中学生にもわかるガロア理論
中学生にもわかるガロア理論の試み
方程式はなぜ解けるのか
0、方程式はなぜ解けるのか
ガロア理論をわかり易く表現するにはどうしたら良いのだろうか。
「わかる」ということを追求してきた私にとって、いつか試みたいテーマだった。
その試みは、よく知っている二次方程式から始めるというもの。
そして、証明なしで体験的ストーリーでイメージをつかんでいくという方法をとる。
計算は大変だけど、中学生にもできる計算だ。鉛筆を持って計算しながら読み進めて欲しい。
ガロア理論の持っている深い思想は、現代の様々な科学に及んでいる。
わからないことを調べるときに、すでに良く知っていることと対比しながら理解していく。
その理解という行為がまさにガロアの対応なのだ。
私はその対応を「指し示し」と呼んでいるが、
学ぶという行為もその「指し示し」が指し示していることを見ることに他ならないと思う。
ガロアの指し示したものとはどんなことだったのか、一緒に考えてみよう。
さて、1次方程式は有理数の範囲で必ず解ける。ここでは係数は有理数(Q)としよう。
1、二次方程式の解き方(完全平方から対称式へ)
二次方程式 X2+aX+b=0 ・・・(1)
の根をα,βとすると、(根は有理数ではない)
(X−α)(X−β)=0 だから、展開すると
X2−(α+β)X+αβ=0 ・・・(2)となる。
つまり、
α+β=−a
αβ=b
である。この式を2次の基本対称式と言う。
対称式(αとβを入れ替えても変わらない式)だったら、
この基本対称式を組み合わせて作ることができるので、aとbの組合わせでαとβを求めることができる。
【この対称式についてはこのサイトに詳しい『4次方程式の代数的解法について』】
ここでαとβは入れ替えても(1)や(2)の値は変わらないという性質を利用する。
つまり、入れ替えても変わらない式は他にないか探してみよう。
α+β=−a だから、次にα−βを考えてみる。
S:なぜα−βなの?
T:こうすれば連立方程式で解けるから。それにαとβを入れ替えても、式の値は+−が違うだけ。
この式は対称式ではないのでaやbで表すことはできない。
でも、2乗すれば対称式(αとβを入れ替えても同じ値をとる)になる。
(α−β)2=α2−2αβ+β2
=α2+2αβ+β2−4αβ
=(α+β)2−4(αβ)
=a2−4b・・・(3)
このように基本対称式で表すことができるので、係数a,bで置き換えることができる。
(3)の平方根をとって、
α−β=±√(a2−4b) (√の中は0ではない)
すると、連立方程式ができて
L1=α+β=−a
L2=α−β=±√(a2−4b)
だから、L1とL2を足して
2α=−a±√(a2−4b)
α={−a±√(a2−4b)}/2 ・・・(4)
L1からL2を引くと
β={−a[-+]√(a2−4b)}/2 ・・・(5)
となって解の公式が見つかる。
S:解の公式はX={−b±√(b2−4ac)}/2a と覚えているけど。
T:aX2+bX+c=0 をaで割って、
X2+(b/a)X+(c/a)=0 として計算すれば。
S:あっ、ちゃんと出てくるね。
これは係数が有理数の二次方程式の根の図です。体のイメージを体感してください。
2、「体」という数の世界(二次方程式はなぜ解けるのか)
さて、ここで考えたいのが根の交換の意味である。
αとβを交換するということは(4)(5)を見ると、+と−の交換になっていることに気がつく。
a2−4b=D とすると、α⇔βは √D⇔−√Dということだ。
でも、√D→−√Dを変えてしまうと、対称式は良いけれど、他の式では変わってしまい、計算がめちゃくちゃになってしまう。
これはどう考えたら良いのだろうか。
視点を変えてみよう。
最初、係数は有理数と考えた。つまり、有理数の世界の中だけでは二次方程式は解けない(因数分解できない)。
では、どういう世界だったら二次方程式が解けるのかというと、有理数に√Dを付け足した数の世界の中でだ。
その世界はどういう数の世界か。
式で表すと、
a+b√D (a,b,Dは有理数)
この数の世界には有理数が含まれる。(b=0の時)
そして、この数の世界では、この数を計算してもその結果は必ずa+b√Dとなる。
足し算はすぐにわかると思う。
かけ算は、
(a+b√D)(a'+b'√D)=(aa'+bb'D)+(ab'+a'b)√D
となって、やっぱりa+b√Dの形になる。他の√が出てこないのだ。割り算も同じ。分配法則も成り立つ。この数の世界を「体」という。
さて、ここで√D→−√Dの意味を考えると、aは変えないで、√Dの符号を変えるということになる。
それは、a+b√Dの数の世界の計算をどう変えるのだろうか。
この変換は関数と考えることができるのでf(a+b√D)=a−b√D とする(√Dだけ符号を入れ替える)。
f{(a+b√D)+(a'+b'√D)}
=f{(a+a')+(b+b')√D}
=(a+a')−(b+b')√D
=(a−b√D)+(a'−b'√D)
=f(a+b√D)+f(a'+b'√D)
となり、足し算もそのまま計算できることになる。さらに、かけ算もやってみよう。
f{(a+b√D)・(a'+b'√D)}
=f{(aa'+bb'D)+(ab'+a'b)√D}
=(aa'+bb'D)−(ab'+a'b)√D
f{(a+b√D)・f(a'+b'√D)}
=(a−b√D)・(a'−b'√D)
=(aa'+bb'D)−(ab'+a'b)√D
で同じになる。a+b√Dをa−b√Dに移しても、計算の構造は成り立っている。
これを自己同型(写像)という。(さらに言えばf・g(α)=f(g(α))とすれば位数2の群になる)
この平面(a+b√Dの世界)は、X軸に対して対称になっている。
この図の中で足し算を表してみよう(試しに、(a+b√D)+(a´+b´√D)を図に表してみよう)。
足し算は平行四辺形になる。つまりベクトルと似ている。
これ自体が不思議なのだが、こういう対称性がある世界ということなのだ。
このa+b√Dの世界をQ(√D)と表す。
そして、この世界では二次方程式は因数分解できて解を求めることができる。
S:じゃあ、整数でマイナスとプラスを入れ替えても同じことが言えるの?
