「パスカルの三角形」から「ニュートンの二項定理」へ

〜数学は拡張である・・・どんな式でも展開できる!〜

1、パスカルの三角形

T:前に、1/(1−χ)=1+χ+χ2+χ3+…  ( |χ|<1 ) という式がありましたね。
S:「べき級数の公式」ですか。
T:この式の左辺を見ると、1/(1-χ)=(1-χ)-1 であることに気がつかない?
S:(1-χ)2=1-2χ+χ2と展開できる。(1-χ)-1=1+χ+χ23+…なんだか似ているな。
T:そうなんだ。(1-χ)nのnが自然数の時は展開できる。そしてnが負の数でも、同じように展開できるのではないか。
S:おもしろそう。さっそく調べてみよう。
T:ただし、(1-χ)ではなく、(1+χ)で展開するよ。その方が、+−で混乱しないからね。
S:まず、nが自然数の場合は…

(1+χ)2=1+2χ+χ2
(1+χ)3=1+3χ+3χ23           (1+2χ+χ2)(1+χ)=
(1+χ)4=1+4χ+6χ2+4χ34       (1+3χ+3χ23)(1+χ)=

T:どんどん、展開してみて。

(1+χ)5=                
(1+χ)6

S:なんだか、計算がめんどくさいな。
S:簡単な方法は、ないかな。
S:必ず法則があるはずだ。こういうときには表を作ってみよう。
 n    X  X2 X3 X4 X5 X6 X7
 1  1  1
 2  1  2  1 
 3  1  3  3  1
 4  1  4  6  4  1
 5  1  5 10 10  5  1
 6  1  6 15 20 15  6  1
 7  1  7 21 35 35 21  7  1
 8  1  8 28 56 ( )( )( )( )( )
 9  1  9 ( )( )( )( )( )( )( )( )

S:わかった。上の2つの項を足すと、下の項になる
T:そのやり方で、( )の中を求めてみよう。
S:これなら、展開しなくても簡単に求まるな。
T:これをパスカルの三角形という。
S:パスカルさんは、めんどくさい計算を簡単にする方法としてこれをあみ出したんだね。

2、nがマイナスの時はどうなるか?

T:さて、こんどは、nがマイナスのときはどうなるかだ。
S:その前に、n=0の場合はどうなるの?
S:どんな数でも、0乗すれば1になるんじゃなかったっけ。
S:ところで、(1+χ)-1はどうやって、展開するの?
T:割り算だよ。(1+χ)-n=1/(1+χ)n だろ。
S:でも、この割り算は割り切れないよね。無限に続くよ。

 (1+χ)0 =1
 (1+χ)-1=1− χ+ χ2− χ3+ χ4−…
 (1+χ)-2=1−2χ+3χ2− 4χ3+ 5χ4−…
 (1+χ)-3=1−3χ+6χ2−10χ3+15χ4−…
 (1+χ)-4

S:これは、意味があるの?
 1/(1+χ)=1−χ+χ2−χ3+χ4−…で、χ=1とすると、1/2=1-1+1-1+1…っておかしいよ。
S:χ<1でなくっちゃいけないんじゃない。
T:そうだね。でも、とりあえず形式的にやってみて、意味は後から考えよう。まず表にして、法則がないか見てみよう。

 n    X  X2 X3 X4 X5 X6 X7
 -6  1 ( )( )( )( )( )( )( )…
 -5  1 -5 ( )( )( )( )( )( )…
 -4  1 -4 ( )( )( )( )( )( )…
 -3  1 -3  6 -10 15 -21 28 -36 …
 -2  1 -2  3 -4  5 -6  7 -8 …
 -1  1 -1  1 -1  1 -1  1 -1 …
  0  1
  1  1  1 
  2  1  2  1 
  3  1  3  3  1
  4  1  4  6  4  1
  5  1  5 10 10  5  1
  6  1  6 15 20 15  6  1
  7  1  7 21 35 35 21  7  1
  8  1  8 28 56 70 56 28  8  1
  9  1  9 36 84 126 126 84 36  9  1

