1、サルも5まで数える   では人間は?
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      ニホンザルも5まで数える  − 東北大     (時事通信 2002.2.21)

 サルも5まで数を数え、その際、大脳の頭頂葉の一部にある皮膚や筋肉などの感覚(体性感覚)に関係する領域に近い特定の細胞が働いていることを東北大大学院医学系研究科の丹治順教授らの研究グループが発見した。人間が幼児期に「指折り数える」動作をする理由が合理的に説明されるほか、「数」という抽象的な概念を扱う脳のメカニズム解明に大きな手掛かりを与えるという。
 研究グループはニホンザルを使い、レバーを特定回数だけ押した後、同じ回数だけ回すという動作を続けた場合、ご褒美のジュースを与える方法で行動を観察した結果、5まで数えることが可能と判明した。 

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T:先日新聞を読んでいたら、こんな記事が出ていた。サルは、5まで数えられるという。これを読んで、ふと疑問を持ったんだ。では、人間はいくつまで数をわかっているんだろうかと。
S:いくつまで数えられるよ。万でも、億でも。
T:確かに億まで数えられるけど、それは機械的に数えているだけで、大きさはわかっているのかなぁ。例えば、1億という大きさはどれくらいか本当にわかっているの?
S:千万の10倍だよ。
T:じゃ、千万は?
S:百万の10倍。1万の千倍・・・。
T:人間は数をいくつでも数えられるけど、数の大きさはわかっていないと思うんだ。例えば、1億円はどれだけかわかるかい?
S:そういえば、想像もつかないな。kazu.GIF (1252 バイト)
T:実は私も1千万円ぐらいなら札束を見たことがあるけど、1億円は見たことがないからイメージできない。ところで(黒板にマグネットをいくつか貼って)これいくつ?
S:5個。
T:今、数えた?
S:数えなくてもわかるよ。サルでも数えられるんだから。
T:では、これはいくつ?(マグネットを9個バラバラにはる。)
S:9つ。
T:今度も数えなくてもわかった?
S:うーん。数えたかなぁ。
T:わずか9個ぐらいでもバラバラになっていると、パッと見ていくつかはわからない。ということは、人間もサルと同じで、ぱっと見るだけだと5までしかわからないんじゃないかな。
S:ぱっと見てわかるのは5個までということですか。でも、指で9は数えなくてもわかるよ。
T:それは、片手が5個と知っているからだよ。両手で10。それより1少ないから9と考えているんじゃないかな。
S:ということは、先生は、私たちはどれだけ大きな数でも知っていると思っているけど、実はサルと変わらないということを言いたいわけ?
T:そうなんだ。どんな大きな数でも言うことはできるけど、それがどれだけの大きさなのかはわからない。(つまり、私たちの脳に1億を認識する細胞はないのではないか。)
S:「数えること」と、「ぱっと見ていくつとわかること」が違うということじゃない。
T:そうかもしれない。でもよく考えると、私たちに実感できる大きさは、どれくらいまでだろうか。100kmはわかっているんだろうか。1000kgはわかっているんだろうか。1億年はわかっているんだろうか。
S:私は毎日1kmを歩いてくるから1kmはわかるよ。100kmはその100倍。ここから名古屋までぐらいかな。歩くと25時間かかる。
S:1000kgは1t。50kgの人が20人だ。
S:でも、1億年は実感できないなぁ。ぼくたちはどうやって大きな数をとらえているんだろう?