S:そうなれば、貯金の多い人と借金の多い人が逆転するよ。
T:整数の世界では+と−は対称に見えるけど、対称では無い所があるんだ。
(−)×(−)=(+)だろ。これが、入れ替えると(+)×(+)=(−)となって都合が悪くなる。
足し算だけだったら0で対称なんだけど、かけ算は1を中心としてで対称だからダメなんだな。
S:つまり、y軸では対称にならないんだな。
【方程式と体の拡大について、慶応大学の坂内教授のビデオがある。
特に方程式による代数的拡大を、
多項式環のイデアルで割っている所がとても良い】
3、三次方程式の解き方
ここで、三次方程式 X3+aX2+bX+c=0・・・(6)
について同じように考えてみよう。もちろん根は有理数ではない(=Qで既約)
(X−α)(X−β)(X−γ)
=X3−(α+β+γ)X2+(αβ+βγ+γα)X−αβγ
=0 ・・・(7)
(6)と比較して3次の基本対称式を作る。
α+β+γ=−a
αβ+βγ+γα=b
αβγ=−c
これと「根の交換」を使って三次方程式の解の公式を求めてみよう。
ここで、根の交換を考えてみると、3!=6個ある。
2次の場合は2通り(「変えない」も入れて)しかなかったが、一気に増えた。
(αβγ)(αγβ)(βαγ)(βγα)(γαβ)(γβα)
まず、根をどのように入れ替えても(6)の式の値は変わらない(対称である)。
ここで、直接根を求めるのは難しいので、二次方程式と同じようにα,β,γを使った中間の式を考える。ただ、この場合1の3乗根を使う。
S:なぜ?
T:2次の時は1の2乗根を使ったよ。
S:1の2乗根って−1でしょ。どこで使ったの?
T:α−β=α+(−1)βで使ったよ。
S:1の3乗根って?
T:X3=1となるX。
S:そんなの1でしょ。
T:実は代数方程式で大事なことがある。それは、三次方程式だったら必ず根が3つある(重根を含んで)と言うことなんだ。だから1の他にあと二つある。
X3−1=(X−1)(X2+X+1)=0
これは、X−1=0又はX2+X+1=0だから、
X2+X+1=0を解けばいい。
X={−1±√(−3)}/2
S:√の中にマイナスが出てくるけど、どういう意味?
T:2乗すると−3になる数を考えるということなんだ。
そうすると、より広い数の世界が広がってくる。
{−1+√(−3)}/2=ωとすると
ω2={(−1+√(−3)}/2)2=({−1−√(−3)}/2
となってしまう。もちろんω3=1 , ω2+ω+1=0
ここで、ωとα,β,γを使って3元連立方程式をつくってみよう。
L1=α+β+γ=−a
L2=α+βω+γω2
L3=α+βω2+γω
S:なぜこういう式にするの?
T:こういう因数分解の式がある。
x3+y3+z3−3xyz=(x+y+z)(x+ωy+ω2z)(x+ω2y+ωz)
展開するとωが消えてしまうんだ。
あとL2とL3がわかれば連立方程式だから、α,β,γの値がわかる。
でも、L1は対称式だけど、L2とL3は対称式ではない。
では、この2つの式からどうやって対称式を作るか。実はωの性質を使うと簡単にできる。まずかけてみよう。
L2・L3=(α+βω+γω2)(α+βω2+γω)
=α2+αβω2+αγω+αβω+β2+βγω2
+αγω2+βγω+γ2
=α2+β2+γ2+(αβ+βγ+αγ)ω
+(αβ+βγ+αγ)ω2
=α2+β2+γ2+(αβ+βγ+αγ)(ω+ω2)
=α2+β2+γ2+(b)(−1)
(α+β+γ)2=α2+β2+γ2+2(αβ+βγ+αγ)
だから
L2・L3=(α+β+γ)2−2(αβ+βγ+αγ)−b
=(−a)2−3b
あとL2+L3が求まれば、二次方程式を作ることができる。
でも、L2+L3=α+βω+γω2+α+βω2+γωは対称式ではない。
どうしたら対称式(根を交換しても変わらない式)ができるか。
この式の根を交換してみよう。交換の場合は、3!=3・2・1=6通りある。
L2=α+βω+γω2
L3=α+βω2+γω
この場合L2だけやってみれば全ての交換が出てくる(同じことだから)。
(αβγ):α+βω+γω2=L2
(αγβ):α+γω+βω2=α+βω2+γω=L3
(βαγ):β+αω+γω2=αω+β+γω2
(βγα):β+γω+αω2=αω2+β+γω
(γαβ):γ+αω+βω2=αω+βω2+γ
(γβα):γ+βω+αω2=αω2+βω+γ
これはωに注目すると二つに分類できる。
(αβγ):α+βω+γω2=α+βω+γω2=L2
(βγα):β+γω+αω2=αω2+β+γω
(γαβ):γ+αω+βω2=αω+βω2+γ (これらが偶置換)
(αγβ):α+γω+βω2=α+βω2+γω=L3
(βαγ):β+αω+γω2=αω+β+γω2
(γβα):γ+βω+αω2=αω2+βω+γ
それぞれωをかけていくと出てくるグループだ。
(αβγ)を変えない置換をeとすると、この根の置換はωをかけていくとできる。
e :α+βω+γω2=α+βω+γω2=L2
e・ω2 :β+γω+αω2=αω2+β+γω
e・ω :γ+αω+βω2=αω+βω2+γ
(αγβ) :α+γω+βω2=α+βω2+γω=L3
(αγβ)・ω :β+αω+γω2=αω+β+γω2
(αγβ)・ω2 :γ+βω+αω2=αω2+βω+γ
そうすると、このそれぞれの3つの式をかけると、
e・(e・ω2)・(e・ω)=e3=L23