S:上と下とは、対称になっているような気がするな。
S:符号が違うだけじゃない。
T:全体を統一して見るために、n=1のときなどの、他の係数を0と考えてみよう。

3、無限ベキ級数

T:つまり、0+a1χ+a2χ2+a3χ3+a4χ4+a5χ5+a6χ6+a7χ7+…という無限ベキ級数に、展開できると考えるんだ。
S:0を書いても、変わらないような気がするけど…
S:おっ!! ちゃんと法則がある。

 n 定数 X  X2 X3 X4 X5 X6 X7
 -6  1 (-6)(21)-56 126 ( )( )( )…
 -5  1 -5 (15)-35 (70)-126( )( )…
 -4  1 -4 (10)-20 (35)-56 (84)-120…
 -3  1 -3 ( 6)-10 (15)-21 (28)-36 …
 -2  1 -2  3 -4  5 -6  7 -8 …
 -1  1 -1  1 -1  1 -1  1 -1 …
  0  1  0  0  0  0  0  0  0 …
  1  1  1  0  0  0  0  0  0 …
  2  1  2  1  0  0  0  0  0 …
  3  1  3  3  1  0  0  0  0 …
  4  1  4  6  4  1  0  0  0 …
  5  1  5 10 10  5  1  0  0 …
  6  1  6 15 20 15  6  1  0 …
  7  1  7 21 35 35 21  7  1 …
  8  1  8 28 56 70 56 28  8  1 …
  9  1  9 36 84 126 126 84 36  9  1 …

S:さっきのパスカルの三角形の法則(上の2つの項を足すと、下の項になる)は、マイナスの所でも成り立っているよ。
S:パスカルの三角形ではなく、パスカルの四角形だ。
T:これを、それぞれの係数ごとに見ると、どうなるだろうか。
S:nがマイナスでも予想できるよ。
S:マイナスもプラスと同じだ。

4、nが分数の時はどうなるか?

T:さて、負の数でも、展開できることがわかったね。
S:負の数でも展開できるのなら、分数でも展開できないかな。
T:そうなんだ。同じことを、ニュートンさんは考えた。nが分数の場合でも、展開することはできないだろうか?
S:(1+χ)1/2も展開できるということ?
S:そんなことはできるの?
T:χrの係数の一般項を見つけるんだ。数学では、公式(法則)を見つけると、その公式(法則)は他の場合でもあてはまることがある。
S:χの係数は簡単だ。nだよ。χ2は・・・えーと?
T:χ2の項を並べてみよう。

n:-4 -3 -2 -1 0 +1 +2 +3 +4 +5 +6…
a:10 6 3 1 0 0 1 3 6 10 15…
       (階差)1 2 3 4 
5
T:まず、この級数の一般項を見つけてみよう。
S:n>0の階差(隣の項との差)を調べると、1,2,3,4,5…だ。つまり、
a1  0=0
a2  0+1=1
a3  0+1+2=3
a4  0+1+2+3=6
a5  0+1+2+3+4=10
a6  0+1+2+3+4+5=15
 ・・・ 一般項は、(三角数のページへ
an  0+1+2+3+…+(n-1)=n(n-1)/2=(n2-n)/2

S:この式は、マイナスの場合もあてはまるのかな。
S:n=-2を代入してみよう。-2・(-3)/2=3。n=1,0のときもちゃんと0になる。
S:マイナスのときもあてはまっているよ。
T:次は、χ3の項を並べてみよう。

n: -4 -3 -2 -1 0 +1 +2 +3 +4 +5 +6 +7 +8…
a:-20 -10 -4 -1 0 0 0 1 4 10 20 35 56…

T:この級数の一般項は?
S:階差を調べると、0, 1, 3, 6, 10, 15, 21…だ。もう1回階差をとろう。
           1, 2, 3, 4 , 5 , 6 … 規則が出てきた。
つまり、
 a1  0=0
 a2  0+0=0
 a3  0+0+1=1
 a4  0+0+1+(1+2)=4
 a5  0+0+1+(1+2)+(1+2+3)=10
 a6  0+0+1+(1+2)+(1+2+3)+(1+2+3+4)=20
 a7  0+0+1+(1+2)+(1+2+3)+(1+2+3+4)+(1+2+3+4+5)=35
 ・・・ ここから一般項を予測すると、