2、比例のアナロジー(類比・類推)   (認識を拡げる方法)

T:例えば、時間の長さで考えてみよう。私たちは1日はわかる。では1年はどうかな。
S:1年ぐらいはわかるよ。春夏秋冬だからね。
T:では1億年は?
S:わからないな。100年だってわからないよ。
T:わからないのに、科学では1億年前の恐竜の化石など平気で使うよ。
S:1億年前って、どれくらい昔なの?
T:実はこういうときに、人間は「比例」を使う。大きすぎてわからない数を自分の身の回りの大きさに縮小するんだ。例えば、地球に生命が生まれてから今までの時間(30億年)を1年に置き換える。そうすると、1億年は30分の1だから、ちょうど12月20日頃ということがわかる。そして、人類らしきモノの誕生したのは(600万年前)、除夜の鐘の鳴る18時間前だというように。
S:なんとなくはわかるけど・・・。
30億年:600万年=365:χだから、χ=18/25か。
T:つまり、「わかる」ということは、わからないことを自分のわかっていることに置き換えることといってもいい。これを比例のアナロジー(類比・類推)という。
S:ということは、大きな数も相似比を使って身近な大きさに置き換えれば、わかるといいうこと?
T:そうだね。私たちは、身体で実感していることが一番わかるからね。
S:でも、そうやって相似でイメージすることは正しいの?相似だからまったく同じではないんでしょう。
T:そう。「比例」でイメージできないこともある。それは大きすぎたり小さすぎることに当てはめようとするときだよ。例えば、光量子や電子などをイメージしようとして、自分の身近にあるもの(例えばパチンコ玉)に当てはめてみてもだめなんだ。私たちは光でモノを見ているけど、その光より小さいものを見ることはできないからね。「比例」を使う限界があることは忘れてはだめだよ。
S:光より小さいものってどんなもの?

T:空の上の方へ行くと、やがて宇宙になる。ではどこから宇宙なんだだろうか。
S:空気のなくなるところでしょ。
T:そうですよ。空気(対流圏)の厚さは約12キロメートル。とすると、上に向かって3時間も歩けばほとんど空気のないところにたどり着く。
S:なんで3時間なの。
T:だって、人の歩く速さは時速4km。12÷4=3。歩いて3時間で宇宙に行くことができるんだ。このように、身体を使って認識するとわかりやすくなるだろ。
S:でも、チョモランマに登るのはとても大変だよ。
T:それくらい空気の層が薄いということだよ。
私たちは自分の身体に合うものに置き換えてものごとを理解している。これをアナロジー(類比=たとえ)というんだ。
ここで、地球環境をこの「比例のアナロジー」で考えてみよう。

3、地球を半径13cmにすると、何がわかるか

宇宙船地球号のアナロジー
(最初に、これをクリックして、それぞれの問題を予想してみてください。予想し終わったら、説明です。)

T:地球の半径は6370km。どれくらいの大きさかイメージできない。その地球の半径を、ここにある地球儀の大きさ(13cm)に置き換える。そうすると、
長さの比は、1:49,000,000
面積比はその二乗倍だから、1:2,401,000,000,000,000
体積比はその三乗倍だから、1:117,649,000,000,000,000,000,000
S:計算が大変だね。
T:この比を利用して、空気の厚さはを計算してみよう。どれくらいだと思う?
S:今までのことからすると1cmぐらいかな。
T:実際に計算してみよう。厚さは長さだから、成層圏まで入れて15kmを49,000,000で割ると、0.3mmになる。つまり、サランラップくらいの薄さになる。そうすると、たくさんあるようにみえる空気も、実はこの地球儀にサランラップを巻いたようなもの。
S:そんなに空気は少ないの!
S:空気を汚したら大変だ。

T:次は水。地球には14億立方kmの水がある。それは、この地球儀だと・・・どれくらいの量になると思う?
S:水は体積だから1:117,649,000,000,000,000,000,000の比を使う。earth.jpg (19343 バイト)
まず、1,400,000,000,km3をcm3に直すと、1,400,000,000,000,000,000,000,000cm3になる。これを117649000000000000000000で割ると、11.89cm3になる。約12立方センチだ。
T:よく計算できたね。12立方センチとは、養命酒のコップに半分ぐらいなんだ。(養命酒のコップ半分の水を地球儀に流す。)
S:エーッ。たったこれだけ。汚れたら大変だよ。
T:そうだね。しかもこの中で、淡水はその3%。でもほとんどが氷だから、川や地下水は0.8%。そのうち利用可能な淡水は0.01%と言われている。つまり、120立方mmということ。スポイト1滴だよ。
S:こうやって見ると、地球の水と空気が、いかに少ないものかわかるな。
S:今までの地球に対する考えが変わるよ。