(αγβ)・(αγβ)・ω・(αγβ)・ω2=(αγβ)3=L33
と二つにまとめることができる。計算をすると、
L23=(α+βω+γω2)3
=α3+β3+γ3+6αβγ
+3ω(α2β+β2γ+αγ2)
+3ω2 (αβ2+βγ2+α2γ)
L33=(α+βω2+γω)3
=α3+β3+γ3+6αβγ
+3ω2 (α2β+β2γ+αγ2)
+3ω(αβ2+βγ2+α2γ)
この二つの和が対称式になることに気がつく。
(すべての互換で値が変わらないように作ったわけだから対称式になるのは当然)
L23+L33=2(α3+β3+γ3)+12αβγ
+3(ω+ω2)(αβ2+βγ2+α2γ)
+3(ω+ω2)(α2β+β2γ+αγ2)
=2(α3+β3+γ3)+12αβγ
+3(−1)(αβ2+βγ2+α2γ)
+3(−1)(α2β+β2γ+αγ2)
=2(α3+β3+γ3)+12αβγ
−3(αβ2+βγ2+α2γ
+α2β+β2γ+αγ2)
(α+β+γ)3=α3+β3+γ3+3(α+β+γ)(αβ+βγ+γα)−3αβγ
だから、すべて基本対称式になり、したがって係数で表すことができる。
(L23=R1 L33=R2 とする)
R1+R2=2(α+β+γ)3−9(α+β+γ)(αβ+βγ+γα)+27αβγ
=2a3+9ab−27c
また、さっきのL2・L3=a2−3bを3乗すると、
R1・R2=(a2−3b)3
根と係数の関係により、R1とR2はこれを根とする二次方程式
T2−(R1+R2)T+R1・R2=0 を解けば求めることができる。
二次方程式を解くと、
T=[−(2a3+9ab−27c)±√{(2a3+9ab−27c)2−4(a2−3b)3}]/2
となって、R1とR2が求まる。
さらに、これの3乗根をとればL2とL3が求まる。
そして、3元連立方程式を解けばα,β,γが求まる。
α+β+γ =−a
α+βω+γω2=L2
+)α+βω2+γω=L3
3α =−a+L2+L3
というように。
4、三次方程式はなぜ解けるのか
ここで、この解き方の意味を探ってみよう。
まず、大きなストーリーは、方程式を解くために、置換を利用して対称式を作り、その対称式でより小さな次数の方程式を作って、解を求めていくという方向だ。
この対称式がいくつできるのかが大事な問題で、その次数以上の数になっては意味がない。
この場合、6通りの置換で取る値が2通りしかないという点が解けるポイントである。
また、最初は全ての置換に対して対称であり、解を求めるために方程式を解く(ベキ根をとる)と、対称性が少しずつ崩れていくという筋道になっている。
つまり、対称性が少しずつ崩れていくということに対応して、逆に体の世界は拡張している。そこを見てみよう。
この方程式の根は、有理数の中にはない。(判別式によるが)
では、根をどのように変形すれば有理数の中で計算できるか。
まず、根にωやω2 をかける。つまり、a+bωを入れる。
それは、有理数にωを付け加えることに当たる。式でいうと、a+bωの世界である。
この世界の要素は、a+bω+cω2 と表すことができる。
この世界の中では、3根の和を3乗して加えると対称式ができ、係数で表すことができる。
この場合、対称式だから根の置換は全ての置換に対して値を変えない。これらは、全てm+nωの世界の中でできる。
次に、この対称式から二次方程式ができるので解くことができる。
T2−(R1+R2)T+R1・R2=0
ここで二次方程式でやったように考えると、
(R1−R2)2=(R1+R2)2−4R1・R2…@ となって対称式になる。
(R1−R2) =±√{(R1+R2)2−4R1・R2}…A
@の左辺は対称式なのに、Aの左辺は対称式ではない。
つまり、@はα,β,γをどのように入れ変えても同じ値をとるけど、Aでは(R1−R2)と(R2−R1)が違うので2つの値になってしまう。
ということは、√をとると対称性が減っているということだ。→【詳しい解説】
では、どれくらい対称性が減っているのかというと、
根の偶置換((123)=(12)(23)というように偶数の互換でできている置換)では±(R1−R2)の値は変わらない。
つまり、偶置換では成り立っている。
これまで根の置換を考えてきたが、方程式を解くときに、
根の置換が重要な意味を持っていることがおぼろげながら浮かんでくる。
そこで、この置換そのものの集まりを考えると、一つの構造を持っていることに気がつく。
それについては後で取り上げるが、とりあえず3つの根の置換を3次の対称群S3という。
偶置換の集まりも群となる。
そして、偶置換はS3の部分集合であると同時に部分群になり、これを交代群A3と言う。
S:√をとっても、6つの置換のうち半分の偶置換では成り立っているのですね。
T:そして、3√ を取ると対称性は完全に壊れ、群(成り立つ置換)はe(変えない置換)のみになる。
eのみの群(置換)になったとき、その方程式は解けたという。
体の方でいうと、それは元の体をだんだん拡張していくことにあたる。群(置換)の方はだんだん小さくなっていく。
S:ガロアはこの群と体の関係を見抜いたんだ。
S:この体の方の関係も面白いよ。方程式の公式は冪根を使うんだ。
体 群(置換)
Q(ω)=L ○ ○ 三次方程式の対称群(根の置換)=S3
| |
| | 二次方程式にする
L(√D)=M ○ ○ √をとる=偶置換で変わらない
| | A3=交代群
| |
M(3√R)=N ○ ○ 3√をとる
解けた!