 an  0+0+1+(1+2)+(1+2+3)+(1+2+3+4)+…+(1+2+…+(n-2))
   =0+0+2/2+3・2/2+4・3/2+5・4/2+…+(n-2)(n-3)/2+(n-1)(n-2)/2
   =(0+0+2+3・2+4・3+5・4+…+(n-2)(n-3)+(n-1)(n-2))/2
   =(0+0+2(2-1)+3・(3-1)+4・(4-1)+5・(5-1)+…+(n-2)(n-2-1)+(n-1)(n-1-1))/2
   =(0+0+22-2+32-3+42-4+52-5+…+(n-2)2-(n-2)+(n-1)2-(n-1))/2
   =((22+32+42+52+…+(n-1)2)-(2+3+4+5+…+(n-1)))/2
   =(n(2n-1)(n-1)/6-1-(n(n-1)/2-1))/2
   =(n(2n-1)(n-1)/6-(n(n-1)/2))/2
   =(n(2n-1)(n-1)-3n(n-1))/12
   =(n3-3n2+2n)/6
   =n(n-1)(n-2)/6

S:ところで、(22+32+42+52+…+(n-1)2=はどうやって求めるの?
T:自然数の平方の和 Sn=1+4+9+16+…+n2 を、上の計算と同じようにやってごらん。
S:まず、1, 4, 9, 16,…,n2の階差をとると、
      3, 5, 7, 9… さらに階差をとると、
       2, 2, 2… ということは、
 a1  1=1
 a2  1+(1+2)=4
 a3  1+(1+2)+(1+2+2)=9
 a4  1+(1+2)+(1+2+2)+(1+2+2+2)=16
 a5  1+(1+2)+(1+2+2)+(1+2+2+2)+(1+2+2+2+2)=25
  ・・・ 一般項は,
 an +) 1+(1+2)+(1+2+2)+(1+2+2+2)+(1+2+2+2+2)+…+(1+2+2+2+…+2)=n2 これまでの項を全て足すと、

 Sn=n+(n-1)+2(n-1)+(n-2)+4(n-2)+(n-3)+6(n-3)…+1+2(n-1)(n-(n-1))
   =(n+(n-1)+(n-2)+(n-3)+…+1)+(2n+4n+6n+…+2(n-1)n)-(2+8+18+…+2(n-1)2)
   =n(n+1)/2+2n(1+2+3+4+…+(n-1))-2(1+4+9+16+…+(n-1)2)
   =n(n+1)/2+2n(n(n-1)/2)-2(Sn-n2)
 ここで、2Snを移項して、
n+2Sn=(n(n+1)+2n2(n-1)+4n2)/2)
   3Sn=n(2n+1)(n+1)/2
   Sn=n(2n+1)(n+1)/6=((2n+1)/3)(1+2+3+…+n)
このnに(n-1)を代入すれば、n(2n-1)(n-1)/6 が出るよ。

T:さあ、ここで、χ3の一般項n(n-1)(n-2)/6が、マイナスの場合にも成り立つかどうか調べてみよう。
S:n=−3のときは、-3・(-4)・(-5)/6=-10。ぴったり。
S:他の数も大丈夫みたい。
S:0が3つ続くのがわかったよ。n=0,1,2の時は係数は0だよ。
S:つまり、(1+χ)0や(1+χ)1にも、当てはまっているということですね。


5、ニュートンの二項定理


S:今度は、χ4の係数か。めんどくさそうだな。
T:(1+χ)n=1+(n/1)χ+(n(n-1)/2)χ2+(n(n-1)(n-2)/2・3)χ3+(    )χ4+…+(    )χr+…
  このχ4とχrの係数を予測してみよう。
S:χ4の係数は、n(n-1)(n-2)(n-3)/(2・3・4)じゃないかな。
S:確かめてみよう。・・・ぴったりだよ。
S:とすると、χrの係数は、n(n-1)(n-2)(n-3)…(n-r+1)/(2・3・4…r)だ。
S:これが一般項なの。そうすると、この係数はrが無限に大きくなっても成立しているということ?
S:無限ベキ級数だね。

