赤同士はたすから、マイナス5です。

こうやっていくと、赤と黒のゲームは全部式で表すことができますね。 そして負の数にも足し算や引き算を当てはめることができます。 さて、ここで(+2)−(−3)=はどうなるかを説明してみましょう。
― (−3)は赤の3だから、赤の3を引くと言うことは赤の3を取られるわけだから自分にとっては得で、黒の3をもらうと同じです。
―(+3)と(−3)でゼロでしょう。だから、(+2)+(+3)+(−3)−(−3)とやっても同じわけ。 で、これは結局(−3)−(−3)=0が消えて(+2)+(+3)と同じになります。

・キャッシュカードの世界
 このように、正・負の数の世界でも足し算や引き算が同じようにできます。 さて、この数の世界をモデルにしていろいろなモデルを考えることができます。例えば、貯金がマイナス10万円というと?
―借金が10万円ということだ。貯金が+、借金が−。

キャッシュカードなんか使いすぎるとマイナスになることがあるんですよ。
―そういうときはどうなるの?

マイナスのお金に3%の利息がつくと(−100000)×0.03=(−3000)となり、もらえる利息ではなく3000円払わなければいけなくなる。これが重なるとカード破産ということになるね。
他にも、電気のプラスとマイナス。磁石のSとN。男と女・・・+−の世界はいろいろありますね。

ロゴの世界(散歩の数学)
タートルが前へマイナス10進むとどうなる?
―「前へ」がプラスで−10進むのは10もどると起きかえると、
  「前へ」 ←→+(プラス)      進む←→+(たす)
  「後ろへ」←→−(マイナス)    もどる←→−(ひく)
―つまり、後ろへ10すすみます。

では、タートルが後ろへマイナス10進む(10もどる)という命令を与えるとどうなるかな?
―後ろの方へ向かって10もどるわけだから、前へ10進みます。
―このロゴの世界も正・負の数と同じわけか。
― −(−10)という数学の式はいろいろ翻訳できるわけですね。

この動きをするロゴ坊のプログラムを作ったので、紹介します。コピーして実行しみてください

・一方の世界からもう一方の世界を予測する
足し算・引き算はわかったけど、掛け算・割り算はどうだろう。
― (−3)×(+2)=(−6)です。
― (+3)×(−2)=(−6)じゃないかな。
では、(−3)×(−2)=はどうなると思いますか。
まず、正負の数の世界では(−)×(−)はどうなるのか考えて見よう。
― +3×(−2)=−6
― +2×(−2)=−4
― +1×(−2)=−2
―   0×(−2)=   0 だから、2ずつ増えているから次は
― −1×(−2)=+2
― −2×(−2)=+4
― −3×(−2)=+6  とこうなるんじゃないかなあ。

では、この予想を赤と黒のゲームの世界に当てはめてみると?
― たとえば掛け算を
          ×N ←→ 「同じ数をN回持ってくる」
          ÷N ←→ 「ある数をN等分して持ってくる」 と考えると
  マイナスをかける ←→ 「同じ数をN回取られる」 ということになる。
―だから、(−3)×(−2)は赤の3を2回取られるわけだから、結局得なわけだ。
―マイナス×マイナスはプラスになるのか。

これは、電気や磁気の世界でもなりたっていることだよ。例えば、電気の斥力をプラス、引力をマイナスとすると、(+)×(+)=(+)  (+)×(−)=(−)  (−)×(+)=(−)  (−)×(−)=(+)  つまりプラス同士もマイナス同士も斥力が生じるのです。
―一方の世界で成り立つことは、もう一方の世界でも成り立つわけか。

・1−(−1)=2 の証明
ところで以前、メールでこんな質問をしてきた人がいたよ。みんなだったらどう答える?

大変楽しく見させて貰っています。このHPを見るきっかけになったのが、私の彼女が「1−(−1)=2」はなぜ答えが「2」になるのか小学生の頃から分からないと言う話からです。その後、なぜ「0」が存在するのか?から、なぜ「マイナス」の世界が必要なのかという話しになっていきました。もっと進んで、宇宙に終わりがあるのか?という話まで様々です。さて、一つ教えていただきたいのですが、上に書いたように、なぜ、「1−(−1)=2」が成り立つのか教えていただきますでしょうか?理系の方にとっては当たり前のことかもしれませんが、文系なので分かりません。これからも楽しみにしてます。頑張って下さい。」
――トランプのゲームで説明したらわかるよ。赤の1を引かれるんだから自分にとってはプラスだよ。

うん、そうだね。トランプでの説明はわかりやすいけど、これは例え(モデル)であって証明ではないんだよね。
――こんなことを証明できるの?