S:これを二次方程式に当てはめるとどうなるの?
T:良い問題だね。やってみよう。
体 群(置換)
Q(有理数) ○ ○ 2次方程式の対称群(根の置換)=S2={e,(1,2)}
| | 二つの根を入れ替えても(対称)式の値は変わらない
| |
Q(√D) ○ ○ √をとる={e} ⇒根の対称性は無くなる=根が見つかる
↓ 解けた!
a+b√Dの世界では因数分解できる
S:つまり方程式が解ける世界(体)と根の置換との関係には密接な関係があるということですね。
5、置換群を調べる…根の置換は群である
有理数にωとω2 を加えた世界Q(ω)では3つの根の対称式を作ることができる。
つまり、3つの根の置換はすべて成り立っている。
この置換は3!=3×2=6通りあって、置き換えを演算として群をなす。
わかり易くするために表を作ってみよう。
(23)は根に番号をつけ、2番目と3番目を入れ替える。(123)は1→2→3→1と置き替える置換を表す。
(123)(123)は、αβγを(123)と置き換えるとγαβとなり、さらに(123)と置き換えるとβγαとなる。
これはαβγを(132)と置き換えたものと等しいので、(123)(123)=(132)とみなすことができる。
| e (123) (132) (12) (13) (23)
e | e (123) (132) (12) (13) (23)
(123)|(123) (132) e (23) (12) (13)
(132)|(132) e (123) (13) (23) (12)
(12)|(12) (13) (23) e (123) (132)
(13)|(13) (23) (12) (132) e (123)
(23)|(23) (12) (13) (123)(132) e
この群を3次の対称群S3という。この表を使うと、さっきの分類は次のようになる。
e =(αβγ)=α+βω+γω2
e(123)(123)=e(132)=e×ω2=(βγα)=αω2+β+γω
e(123)=e×ω=(γαβ)=αω+βω2+γ
(23)=(αγβ)=α+βω2+γω=L3
(23)(123)=(12)=(αγβ)×ω=(βαγ)=αω+β+γω2
(23)(123)(123)=(13)=(γβα)×ω2=αω2+βω+γ
この分類は、{e,(123),(132)}と{(23),(12),(13)}に分けられるからできたことになる。
前の方の置換は(123)=σ=ωとすると、σ2=(132)=ω2 だから、
{e,(123),(132)}={e,σ,σ2}=A3 となり、巡回群(σだけで生成される群)となる。
そして、表からなぜωとω2になっているのかもわかる。
また、A3は偶置換(例えば、(123)1=(12)(23)のように偶数個の互換からできている置換)
の集まりで、偶置換どうしの演算はもちろん偶置換になるから群をなし、
S3の部分群になっている。
さらに、この群は元の群を二つに分ける。
この部分群Aを一つにまとめe(単位元)とすると、{eA,(23)A}という新たな群(S3/A3)ができる。
これを剰余群という。これについては後でとりあげる。
三次方程式が解けたのは、根の置換は6種類あるけど、その値は2種類になってしまうからだ。
体 群
Q(ω)=L ○ ○三次方程式の対称群S3={e,σ,σ2,τ,στ,σ2τ}
↓ | | ↓部分群
拡大 | | 2次方程式にする
L(√D)=M ○ ○√をとる=偶置換で変わらない
↓ | | 交代群A3={e,σ,σ2}
拡大 | | ↓部分群
M(3√R)=N ○ ○ 3√をとる{e}
解けた!
S:群と方程式を解くことの関係が何となくイメージできたような気がする。
S:部分群と拡大体が対応しているね。
6、四次方程式の解き方
次は四次方程式を同じように解いてみよう。
X4+pX3+qX2+rX+s=0・・・(1)
の根をa,b,c,dとする。根と係数との関係(基本対称式)は?
S:(x-a)(x-b)(x-c)(x-d)=0を展開すれば良い。
根と係数の関係は、
a+b+c+d=−p
ab+ac+ad+bc+cd=q
abc+abd+acd+bcd=−r
abcd=s
T:4元連立方程式に見えるが、これを解くと(1)に戻ってしまう。ここにもう一つ、根の関係式を作りだしてみよう。
それは、(a+b)−(c+d)という式。(この分解式はいろいろ考えられる。本当はiを使ってやりたかったけど計算が大変!)
