ガロア理論の学び方

ガロア理論の学び方

―ネットで学ぶガロア理論―

1、方程式の歴史

 二次方程式を見ると、二つの根を置換(入れ替え)しても方程式は変わらないことに気がつく。それは、根と係数の関係からすぐにわかる。三次方程式では、根の置換は6通りある。この置換は「群」という構造を持つ。この置換群と方程式を解くことの間に密接な関係があることを示したのがガロア理論。
 そして、群という新しい数学の対象を見つけだしたのが若きガロア。彼は、群という新しい概念を使って5次以上の方程式には解の公式がないことを示した。ガロアはどうやってそれを発見し、どのように群を使ったのだろうか。

S:「ガロアの生涯」という本を読みました。数学についてはよくわからなかったけど、なんだかガロアの理論には憧れます。
T:若きガロアの情熱を傾けた「ガロア理論」だからね。
S:でも、群なんてそもそもイメージできません。
T:実は群は身のまわりにいっぱいあって、自覚していないだけでその考え方を自然に使っているんですよ。

S:集合と同じですね。
T:ガロアは方程式の解の公式を研究する中で、群を使って調べるという方法を見出した。
歴史的には二次方程式の求め方は、古代バビロニアで発見されている。
三次方程式と四次方程式はルネッサンスのイタリアで発見された。
次は五次方程式だ。しかし、これはなかなか見つからなかった。
見つからないのも当然で、五次方程式の解を求める公式は四則とべき根を使って作ることができない。なぜできないかということを示したのがガロアという20歳に満たない青年。

2、エバリスト・ガロア

ガロアはフランスの王政復古の後に生きている。「レ・ミゼラブル」のジャンバルジャンが生きた時代だ。ガロアは七月革命の中、決闘で命を落としている。まだ21歳だった。

S:何歳でガロアの理論を発見したの?
T:19歳ぐらいだと言われている。
S:どんなことを発見したの?
T:彼が発見したのは四則ができる数の拡大と根を変換する群の間に1対1の関係があるということなんだ。

S:それがどうしてできないことの証明になるの?
T:彼が発見したのは、別のものを調べることで、あることがわかるという回り道だったんだ。
S:どうやってその回り道を発見したの?
・・・
ガロアの履歴については【Gの夢】〜解けない方程式の謎を解く〜
このサイトもガロア理論についてよく書かれています。

3、ガロア理論の学び方

T:僕は学生の時、ガロア理論を学んだ。
 その時は理解したつもりになったけど、数十年たつとすっかり忘れてしまった。 ただ、体の構造と群の構造が対応しているということは記憶に残っている。 でも、なぜ5次以上の方程式に解の公式が無いのかはやっぱりわからなかった。

 それ以後、何度か挑戦しようと思っていたんだけど、なんせ基礎学力と時間不足でできなかった。学生時代にもう一つやったのが表現論とホモロジー。表現論は群を行列で表現するという理論だけど、ホモロジーはガロア理論と関係がある。その中で矢印がたくさん出てきた。
 この矢印は授業の板書でも思考でも何度も使ってきた。現象を何か数式で表すということは、「コト」→「式」の矢印を見つけだすことだった。つまり「わからない何か」を別の「よりわかっているモノ」に置き換えるという操作だった。これは「わかる」ということが「すでにわかっているモデル」に置き換えるということでもある。

 これらのことを、もっと明確に示せないかと考えていたら、圏論というのがあることを知り、自分のやろうとしていることが、この矢印=「指示し」であることに気がついた。
 「指示し」とは矢印のことで何かに注目するコト。何かと何かの関係を見つけること。
私はこれを思考や説明のキーワードだと考えている。
仏教でいうと「指月の譬」

 そうなるとガロア理論を再度やろうという気になってくる。
「シンメトリーとモンスター」「シンメトリーの地図帳」を読んだのも大きい。 ところで学生時代の教科書は二冊あるのだが、当時苦しんだせいかそれを読もうという気にはならない。そこで、サイトで調べ始めた。こういう時は歴史から学ぶのが一番いい。

一応、自己流「学びの方針(方略)」を書いておく。
○「自分の歴史」と「世界の歴史」から学ぶ
 わかっていることに戻す。自分が納得する道すじで。
○常に例を考える。抽象代数は例を考えないとわからなくなる。
○「理解のためのアプローチの課題」と「その問題のアプローチのための課題」の両面から。

 「理解のための」とは、ビデオを見るとか、ノートをとるとか、関連する小説(数学ガール・ガロアの理論)を読むというような方策である。
 ガロア理論を理解するには、群論と方程式論が必要だと思われるけど、例えば正規部分群が出てきて定義してあるが、どうしてそういう定義をしたのか分からない。やはり歴史的な必然性がつかめないとイメージできない。

