中学生になった君へ
算数と数学の違い
1、小学生と中学生はどう違うのか
Q1.中学生になった君は、もちろん小学生と中学生は違うと思っているだろう。では、何が違うと思う?
こんな質問をするのは、答えがあってその答えを当ててもらいたいからではない。実はこの問いには正解はない。正解を求めているのではなく、考えてもらいたいための問いなのだ。(→思考は問いから始まる。)
まわりのことがわかってくるのが中学生だっていうの?
そうだね。確かに小学生は自分のことしか考えていないもんね。つまり小学生の世界は小さくて、中学生になると世界が広がるんだね。それは大事な違いだ。まわりが見えるから、自分のことも見えてくる。人と比べるから自分が見えてくる。
Q2.では、なぜまわりのことがわかってくるんだろうか。それまではなぜ周りが見えなかったのだろうか?
それは言葉だ。小学生までは無意識に言葉を使っていた。まわりにあるものをそのまま指し示していたから無意識にしゃべっていた。でも、中学生になると、言葉が一人歩きをする。言葉をまとめた言葉が使えるようになる。言葉を使って考えることができるようになる。
小学生が自分を見ることができないのは、無意識だったからだ。ところが中学生は言葉を自由に操ることができるようになる。これは、意識的に言葉を使うからだ。つまり、君たちは意識して自由に考える(まとめたり、当てはめたりする)ことができるようになる。
Q3.ちょっとわかりにくいね。こういう時はどうする?
そうだね。こういう時は、例えを使うんだ。
例えば、トンボやセミやバッタや蝶は、中学校では「昆虫」と一まとめにする。そんなの当たり前だって。小学校でもやっているだって。でも、これらはどうしてまとめられるんだろう。空を飛んでいるトンボと虫かごの中で蜜をなめているカブトムシは違うのになぜ一つにまとめられるの?
それは、足が6本あり羽根が4枚あるからだね。でも、「昆虫」という虫はどこにもいないのに、まるでいるかのように「昆虫」という言葉を使う。不思議だろ。こうやって違ったものを一つにまとめて一つの言葉を作ることを自覚し、自由に使えるようになるのが中学生なのだ。
そしてこの言葉は科学の世界の言葉なのだ。違って見えるものを一つにまとめることを分類という。この分類こそ科学的な考え方の基本なのだ。分類をすると新しい言葉が生まれてくる。この言葉を使っていろいろ考える。すると、進化ということも見えてくる。ワクワクするような世界だ。
2、算数と数学はどう違うのか
Q4.今度は学ぶ教科についてだよ。算数と数学はどう違うんだろうか?
言葉が違うだけで意味は同じじゃないかだって?
いやいや。ちゃんと意味も違うんだ。だって、今までは、国語を教える先生も算数を教える先生も担任の先生だっただろう。中学校では数学を教える専門の先生がいる。専門ということは数学という専門の世界があるということなんだ。
小学校の算数では、君たちはまわりの世界のひとつひとつのモノから数や形を取り出して、計算したり、性質を調べたりしてきた。具体的なモノを数に変えて足したり引いたりかけたり割ったりしてきた。2+3=5は、リンゴ2個とリンゴ3個をたして5個のリンゴ、とやってきた。
ところが、数学ではこの算数で扱ってきた数や図形をまたひとまとめにする。χ+y=5というように。具体的なモノの代わりだった数が、今度は数や図形の代わりの文字に代わる。
だから、具体的な身のまわりの世界のモノやコトを具体的に操作しながら学んできたのが、中学校ではそこから取り出された言葉や記号を操作して「意味の世界」を創っていく。
また、難しくなってきたね。こういうときはどうするんだったっけ?
そう、例だよね。ここで、数学を君たちも良く知っている「ロールプレーイングゲーム」に例えてみよう。
3、ゲームの世界は学びの世界
数学の世界はゲームの世界ととても良く似ている。ゲームにはルールがある。主人公がいて様々なアイテムを使いながら冒険をする。時には困難な問題が出てくる。それを仲間と力を合わせながら乗り越えて行く。そうして目的を達成し、主人公は大きく成長する。
どう。数学と似ているだろ。
数学もルールがある。そしてアイテムがある。それを使いながら仲間と困難な問題に挑戦していく。アイテムは道具の場合もある。アイディアの場合もある。これは最終的には言葉になる。これが使いこなせるようになれば一人前だ。そして、問題を乗り越えるたびに、君たちは成長していく。
つまり、数学の世界は冒険の世界と同じなんだ。
数学の世界もゲームと同じ様に一人ではできない。それは、一つの見方だけでは世界の秘密は解けないからだ。一つの言葉に仲間の今までの体験してきた様々なイメージが加わる。そうすると、今まで違うものと思っていたイメージが一つの言葉にまとまる。意味の世界がどんどん広がっていく。
Q5.最後の問題だよ。仲間と一緒に冒険するって、具体的にどうすることなんだろう?
ゲームでは、仲間は自分が困っている時に助けてくれる存在だ。数学ではどうだろうか?
わからない時に助けてくれる存在?
それは小学生だよ。中学生ではそれだけではたりない。
さっきのQ2で考えたことを使うと、もう一つ重要なことが見えてくる。それは、自分とは違う「他者」が自覚されることなんだ。仲間や友だちというのは、「他者」なんだ。つまり、自分とは違う存在だということ。自分とは違う存在が意識されるから自分が見えてくる。
そうして、その「他者」は君の心の中に取り入れられる。だから君の心はどんどん大きくなっていく。
様々な「他者」が自分の中に入ってくるのが中学生なんだ。
そのためには対話がとても重要な意味を持ってくる。対話をしていると、「なるほど」「すごいな」と思ったり、「私には無理だ」と感じたり、「どうしてそんなことを考えたのか」と思ったりする。
友だちや先生との対話は、多様な考え方やイメージを生み出していく。そうしてそのイメージの世界は君たち一人ひとりの心の中の言葉となって、自分の心の中で新しいイメージを作る。また、君の心の中のたくさんの「他者」が対話を始める。それが考えるということなんだ。そして、心のイメージの世界を豊かにしていく。
もうわかったね。「数学」や「他者」の新しい世界は君の心の中に広がっていくものなんだ。
さあ、先生や仲間といっしょに数学という冒険の旅に旅立とう。
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