ところが、この値がわからない。わからないが、対称式にすれば基本対称式から係数で表すことができる。
まず、三次方程式でやったように、この式に置換を施してみる。置換は全部で4!=4・3・2・1=24通り。
この24通りを全て施してみると、6通りの値をとることがわかる。
実際に根に番号を振って、1234と並べるとどう変わっているか調べる。
1234 ⇒ e
1243 ⇒ (34)
2134 ⇒ (12)
2143 ⇒ (12)(34)
これは同じ値になる。
3412 ⇒ (13)(24)
3421 ⇒ (1423)
4312 ⇒ (1324)
4321 ⇒ (14)(23)
これは符号が−になる。ということは2乗すれば同じ値になる。
8通りが同じ値になるのだから、24÷8=3となり、他にもあと2通りの式が求まる。
それは、(a+c)−(b+d)と(a+d)−(b+c)
2乗して
L1=((a+b)−(c+d))2
L2=((a+c)−(b+d))2
L3=((a+d)−(b+c))2
この3つの式を試してみれば、それぞれ8通りの置換で同じ値になり、すべての置換では異なる値を取ることがわかる。
これを対称式にするためには、全ての互換(全ての置換でなくても)で、式の値が変わらないようにしなければならない。
そのためにはL1,L2,L3の基本対称式を作る。
まず、L1+L2+L3を計算してみよう。
この計算は、http://www.wolframalpha.com/ に任せれば良い。
下の数式を入力してみよう。
(a+b-c-d)2+(a+c-b-d)2+(a+d-b-c))2
=3a2-2ab-2ac-2ad+3b2-2bc-2bd+3c2-2cd+3d2
=3(a2+b2+c2+d2)-2(ab+ac+ad+bc+bd+cd)
S:(a+b+c+d)2
=a2+b2+c2+d2+2(ab+ac+ad+bc+bd+cd)
だから、a2+b2+c2+d2=p2−2qだね。
すると、L1+L2+L3=3p2−8qだ。
L1+L2+L3=T1 は間違いなく対称式になる。
同様に
L1・L2+L1・L3+L1・L3=T2
L1・L2・L3=T3
と全て基本対称式になるので、係数で表すことができる。
この3つの式は三次方程式の根と係数の関係なので、L1,L2,L3を解とする三次方程式を作ることができる。
(X−L1)(X−L2)(X−L3)=0
X3−(L1+L2+L3)X2+(L1L2+L1L2+L2L3)X−L1・L2・L3=0
すでに三次方程式は解くことができたので、L1,L2,L3が求まる。
L1,L2,L3が求まれば、√をとって、
(a+b)−(c+d)=√L1(これは係数の式なっている)
(a+c)−(b+d)=√L2
(a+d)−(b+c)=√L3 これに
a+b+c+d=−p
を加えれば、この連立方程式を解くことができ、a,b,c,dを求めることができる。
2(a+b)=√L1−p
+2(a−b)=√L2−√L3
4a=√L1+√L2+√L3−p
・・・
計算するのが大変なだけで、理屈は三次方程式よりも簡単かもしれない。
7、四次方程式はなぜ解けるのか
三次方程式は二次方程式に置き換え、四次方程式は三次方程式(つまり二次方程式)に置き換えて解くことができた。
それができたのは対称式のおかげである。
しかも、その対称式がそれぞれの次数よりも一つ少ない数になるからである。
S:つまり、四次方程式は、二次方程式を解いて3√をとり、さらに√をとるんだね。
これを根の置換群で考えると、三次方程式の場合は3つの根の置換は3次の対称群
(3個の置き換えは6つの元の群)になる。
四次方程式の場合は4次の対称群(4個の置き換えは24個の元の群=S4)だ。
群というのは、演算に閉じていて、単位元と逆元があるもの。さっきの表は3次の対称群S3だ。
私たちの身のまわりにはこの群になるものがたくさんある。
対称群ということからイメージできるように、対称なものは対称群をなしている。
方程式でいうと根の置換は群をなしている。その対称群が根号を取るたびに対称性を崩していき部分群が小さくなっていく。
体 群
有理数=Q ○ ○ 四次方程式の対称群=S4
| | 三次方程式にする
| | 二次方程式にする
Q(√D)=M ○ ○ √をとる=偶置換で変わらない
| | A4=交代群
| |
M(3√R)=N ○ ○ 3√ をとる
| | X4=クラインの四元群
N(√L) | | √をとる
○解けた!○ {e}
S:方程式を解くということは、n√(冪根)を付け足していくことなんだね。
S:体と群が密接につながっていることもわかった。
ガロアは方程式に対応した群があると考えた。それをガロア群と言う。
きちんとした定義をする前に、大まかなイメージを探ってみよう。
そのためにガロア群を具体的な方程式について考えてみよう。
8、具体的な方程式のガロア群…二項方程式の解き方
X5−1=0・・・(1) 根は1の5乗根である。
X5−1を(X−1)で割ると、(Qで既約にする)
X4+X3+X2+X+1=0・・・(2)が出てくる。
この方程式をガロア群を用いて解いてみよう。
四次方程式だから6でやったようにすれば解けるのだが、この方程式はもっと簡単に解ける。
ガウス平面でオイラーの公式を使えば簡単だが代数的に解く。
なお、この部分は省略して直接L1とL2へ行っても大丈夫。
まず、原始5乗根をχとすると、(1)の根はχ,χ2,χ3,χ4,χ5=1
(2)の根はχ,χ2,χ3,χ4とかなり限定される。
この根の置換は群となるはず。
χ→χ2 とすれば、他の根の行く先も必然的に決まる。
χ→χ2 χ2→χ4 χ3→χ6=χ χ4→χ8=χ3・・・(1243)
以下同様に、
χ→χ3 χ2→χ χ3→χ4 χ4→χ2・・・(1342)
χ→χ4 χ2→χ3 χ3→χ2 χ4→χ・・・(14)(23)
これは、S4の部分群になっている。
群の表を作ると、
| e (1243) (14)(23) (1342)
e | e (1243) (14)(23) (1342)
(1243) | (1243) (14)(23) (1342) e
(14)(23)| (14)(23) (1342) e (1243)