 一歩一歩マスターしていきたい人には、方程式論から群論、体論、ガロア理論に到るストーリー書かれている【物理のかぎしっぽ】 はとても参考になる。

(1)まず、ガロアの時代の歴史を調べることにした。
「方程式からガロア理論へ」
歴史をつかむと大雑把なストーリーはわかるが、文章には当然当然わからないところが出てくる。
そこが次の課題になる。
例えば、ガロアは突然ガロア理論を創ったわけではない。
まず方程式の公式があるということはどういうことか追求し、そこに体の理論を導入した。
大雑把な学習の方向を示す。
○根と係数の関係(基本対称式)は高校でもやったのでよく分かる。
 根を入れ替えても係数は変わらない。これを根の対称性というが、どう利用するのか。さらに、
○それを2次方程式から始めて3次方程式の解き方へ。
 根の多項式を考えることで対称式を作り、そこから分解方程式を作って、次数を下げていくという道すじ。
○4次方程式の解き方。3次と同様にラグランジュの分解式を使って対称性から解く。そこに群の構造が見えてくる。
○ガウスの円分方程式論も大事らしい。
○べき根による体の拡張と方程式を解くことの関係をつかむ。
○正規部分群と剰余群、そしてガロア群の概念へ到る道すじをつかむ。

(2)記号や言葉に関しては当然昔の教科書で調べるが、最近はネットでウキペディアで調べる方がわかり易い。体の拡張の仕方は多項式によるものと、線形空間の次元の拡大にような方法がある。
それにしても何かテキストが欲しい。
「ガロア理論入門ノート」
講義とは少し異なるが、ストーリーをつかむには良いし、何よりも短い。ただし、読んでもわからないところだらけ。疑問を持って計算をするとなるほどと結びつく。

(3)次は実際の大学講義のビデオ(慶応大学の坂内健一先生の講座を発見)
これは、その世界にどっぷりとつかるため。
ビデオはわからなかったら、すぐに止めて計算することができる。
それから必ずノートをとる。

【第1回】代数の基本概念の復習
三次方程式の求め方が二次方程式の求め方と関連している所がなるほど。
ここのポイントは体のイデアルによる剰余体の形成で、それは体になる。
多項式環による拡大のもとになっている。これについては別に説明がある。
「環のイデアルによる剰余環の構成」
これで、はじめてイデアルがなぜ考えられたのかがわかった。
常に具体的なモデルを考えることが必要で、しかもそういうモデルが新しい概念でより簡単になる。このアイデアは正規部分群にも応用できる。

【第2回】代数拡大と最小分解体
最小分解体が決まることによって方程式から体がイメージできる。
代数的に形成された体が有限拡大によるものと一致し、
因数分解できることで根との関連が見やすくなる。
質問に対する答えのビデオがあるのも良い。
「Xの上に棒線があるのは何?」
最小分解体が線形ベクトル空間と同型なことが示される。
これによって拡大体のイメージが少しつかめる。
拡大体とは、方程式がどのように解けるのかを有理数体に根を付加することでイメージしたものである。

【第3回】自己同型群とガロア拡大
いよいよ、体の自己同型について考察がはじまる。
自分を自分自身へどれだけうつせるか。その時に方程式の根は式の値を変えない。
根の対称性と体の自己同型は同じ問題になる。

【第4回】ガロアの基本定理
圏論をつかってガロアの基本定理を説明
包含関係も射になることを知った。何でも射になる。
ここで「具体的なガロア対応の計算」をする。
根の交換によるガロア群の部分群を考える。
久しぶりに位数3の対称群を計算する。

ガロア拡大体Lは係数が体Kの要素である方程式の根が全て拡大体に含まれる時に、
LのK−自己同型群が定義できる。それをガロア群と言う。

ここまで来ると少し見通しがつくが、すぐに忘れてしまうので、何回も見なければならない。
でも、疑問は出てくるようになった。つまり、今までは何がわからないのか分からなかったが、
今は何がわからないのかがわかるようになった。少しは知恵がついたのかもしれない。

【第5回】作図可能性
作図ができるのは、二次方程式を解いていく時だけ。
素数の正多角形のうち、正五角形は定規とコンパスで作図できる。
ところが正七角形は根を求めるときに3次方程式が出てくるので、作図はできない。
次にできるのは正17角形である。
正17角形が作図できるのは、ガロア群の位数が2^2^2だから。
ときわ台学【 方程式:X17=1の”代数的な”解法】
これを読むと、解ける方程式とガロア群の間に密接な関係があることがわかる。
もう一つ、根の置換とガロア群の関係もイメージできる。 ときわ台学

【第7回】方程式の解の公式
ガロア拡大の性質をガロア群で特徴づけるのがガロアの発想。
ガロア群が巡回群ならガロア拡大は巡回拡大になるというように。

【第8回】基本群と被覆空間
方程式とは関係ないが、多様体の対称性を考えるときにガロア理論が使える。
つまり群をどう考えるのかと言うことである。
この場合、対称性を探る群は基本群である。

4、その他の参考サイト

『13歳の娘に語るガロアの数学』を書いた金重明さんのブログ

『1+2+3+・・・・ = -1/12 日記』
ガロア理論と、5次元方程式の解法の不可能性のお話


ガロア理論に関する本は多数出ている。
今まで読んだ中では、「13歳の娘に語るガロアの数学」が初心者向けでとてもよく分かる。

私の書いたガロア理論の入門 ⇒【中学生にもわかるガロア理論の試み】  【ガロア理論…可解群の発見

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