T:もう一つの「比例のアナロジー」を紹介しよう。去年、ネット・ロアで有名になった、「もし、世界が100人の村だったら」だ。
世界を100人の村にすると何がわかるのだろうか。いや、世界は大きすぎて、100人にしないとわからないのだ。

もし、世界が100人の村だったら』(リンク)   100人にしないとわからない!

T:地球を自分の考えうる大きさにすると、実感できる。同じように、世界を100人の村にすると、ようやく自分の身体で考えることができるよ。
S:わかるっていうことは、こういうことなの?
S:では、私たちはどうしたらいいの?何かできないの?

4、食糧問題を比例のアナロジーで考える (1kgに置き換えると)

T:君の食べる米は一年間でどれだけ?
S:どれくらいだろう。想像もつかないな。
T:大体米1石といわれている。
S:1石ってどれくらい。
T:1石=10斗=100升=1000合だから、大体5俵だよ。1俵でどれくらいかわかる?
S:1俵って、袋に入っている米?(昔の俵は1俵60kg。1石=2俵半。)
T:大きい袋だよ。これは30kgだよ。僕は米を何俵も運んだことがあるから、30kgは身体で覚えているな。この袋が5つだから約150kgだよ。sabakuka.jpg (11383 バイト)
S:150kgも食べているの。
S:ぼくはもっと食べていると思ってた。

T:では、1kgの米を育てるためにどれだけの水が必要か?
S:それは水の容積?それとも重さ?
T:水はちょうど1m3=1000kg=1tになっているんだ。 (1cm3=1g)
S:だったら、1kgぐらい。
T:米1tを作るのに必要な水の量は5500tというから、1kgなら5.5t。つまり、5.5m3
S:5500倍か。すごいね。
T:穀物1kgを作るのに必要な水の量は?
S:米は水を使うけど、穀物はそんなに水を使わないよ。
T:それがね、実は1000kg=1tの水が必要なんだ。
S:穀物の重さの1000倍の重さの水を使うということか。
T:では、1キログラムの牛肉を育てるために、どれだけの穀物(飼料)が必要か?
S:牛は草を食べているんじゃないの?
T:君たちの食べている肉は霜降りだとかいい肉だろ。そういう牛は、飼料を食べさせているんだ。牛の飼料はとうもろこしなどを混ぜた穀物なんだ。
S:草だけの牛は脂がなくて、すじだけというわけだね。
T:1kgの牛肉を生産するために必要な飼料穀物はトウモロコシに換算して、11kgだと言われている。1kgの豚肉は7kg。1kgの鶏肉は3kg。(1998年農業白書)「忍び寄る水資源の危機」
S:でも、トウモロコシは人間も食べるんでしょ。
T:人間が食べる分を牛に食べさせてよりおいしくして食べているということだね。
S:ということは、牛肉1kgを食べると、11tの水を使っていることになるのか。
T:いいことに気がついたね。実はこのことから、日本が水も輸入している国だとわかるんだ。
S:水は日本にいっぱいあるよ。そんな日本がそうして水を輸入しなければならないの?
T:日本が外国から食料を60%近く輸入している国だということは知っているね。特に穀物類の輸入量は年間2400万tを超えていて、世界のトップクラスなんだ。ということは、その穀物を作るために使った水も輸入していることになるんだ。
S:確かに、2400万×1000t=24000000000m3(t)=24km3の水を輸入していることになるな。
S:世界は水不足だと聞いたことがあるよ。
T:実際に1900年から人工は3倍になり、水の消費量は6倍になったと言われている。世界は水が不足しているんだ。では、日本人はどれくらい水を使っているか。日本人は1人、3t/1日、アメリカ人は6t/1日、アフリカ人は10〜100リットル/1日、使用している。
S:これは南北問題だ。
T:そして、水不足はどこかの遠い国の問題ではなく、穀物の輸入に頼っている日本に直接影響してくる問題なんだ。
S:水がないと穀物が育たないよね。
S:それだけじゃないよ。私たちが肉を食べているとき、それは水不足の国の水を奪っていること同じなんじゃない。