(1342) | (1342) e (1243) (14)(23)
(1243)=σとすると、(14)(23)=σ2、(1342)=σ3となる。
σでまとめると、
| e σ σ^2 σ^3
e | e σ σ^2 σ^3
σ | σ σ^2 σ^3 e
σ^2 | σ^2 σ^3 e σ
σ^3 | σ^3 e σ σ^2
4根の置換は24通り(4・3・2・1=24)あるが、この方程式の場合は4通りになってしまった。
{e, σ,σ2,σ3}=Aという位数4の巡回群(Z4になる。)
(ここまでは根を求めることとは直接は関係ないが、根の置換群の例としてあげる)
この群の部分群は、{e}と{e,σ2}の2つ。
{e,σ2}は4乗が起こす置換で正規部分群(これは重要な部分群で、詳しくは9で説明)
この置換σ2=(14)(23)で、4根は次のように
{χ,χ4}と{χ2,χ3}の2つに分類できる。
σ(χ,χ4)=χ2,χ3 σ2(χ,χ4)=χ,χ4 σ3(χ,χ4)=χ2,χ3
σ(χ2,χ3)=χ,χ4 σ2(χ2,χ3)=χ2,χ3 σ3(χ2,χ3)=χ,χ4
だから、それぞれを足して、
L1=χ+χ4
L2=χ3+χ2
と置き、積と和を作るとσ,σ2,σ3で値は変わらない上にその数値もわかる。
L1+L2=χ+χ2+χ3+χ4=−1
L1・L2=χ+χ2+χ3+χ4=−1
よって、二次方程式 t2+t−1=0を解けば、L1,L2が求まる。
L1=(−1+√5)/2
L2=(−1−√5)/2
つまり、χ+χ4=(−1+√5)/2 χ・χ4=1
χ3+χ2=(−1−√5)/2 χ3・χ2=1
同様に二次方程式 t2−{(−1+√5)/2}t+1=0
を解けばχとχ4が求まる。
χ={−(−1+√5)/2}±√[{−(−1+√5)/2}2−4]・・・(3)
χ2とχ3も同じように求まる。つまり、√を二回とれば根が見つかる。
{e,σ,σ2,σ3}が方程式(2)のガロア群である。
今までガロア対応は上から下へと書いてきたが、今度は逆に書く。
体 群
N((3)の√) ○ ○ {e}
↑√をとる | |
二次方程式を解く| | ↑部分群
Q(√5)=N ○ ○{e,σ2}
↑√をとる | | 偶置換で変わらない(χ4+χ,χ3+χ2の値はσ2で変わらない)
二次方程式を解く| | ↑部分群
Q=有理数 ○ ○{e,σ,σ2,σ3}
(χ4+χ3+χ2+χ=-1はσ,σ2,σ3で変わらない)
この方法はX7−1=0でも同じように使えて、最初二次方程式を解き、次に三次方程式を解いて根を求めることができる。
6次方程式が代数的に解けてしまうことが驚きだ。
もっとも、ガウスは19歳のある朝、X17−1=0の代数的な解き方(√だけを使う)を求める方法を思いついたというからすごい。
そういえば、ガロアもガロア理論を創ったのが数学を学び始めて3年目の17〜8歳だった。
X17−1=0のガロア群は、エクセルで計算した方が簡単である。【エクセルデータ】
この群を見ると、どういう群なら方程式が解けるのかがわかってくる。
今度は方程式のガロア群だけでなく、対応する中間体も調べてみよう。
9、方程式のガロア群=拡大体のk−自己同型群
もっと具体的な方程式のガロア群を調べてみよう。
そしてガロア群と拡大体の関係を調べてみよう。
(1) X2+3X+1=0
この方程式の根はX=−1.5±0.5√5
だから、有理数だけの世界の中では解くことができない。
でも、有理数に√5を加えた世界では解くことができる。
有理数に√5を加えた世界は、有理数と√5でできた世界である。
これをQ(√5)と表し、Q(有理数)を拡大した数の世界(体)という。
この世界の数はa+b√5と表され、四則はすべて成り立つ。
この世界(=Q(√5))では、方程式(1)は
{X−(−1.5+0.5√5)}{X−(−1.5+0.5√5)}=0
と因数分解できる(解くことができる)。
根を置換すること(α⇔β)は、Q(√5)の世界で見るとどういう意味を持っているかというと、
Q(√5)からQ(√5)への自己同型写像σ:√5→−√5 (ただし有理数は一切変えない)にあたる。
この写像は根の置換にあたり、σはα→βとなり、この写像を二回繰り返すと(σ2):α→αとなる。
つまり位数2の群となる。
S:結局写像と置換は同じことになるのですね。
T:そう、置換群と自己同型写像の群は同型。そしてこの写像は有理数の世界の方程式(1)を変えない。
もう一つ例をあげよう。
(2) X2−5X+6=0
X=2,3 であるが、これは置換できない。方程式は変わらないが、そもそもこの方程式は有理数で分解できる。
(X−2)(X−3)=0
となり、2と3を入れ替えても方程式は変わらないが、
有理数の世界で2と3を入れ替えたらめちゃくちゃになってしまう。
つまり、この場合は有理数の世界での置換はできない。
と言うか置換は全く同じものを同じものへ移す恒等写像だけである。
この方程式のガロア群は単位元だけの群である。
S:ガロア群を考えるときには既約方程式だけを取り扱うんですね。
T:どの体で既約かが大事ということですね。
さらに三次方程式で考えてみよう。
(3) X3−1=0はどうなるか。
(X−1)(X2+X+1)=0と因数分解できる。(α=1)
この段階で、右側の式で根βとγを入れ替えてもQの世界を変えることはない。ただし、1とβやγと置き換えることはできない。
置換群でいうと、「変えない」と「βとγを置き換える」置換のみの位数2の群になる。
この方程式をさらに因数分解するために、√(−3)を付け加え、Q(√(−3))=Q(ω)という世界をつくる。
Q(√(−3))={a+b√(−3):a,b√Q}
この世界では、(3)は (X−1)(X−ω)(X−ω2)=0と因数分解できる。
根は、X=1,ω,ω2 である。この世界Q(√(−3))=Q(ω)では、先ほどの根の置換は、
Q(√(−3))からQ(√(−3))への自己同型写像で、
σ:√(−3)→−√(−3)(有理数は変えない)という写像にあたる。
置換群でいうと、βとγを置き換える置換σと単位元eからできている。
σ×σ=eになっているし、√(−3)を−√(−3)に変えても世界の四則は矛盾しない。