これを数学的に証明しようとすると、とても大変なのです。
まず、1+(−1)=0 はよろしいでしょうか?
0も定義しなければならないのですが省略。
それから、(−1)−(−1)=0 これは同じものから同じものを引けば0になるという法則から来ています。
さて、この2つの式をたします。たしても0です。
1+(−1)+(−1)−(−1)=0
(−1)+(−1)=−2         と定義します。
1+(−2)−(−1)=0        両辺に2をたします。
1+(−2)−(−1)+2=0+2   交換法則を使って、
1−(−1)+2+(−2)=2      2+(−2)=0だから、
1−(−1)=2              証明終わりです。

――なんだかすっきりしないなあ。
――つまり、1+(−1)=0
(−1)−(−1)=0を前提にすると証明できるんですね。
――では、(−1)×(−1)=1同じように証明できるんですか?。

やってみましょう。
(−1)×1=−1  (@)       1をかけても変わらない。
1×(−1)=−1  (A)       交換法則。
−1÷(−1)=1  (B)       同じ数を同じ数でわれば1となる。
−1×1÷(−1)=−1÷(−1)  (@)の両辺を(−1)でわると、
−1×(1÷(−1))=1        右辺は1になる。
――1÷(−1)は−1だから −1×(−1)=1といえるよ。
――1÷(−1)=−1はどうして言えるの?

そうだね。1÷(−1)=−1は証明されていないね。実はこれは証明できないんですよ。
――証明できないのだったら正しいかどうかわからないのじゃないですか?

足し算の時は、1+(−1)=0と定義しました。かけ算でも−1×(  )=1になる(  )として−1を定義する必要があるのです。上の証明で言うと、1÷(−1)=−1と定義しないとだめなのです。そしてこのことは、−1×(−1)=1と同じことなのです。
――先生、それを定義しなくても分配法則を使えば証明できますよ。

えっ!どうやってやるの?
――0=(−1)×0=(−1)×(1+(−1))=−1×1+(−1)×(−1)=−1+(−1)×(−1)。 この−1を左辺に移項して、
   1=(−1)×(−1)。
――おーっ!! 

捨て札ゲーム
このゲームは、まず3枚のトランプを配ります。そして数字のカードをめくり、その数のトランプを手元から場に捨てていって、一番持ち点が多い人が勝ちというものです。
――捨てていくだけなら、手元のトランプはすぐになくなるよ。

ところが、なぜか捨てても捨ててもトランプはなくならないのだ。なぜかを考えてね。
(トランプは1から5までのカードを使う。残りのカードは場に見せてひろげて。ジョーカーは0。) ・・・

――+2を捨てたいけど、手元にないよ。
――場にある+2と−2を持ってきても0だから問題ないよ。それで、+2を捨てればいい。
――わかった。+2を捨てることは−2を持ってくることだし、−2を捨てることは+2を持ってくることと同じだ。
――そうか。手元になかったら、場から持ってこれるからね。それに0はどんな数にでもなるんだ。
――どういうこと? 0は0だろ。
――0は+2と−2にもなるし、+5と−5にもなる。+100と−100にだってなる。一億円得をする人がいれば一億円損する人もいる。
――無からどんな数でも生まれてくるみたいだね。

そうなんだ。正の数・負の数を使うと、0からどんな数でも生み出せるんだ。つまり、無からどんどん生み出せるということですよ。
――宇宙は無から誕生したという話を聞いたことがあるよ。

プラスとマイナスのものが対になって誕生したから、電気の+と−や磁石のSとNや物質と反物質などがあるんだよ。
――それで、この世の中には対になったものが多いのか。
――目は二つ、耳も手も足も肺も二つだよ。
――口は一つだよ。どうして口は一つなの?
――鼻も一つだよ。
――鼻の穴は二つだよ。
――口が二つあったら、どっちで喋ったら良いのかわからなくなるからだ。kuti.gif (1559 バイト)

動物の体は左右対称になっているから、器官は大体二つある。ところで、動物の体を単純にすると、パイプのようなものだということはわかる?ここに目や耳や手をつける。そういったものは二つあるけど、口は穴だから一つなのだ。穴だから目や耳とは違うんだ。
――なるほど。口の中や腸は外につながっているますね。

ここで問題を出すよ。『空のバスが来ました。5人の乗客が乗りました。次のバス停で7人降りました。バスの中には何人残っていますか?』
――0=2−2だから、(5+0)−7=(5+2−2)−7=(7−2)−7=−2。マイナス2人残っています。
――幽霊バスだ。
――反粒子の人間が残っているんだ。

参考文献 「聖なる対称性」ジョージ・ジョンソン著、「数学教室」、「数学の広場」遠山啓著

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