T:では、いよいよこの法則が分数でも成り立っているか、調べてみよう。
S:n=1/2を代入してみよう。
  1+(1/2)χ-(1/8)χ2+(1/16)χ3-・・・
S:この式が正しいということは、どうやって確かめればいいのですか?
S:(1+χ)1/2=√((1+χ)だったよね。
S:χ=1だったら、√2になるから、確かめられるんじゃない。
S:χ<1だよ。
S:でも、1なら近いからいいんじゃない。
T:とにかく計算してみよう。エクセルを使うと簡単だよ。
   ・・・
S:χ17まで計算して、1.412063526…。一方、√2=1.41421356…だから、だいぶ近いな。
S:χ=0.5だと、どうだろう。
S:χ17まで計算して、1.22474485…。一方、√1.5=1.224744871…。かなり近い。
S:分数の場合も、この定理は成り立っている、といっていいみたいだよ。
T:ニュートンは、nが分数のときも、展開できないかと考え、この公式を見つけた。そして、成り立つことを証明した。だから、これをニュートンの二項定理という。
S:二項というのは、1とχの2項ということですね。
S:ニュートンさんは、自然数から整数。そして、負の数。さらに分数へと法則が成り立つかどうか調べていったんですね。
S:この公式、(1+χ)n=1+(n/1)χ+(n(n-1)/2)χ2+(n(n-1)(n-2)/6)χ3+…+(n(n-1)(n-2)(n-3)…(n-r+1)/2・3・4…r)χr+…が、どんな数でも成り立っているということがすごいんですね。
S:実数や虚数でも成り立つんですね。
S:もしかしたら、どんな関数や数でも無限ベキ級数で表せるんじゃない。
S:じゃ、いろいろやってみよう。

(1) 1/(1-χ)=(1-χ)-1
(2) 1/(1-χ2)=(1-χ2)-1
(3) √(1+χ)=(1+χ)1/2
(4) 1/√(1+χ)=(1+χ)-1/2
(5) 1/√(1-χ2)=(1-χ2)-1/2
(6) √(1-χ2)=(1-χ2)1/2
(7) (1+1/χ)χ

T:ニュートンは、(5)の式を積分して、
 1/sinχ=χ+(1/2・3)χ3+(1・3/2・4・5)χ5+… を求めています。
 また、sinχも展開できます。・・・・

   sinχ=a0+a1χ+a2χ2+a3χ3+a4χ4+…とする(とできるとする)。
   χ=0を代入すると、a0=0 …(1)
   両辺を微分すると、cosχ=a1+2a2χ+3a3χ2+…
   χ=0を代入すると、cos0=1=a1 …(2)
   この(1)(2)を繰り返すと、sinχ=χ-(1/2・3)χ3+(1/2・3・4・5)χ5-… と展開できます。

   そして、これを一般化したのがマクローリンの展開式
  f(χ)=f(0)+χf'(0)+(χ2/2・1)f''(χ)+(χ3/3・2・1)f'''(χ)+…

S:この式って、二項定理の拡張になっていない。
T:そうだね。f(χ)=(1+χ)-1やf(χ)=(1+χ)1/2で、係数がぴったり合うね。よく考えると、二項定理を使って、y=χnの導関数が求まるんだから当然かな。
S:そうか。パスカルの四角形を見ると、fn'(χ)=nfn-1(χ) が成立するから、微分をしているということですね。

T:最後の(7)の極限は、lim(1+1/χ)χ=e になります。
 さらに、微分しても、もとの式と変わらない無限ベキ級数を作ってみてください。それは、eχ
の展開式です。
 そして、それとsinχとcosχを組み合わせると、オイラーの公式が出てきます。

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