だから、この方程式のガロア群は{e,σ}である。
このように、根の置換と体の写像との間に密接な関係があるのではないかと感じる。
ガロアは根の置換を深く追及して、それが拡大された体の自己同型写像にあたるということを発見した。
(実はこれをはっきりさせたのはガロアではなくデデキント。ガロアは根の置換と拡大体との対応を見つけた)
(4) X3−2=0
この方程式のガロア群は方程式を見ただけではわからない。
まず、三次方程式だからS3の部分群だろう。
先に3根を出してみると、3√2,3√2ω,3√2ω2である。
ωをかけることによる巡回置換(123),(132)は考えられる。
では、互換はどうだろうか。3√2ω,3√2ω2の置換(23)は成り立ちそう。
部分群どうしのかけ算と割り算…正規部分群と剰余群
実はこの問題は悩んでしまった。
(123),(132),(23)で群ができるのだろうか?
{e,(123),(132)}は群。{e,(23)}も群だ。これを合体させたらどうなるか。
群どうしのかけ算だ。それぞれの元をかけると出てくる。ちゃんと6元になる。
{e,(123),(132)}×{e,(23)}={e,(123),(132),(23),(23)(123),(23)(132)}
={e,(123),(132),(23),(12),(13)} (∵(23)(123)=(12),(23)(132)=(13))
結局S3と同じだ。 (群は可換とは限らないので左右入れ替えたのも確かめる必要がある)
さらに、
{e,(123),(132)}×{e,(12)}={e,(123),(132),(12),(12)(123),(12)(132)}
={e,(123),(132),(12),(13),(23)}
このかけ算も同じ結果になり、群どうしのかけ算ができることがわかる。
そうすると、群の割り算も考えられるのではないか。
でも、
{e,(123),(132),(23),(23)(123),(23)(132)}/{e,(123),(132)}={e,(23)}
と形式的に考えても新しい意味は出てこない。これが意味を持つためにはどう考えたらいいのか?
ここで{e,(123),(132)}=A,{e,(23)}=Bとおく。
{e,(123),(132),(23),(23)(123),(23)(132)}={A,(23)A}…(1)
このまとめたAと(23)Aが群になれば新しい群が生まれたことになる。表で試してみよう。
| A (23)A _
A| A A(23)A
(23)A|(23)A (23)A(23)A
このとき、A×A=Aなので、(23)A=A(23)だったら、
| A (23)A
A| A (23)A
(23)A|(23)A A
となって、Aを単位群とする群になる。
確かめてみる。
(23)A={(23),(12),(13)}, A(23)={(23),(13),(12)}で同じ。
つまり、Aを単位群とする新しい群が生まれたことになる。
では、
{e,(23),(123),(123)(23),(132),(132)(23)}/{e,(23)}={B,(123)B,(132)B}…(2)
は成り立つのだろうか。
もう予想がつくと思うけど、成り立たない。
確かめてみよう。 ⇒ もし、(123)B=B(123),(132)B=B(132)だったら、
| B (123)B (132)B _ B (123)B (132)B
B| B B(123)B B(132)B B (123)B (132)B
(123)B|(123)B (123)B(123)B (123)B(132)B (123)B (132)B B
(132)B|(132)B (132)B(123)B (132)B(132)B (132)B B (123)B
ところが、{e,(23)}×(123)={(123),(12)}…(3) (123)×{e,(23)}={(123),(13)}…(4)
同じではない。したがって群にはならない。
つまり、Aではわり算できるけどBではできない。
ちなみにAは3次の交代群と言いA3で表す。
{eA3,(23)A3}={A3e,A3(23)}=S3/A3 ((23)は(12)や(13)と置き換えても同じ)
つまり、割り算ができる群と、そうでない群があるということだ。
この割り算ができる群を正規部分群という。
そして、割り算してできた群を剰余群(商群)という。
群になるかならないかの理由は、(2)の場合は、右からかけた(3)と左からかけた(4)とが一致しない。
ところが、(1)の場合は見事に一致するからである。
今までに出てきた偶置換は全て正規部分群である。
そして、ガロアは、この正規部分群がつくる剰余群が巡回群であることが、方程式が代数的に解ける理由であることを発見した。
中間体と部分群…ガロアの対応
さて、この群はS3と同じになってしまったが、体の方ではどうなっているのだろうか。
Q(3√2,ω)
={a1+a23√2+a33√4+a4ω+a53√2ω+a63√4ω:aiはQの要素}
(∵ Q(3√2)(ω)={a1+a23√2+a33√4}×{a1’+a2’ω})
このガロア拡大体はこの様に6次で表される。つまりベクトルの独立な基底と同じ。
また、対応するガロア群S3の位数も6である。つまり、位数と次数は対応している。
(4)の方程式は、有理数Qの世界では因数分解することができない(既約)。
分解するためには、ωや3√2を付け加え、Qの世界を拡大する必要がある。
例えば、Q(3√2)={a1+a23√2+a33√4:aiはQの要素}と拡大してみよう。
すると、
(X−3√2)(X2+3√2X+3√4)=0
と分解できる。さらに、Q(3√2)にωを付け足して、
Q(3√2,ω)
={a1+a23√2+a33√4+a4ω+a53√2ω+a63√4ω:aiはQの要素}
とすれば、
(X−3√2)(X−3√2ω)(X−3√2ω2)=0と分解できる。
(実はこの道筋は逆。この場合3√2がわかっているので因数分解したが、普通はわからない。
そこで、ωを先に添付してから3√2を添付して拡大体を作って解く。)
この時、根の置換と拡大体Q(3√2),Q(3√2ω),Q(3√2ω2)との関係はどうなっているのだろうか?
