鶴亀算と連立方程式

連立方程式の意味

 この二つの方法の「類比」と「対比」で、どんなことが生まれてくるか考察してみたい。

【問題】
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鶴と亀があわせて10匹います。
足の数を数えると28本です。
鶴と亀それぞれ何匹いますか。
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          鶴亀算         連立方程式
(図)
   胴体だけを描くと、
    
     足の数は28本。

   全部を鶴とすると、足の数は
    

   足が8本あまるので、2本ずつ分けると、
    
    
   亀は4匹、鶴は6匹。

(式)
  鶴の数=χ,亀の数=y
  
   χ+ y=10・・・(1)
  2χ+4y=28・・・(2)




  2χ+2y=20・・・(1)×2



   2χ+4y=28・・・(2)
 −)2χ+2y=20・・・(1)×2
       2y=8
        y=8/2
         =4
        χ=10−4
         =6


・具体的で意味が良くわかる。図を使うというやり方はイメージしやすい。

・この方法は他の問題でも解くことができ、代入法でも意味づけできる。

・この方法は簡単には思いつかず、誰にでもできるとは言えないが、「全部を〜とする」という思考は一般化できる。


・等式の性質を利用して計算のみで求めようとしている。
・具体的なイメージが分りにくいが、式そのものを操作しているイメージがある。
・式にすれば必ず解け、アルゴリズム化しやすい。思考の省エネ。

・問題を文字式にすることにより一般化でき、どんな問題にも対応できる。



1,類比

 上の「鶴亀算」と「連立方程式」は、まったく同じ方法(同型)である。つまり、連立方程式は鶴亀算の一般化であると同時に、加減法の意味は左のように説明できるということを示している。

 このことは、連立方程式の側から言うと、式に具体的な意味を持たせることができるということであり、鶴亀算の側から言えば、この方法も十分にアルゴリズム化ができるということを示している。
 例えば、
 ・係数をそろえる=どちらかの足(もの)にする=全部を〜とする
 ・引いて文字を一つ消す=たりない足(もの)の数を求める
 ・χの係数でわる=一匹あたりの数でわる
  ・・・
 こう考えると、連立方程式の解法も豊かな意味を持ってくる。
 「なぜ係数をそろえるの?」という問いに、
〈連〉文字を消去するため
(鶴)どちらかのものとみなすため
と二つの意味が出てくる。

 しかし、そのような意味を持たせなくても解けるのが、連立方程式の長所でもある。


2,対比

 最初は算数と数学の違いを考えてみようとしたが、調べていくうちに違いがなくなってしまった。
 これは問題の解き方として算数的とか数学的とかに分けてはいけないことを示している。式は具体物を概念に変えたものであり、具体物を操作するよりも式を操作した方が扱いやすいという人間の認識のあり方に由来する。そして、鶴亀算にも、鶴と亀を同じものとみなすという概念化がある。
 でも、連立方程式と鶴亀算は文脈が違う。鶴亀算は問題に沿っており、連立方程式は文字に置き換えることから一般化の方向を強く示している。
 とすると、対比すべきは、私たちがどちらがわかりやすいかということになる。方法としての違いはほとんどないが、それを受け取る私たちの側が大きな違いを感じてしまうのだ。
 たぶん子どもの理解も二つに分かれると思う。イメージ化(意味)を求める子と言語化(操作)を求める子とに。


3,まとめ

 代数は概念化する働きを持っている。この概念化に対して、具体的な意味を問うていく方向を「具体化」と名づけよう。

            概念化→
 現実の具体的なモノコト←←→→概念
            ←具体化

 すると、鶴亀算と連立方程式は、「算数的解き方」と「代数的解き方」の対比というよりは、「概念化」と「具体化」の対比ととらえた方がわかりやすい。
そのことを、「銀林ダイアグラム」で説明してみよう。

         概念化
  具体的な問題 →→→ 式
      ↓       ↓
      ↓       ↓
     答え  ←←← 解
         具体化

 方程式は、具体的な問題を式に変換して、計算して解を求め、それを問題に当てはめて確かめる。だから、式から解が求まった時、具体的な問題に当てはめて確かめるという「具体化」が必要だった。
 しかし、鶴亀算と連立方程式の同型対応は、この式の計算にも具体的な操作が対応していることを示している。だから、安心して方程式を計算できるのだ。

         概念化
  具体的な問題 →→→  式
      ↓      ↓
  具体物の操作 ←−→ 操作(計算)…実は対応している!
      ↓      ↓
      答え ←←←  解
         具体化

 数学では常に概念化(=抽象化,一般化)を行っている。しかし、その概念(記号・イメージ)は現実の何に対応するのかということ(=具体化,意味化)はあまりやらない。
 連立方程式の応用問題は、概念化のトレーニングでもあるが、これらの概念を生活にあてはめるという具体化のトレーニングでもある。

 図も一種の概念であるから次のように対応させると、このダイアグラムはさらなる概念化を求めて、右に限りなく広がっていく。それは発達論としても考えられる。例えば、図化→シェーマ化→式化→…と続く発達である。
 しかし、それは具体化を伴わないと正しい概念化なのかわからなくなる。

  具体的な問題 →→→ 箱 →→→ 式 →
    ↓        ↓     ↓
  具体物の操作 ←←← 操作 →→→ 計算 →
    ↓        ↓     ↓
    答え   ←←← 答 →→→ 解 →

 これらのことを授業にするなら、
(1)鶴亀算を問題に出し、連立方程式で解く。
(2)銀林ダイアグラムを示し、連立方程式で解く意味を説明する。
(3)解と答えの違いを説明する。
(4)計算の意味は「全てを鶴とする」ことと対応する事を説明する。
(5)だから、計算すれば必ず答えが出ることを示す。


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