「定幅図形(立体)」から「等高重心立体」へ
1、円からルーローの図形へ
T:「マンホールのふた」の所で、ルーローの三角形というのをやったね。
S:幅がどこをとっても同じだから、マンホールから落ちないという図形のことですね。
T:こういう図形を定幅図形という。このルーローの図形にも重心があるよね。では、この重心の高さは変化するのだろうか。
S:高さは同じじゃないかな。だって幅は一緒だし、重心は三角形の真ん中だから円の中心と同じことじゃないの。
T:この図で、円とルーローの三角形を重ねてみよう。この重心(=中心)は辺からの距離がいつも一緒かな?
S:そうか。円の場合は辺からの距離が半径だけど、ルーローの方は頂点が一番高く、辺では低くなるね。
S:だからルーローのコロではゴロンゴロンとなるのか。車輪には使えないよ。
T:そうかな。
円だったらコロコロ転がっていくけど、ルーローの三角形だと少しぐらいの斜面でも転がりにくいから、
斜面用のコロとして使えるんじゃないかな。
Giogebraのシュミレーション
(1)原理 (2)横移動
(3)回転
S:ところで、マンホールで落ちない図形は円だけでなくルーローの多角形もそうだったけど、重心の高さが変わらない図形は円だけじゃないかな。
T:良い着眼だねぇ。では、本当に重心の高さがいつも同じ図形は円だけだろうか。
S:ルーローでも重心の高さが変わるんだから、やっぱり円だけじゃないかな。
S:図形の重心は一点で動かないでしょう。だったら、そこから同じ距離に辺がある図形は半径が一緒の円しかないよ。
T:なるほど、平面図形だと円しかないか。では、重心の高さがいつも同じ立体は、球だけだろうか。
S:さっきと同じ理由で球しかないんじゃないかな。
S:でもさ、立体だと斜めになることができて、重心の高さを変えることができるよ。
S:円柱も重心は変わらないよ。円錐だって変わらない。球や円柱以外にもありそうな気がする。
2、等高重心立体「スフェリコン」
T:ちょっとこれを見て。転がしてみるよ。(スムーズに、しかしツイストしながら回転する。)
S:面白い動きだな。どうやって作ったの。
T:2枚のCDを右図のように切り、赤い所を切りこんで、この部分を2枚合わせて組合わせる。そして直角に接着するんだ。これを「スフェリコン」という。
S:先生が考えたの。
T:いや、1970年にイギリスのコリン・ロバーツという人が発見したらしい。この立体は、転がしても重心は変わらないんだ。
S:どうやって発見したんだろう。
S:2枚の円盤をいろいろ組み合わせてることをやっていて見つけたんだよ。
S:でも、これは立体じゃないよ。
T:そうだね。それでこの出ているところをラップで包むようにすると立体になるだろ。そうすると、ひし形(正方形)を回転させてソロバン玉を作り、軸で切って、90度回転して張り合わせて作った立体になるんだ。
S:ところで、この立体の重心の高さは本当に変わらないの。
T:調べてみよう。まず重心はどこにある?
S:もちろん二つの円の中心が重なっているから、円の中心にあります。
T:円が交差している線を水平にしたときに、重心の高さはすぐにわかるよね。(右図)
S:直角二等辺三角形だから、高さはピタゴラスの定理を使ってr/√2だ。(円盤の半径はr)
T:上の写真のように立っているときの重心は?
S:これも、直角二等辺三角形だから同じ高さだ。
S:他の位置はどうだろう。
S:地面との二つの接点と中心(重心)を結ぶ三角形は必ず一辺rの直角二等辺三角形だよ。
S:ということは、いつでも重心の高さは変わらないわけか。
T:これは、球の変形(メタモルフォーゼ)ですね。
「オロイド」
T:重心が変わらないのはもう他にないのだろうか。
S:中心を離したらどうなるの?
T:そうなんだ。それで、こんなのを作ってみた。中心間の距離を半径rにしたんだ。
(動かすとよく転がるが、ゴロンゴロンと動きが一定でない。いつも同じところで止まる。)
S:これも重心の高さは一定なのかなあ。
S:止まっているところの高さは、右上の図と同じだからr/√2だよ。
S:他のところはどうだろう。
S:一つの円盤を垂直にすると、右図のようになるから、r:h=4:3となって、
重心の高さh=3r/4=0.75rだよ。
S:r/√2=0.707rだから違うよ。高さは変化するんだ。
S:だから、いつも、より低いr/√2(中心線が水平のとき)で止まるんだな。
T:でも、これも面白い立体なので「オロイド」と名前がついている。発見したのはパウル・シャッツという人だ。
「ツーサークルローラー」
S:ということは、重心の高さが変わらないのは「スフェリコン」だけなのかな。
T:いやいや、もっと調べてみようよ。さっき、円盤を垂直に立てた時に高さが変わったよね。そこで、高さが変わらない重心の位置を計算してみるんだ。
S:そうか、重心の高さがr/√2になるように中心間の距離を求めるわけか。
S:右図のようにすると、r:h=(χ+r):(χ/2+r)が成り立つ。このときh=r/√2になるようなχはいくつか計算すると、・・・r:(r/√2)=(χ+r):(χ/2+r)だから、・・・
rχ/2+r2=rχ/√2+r2/√2
rχ/2−rχ/√2=r2/√2−r2
(1-√2)rχ/2=(√2−2)r2/2
χ=(√2−2)r/(1-√2)
χ=√2r
S:ちゃんとχが出たよ。
S:中心間が√2rだから、今まで出てきた立体とは違うね。
T:さっそく作ってみよう。・・・これを「Two Circle Roller」といいう。滑らかに回転するね。(重心の高さは変わらない。水平にツイストしながら回転していく。)
S:これも誰かが発見したの。
T:そうだろうけど、誰なのかわからなかった。
S:ところで、垂直に立てたときと中心が水平のときは重心の高さが同じということはわかったけど、他のときも本当に同じなのかなぁ。
T:すてきな疑問だね。これはボクも悩んだ。それで、こう考えたらどうかな。重心は二つの中心の真ん中にある。それで、二つの中心の高さの変化を調べるんだ。まず右上図の左の中心の高さはr。水平のときからどれだけ変化したかというと、
r−r/√2=(2−√2)/2r
次に、右側の中心の高さは、(√2−1)rだから、水平のときからの変化は、r/√2−(√2−1)r=(2−√2)/2rとなって同じになるんだ。ということは、2つの中心が変化しても重心の高さは変化しない。
S:それなら、さっきの「オロイド」も同じじゃないの。
T:「オロイド」の場合は、図を見ると、左の方は同じだけど、右の方の中心の高さがr/2となって、高さの変化が違ってくるんだ。
S:ボクもいらないCDを探してきて作ってみよう。
T:CDで作ると、円錐形の場合も簡単なんだ。 → 「パズルで遊ぼう」に、スフェリコン・オロイド・ツーサークルローラー・ヘキサスフェリコンの写真や動画があります。)
リンク 「幾何学おもちゃ」のページへ(西原あきらさんのページ)転がる様子がわかるアニメーションがあります。