(1 2 3)=(3√2 3√2ω 3√2ω2) とする。
根の置換群はすでにわかっているが、それに対応する体の自己同型変換はどう考えたらいいのか?
まずωをかけるという変換σを考えてみる。
σ(3√2)=3√2ω
σ(3√2ω)=3√2ω2
σ(3√2ω2)=3√2
これは置換(123)にあたる。
では、これを二回繰り返すと、
σ2(3√2)=3√2ω2
σ2(3√2ω)=3√2
σ2(3√2ω2=3√2ω これらは、(132)にあたる。
次は(23)=τにあたるのは何だろう?
これはωだけを変えて、3√2は変えない変換(つまり√(−3)→−√(−3))で、
τ(3√2)=3√2
τ(3√2ω)=3√2ω2
τ(3√2ω2)=3√2ω
と考えることができる。そして、この二つの変換の組み合わせで、さらに二つの変換が出てくる。
τσ(3√2)=3√2ω2
τσ(3√2ω)=3√2ω
τσ(3√2ω2)=3√2 これらは(13)
στ(3√2)=3√2ω
στ(3√2ω)=3√2
στ(3√2ω2)=3√2ω2 これらは(12)
というわけで、群と体の変換が確定できた。
有理数の世界では、3つの根の全ての置換によって方程式(4)の値は変わらないので、
置換群は3!=3×2=6の元がある。
群表にすると、(123)は1→2→3→1と替える置換
| e (123) (132)(12)(13) (23)
e | e (123) (132)(12)(13) (23)
(123)|(123)(132) e (23)(12) (13)
(132)|(132) e (123)(13)(23) (12)
(12) |(12) (13) (23) e (123)(132)
(13) |(13) (23) (12)(132) e (123)
(23) |(23) (12) (13)(123)(132) e
さっきの{e,(23)}はこの群の部分群になっている。
| e(23) 根2→3→2に変える置換
e | e(23)
(23) |(23)e
でも、部分群は他にも3つある。
| e(12) 根1→2→1に変える置換
e | e(12)
(12) |(12)e
| e(13) 根1→3→1に変える置換
e | e(13)
(13) |(13)e
| e (123)(132) 根1→2→3→1に変える置換
e | e (123)(132)
(123)|(123)(132) e
(132)|(132) e (123)
これらの部分群と中間体が自然に対応しているのがわかる。
例えば、部分群{e,(23)}={e,τ}に対応する中間体は、この変換で変わらない体、つまりQ(3√2)と考えることができる。
同様に、{e,(13)}={e,τσ}で変わらない中間体はQ(3√2)。
{e,(12)}={e,στ}で変わらない中間体はQ(3√2ω2)。
念のために、Q(3√2ω)={a+b3√2ω:a,bはQの要素}が拡大体の意味。
この元を2乗すると、3√4ω2で、3乗すると2となり、3√2や3√2ω2は含まれない。
これとQ(3√2ω2)の二つは違った世界(体)ということだ。
さて、問題は{ e,(123),(132)}={e,σ,σ2}で変わらない中間体Q(?)は何だろうか?
その前に、S3に対応するのはQ(3√2,3√2ω,3√2ω2)だけど、
これは先にやったように、Q(3√2,ω)という拡大体である。
そして、この世界の自己同型変換はS3と同型である。
さて、(123)はωをかけるという変換だった。そこで次の拡大体を考えてみる。
Q(ω)={a+bω:a,bはQの要素}
この世界ではωやω2があり、×ωや×ω2で変わらない(ω←→ω2)。
つまり、(123)と(132)で変わらない体である。しかも、拡大体Q(3√2,ω)の部分体である。
この様にS3の4つの部分群によって不変な部分体(Qの拡大体)があって見事に対応している。
図でまとめてみると、
どうだろうか。
拡げられた世界(拡大体)の変換と根の置換群とが対応していること、
広げられた世界(中間体)と置換群の部分群が対応していることがおぼろげながらイメージできてきただろうか。
4次方程式でやってみると、この対応がより強く感じられる。
この対応をガロア対応という。
そしてこの対応は、どんな世界の拡大によって方程式が解けるのかを指示してくれる。
それは、複雑な体(方程式)の構造をわかりやすい群に置き換えて議論するという回り道の智慧なのだ。
続き⇒【ガロア理論…可解群の発見 ジクソーパズルの最後のピース】へ
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