%A10 【左官さんの数学】
『タイルはりと内接四角形』
何年か前に、僕のクラスに和田君という生徒がいた。彼は、授業に乗ってこなかった。そればかりか、教室へ来ない事だって何回かあったし、授業に来てもおしゃべりばかりして皆の邪魔をするばかりだった。
・・I君みたいだ。
2学期も終りに近ずいてきて、進路を決めなければならない時がやってきた。日曜日ごとに先生と職場訪問をして、彼は左官になることに決めた。左官さんて知ってる。
・・壁土を塗ったり、タイルを張ったりする職人さんです。
そこで、先生は新しいタイルの張り方を教えたのだ。そのタイルを授業でも取上げた。その授業では彼は今までと打って変わって熱心にやり、ついにはある定理の証明までしてしまったのだ。
・・どういうタイルなの。
このタイルだ。さあ、誰かこのタイルで隙間なく埋めてみてくれないか。
・・四角形なら前にもやったよ。
・・こんなタイルの壁は注文があるのかなあ。
まだ誰も作っていないし、いろいろな色をぬれば、なんとなくわくわくする模様だと思わない。壁を見ながら数学ができるよ。
・・?
こんなでたらめの四角形なのに、何故隙間なく埋めつくすことができるのかとね。
・・頭が痛くなるんじゃないの。
ところで、このタイルは特別の四角形なんだが、分かるかい。
・・?
ちょっと、普通の四角形とは違うように見えるだろう。
・・?
この四角形は円から作ったんだ。円周に4点をとり、四角形の頂点にして切ったのがこの四角形なのさ。これが、特別だと言ったのは、この並べ方とは違う並べ方ができるからだ。I君やってみないかい。
・・できるかなあ。この角を合せると一直線になるんだよな。
見事にできました。こういう並べ方もなかなかいいもんだろう。ところで、この円から作った四角形は、円に内接している四角形だから、省略して内接四角形と名づけます。さて、この内接四角形はどんな四角形なのか。
・・○と△で180度、□と×でも180度になっています。
・・つけたして、向い合う角の和が180度になっている四角形です。
では、円に内接している四角形の向い合う角の和が180度になる事を、証明してみよう。
・・難しくて、分かりません。
そういう時にはどうするんだったの。
・・補助線を引いてみる。
・・前にやった定理が何か使えないか考えてみる。
まず、補助線を考えてみよう。
・・頂点と中心を結ぶ。
・・対角線を引く。
・・直径を引いて、ターレスの定理を使う。
・・接線を引いて、接弦定理を使う。
いろいろなやり方がありそうですね。では証明してみましょう。I君、何ですか。
・・これやって、儲からなかったら弁償してくれるか。
『大工さんの数学』
この定規をなんといいますか。
・・直角定規。
・・さしがねだよ。技術でならっただろう。
このさしがねは、大工さんにとってなくてはならないものです。まず、中心のわからない丸太の直径を、求めることができます。
・・ターレスの定理だ。
【ジオジェブラで、木の直径を探す】
このさしがねは計算機の代りにもなります。たとえば、ここにある丸目という目盛を使うと、直径から円周の長さを求めることができます。
・・えーっと、丸目で、62.8pか。直径は20pだから、20×3.14=62.82か。本当だ。
・・丸目は3.14倍した目盛にしてあるんだな。
さらに、角目という目盛を使うと、直径から、この丸太でできる角材の1辺を、求めることができます。
・・直径を角目で測ると、14.1pか。
・・直径が20pだから、直角2等辺三角形を作って、正方形の1辺を求めると、20÷1.4142=14.14か。ぴったりだ。
・・大工さんたちは、ピタゴラスの定理を知っていたんですね。
次の日、
・・先生、うちのお父さんに、さしがねの事を話したら、さしがねは聖徳太子が発明したもんやと言っていたよ。
そう言えば、理絵さんのお父さんは、大工さんだったね。
・・小さい頃、悪いことをすると、このさしがねでたたかれたから、いい印象はなかったけれど、さしがねにこんな秘密があったなんてびっくりしました。
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