T:もっと調べるよ。人口は1960年(30億人)から現在2002年(61億人)まで2倍に増えているが、食料は2倍に増えたのか?
S:食料が増えないと、飢え死にするよ。だから、食料も2倍に増えたと思う。
T:確かに食料を増やさないと大変なことになる。だから、先進国は緑の革命(1960〜)といって食料増産運動と近代農業を広めることをやってきた。そして、その運動は最初は効果を発揮し食料は増産したが、その結果・・・大地は荒廃した。
S:どうして?
T:まず、農業増産には大量の水が必要だ。そして、水を使いまくった結果、地下水の枯渇、塩害が生じた。
S:塩害ってどうして起きるの?
T:水を使うと土の中の塩分が溶けて地表に出てくるんだ。さらに、表土の流出による砂漠化・・・。アラル海の水はソ連の灌漑農業のおかげで半分以上も減ったという。
S:質問だけど、牛や豚や鶏が食べる穀物って、人間も食べれるんでしょう。そしたら、それを飢饉の所に回せば、食糧不足もふせげるんではないの?
S:そうだよね。牛に食べさせたら、食料は11分の1に減ってしまうということだからね。
T:霜降りの肉を食べるために、穀物を使っていたら、食料は減るだけだよね。でも、君は霜降りの肉を食べるのを我慢できるの?
S:ちょっとは食べたいけど。
T:東南アジアやアフリカの人たちから見たら、日本人は牛肉を食べ過ぎですよ。
S:何倍ぐらい食べているの?

5、食物連鎖

sakana.jpg (12526 バイト)T:1kgのマグロはどれだけの魚を食べているか知っているかい?
 マグロはその10倍の量の鰯を食べて成長するという。ということは、1kgのマグロの肉は10kgの鰯からできていることになる。ところで、鰯はその10倍の量の動物性プランクトン(オキアミなど)を食べて成長する。ということは、10kgの鰯は100kgの動物性プランクトンからできていることになる。動物性プランクトンもその10倍の植物性プランクトンを食べて成長している。ということは、100kgの動物性プランクトンは1000kg(1トン)の植物性プランクトンからできていることになる。
 もし、私たちが1kg.のマグロを食べたら、それは、1000kgの植物性プランクトンと100kgの動物性プランクトンと10kgの鰯を食べたことになる。
S:えーっ!1111kgを食べたと同じことになるの。
S:だから、マグロを食べるなと言うこと?
T:いや、そうじゃない。これは地上の農業の場合とは、かなり違うような気がするんだよね。これは生態系の問題なんだ。そのどこかが狂うと全体がおかしくなる。鰯を食べるマグロが増えると、鰯が少なくなるだろ。すると、今度はマグロが生きていけなくなるからマグロが減る。
S:マグロが減れば、鰯が増える。・・・。
S:先生、植物プランクトンは自然に生まれるんですか?
T:いい質問です。植物だから太陽の光と栄養があれば生まれると思うだろうけど、実は大事なものが必要なんだ。それは、フルボ酸鉄。
S:それって鉄なの?そういえば、人間にも鉄は必要なんだよね。鉄が不足すると、貧血になるよ。
T:海底の泥の中にはフルボ酸鉄が含まれている。冬に冷たくなった表面の海水が底の方に沈み、代わりに海底の栄養豊富な水(深層水:窒素・リン・カリが含まれている)が泥と一緒に巻き上がってくる。そして春になり、フルボ酸鉄が作用して太陽の光で光合成が活発になり、植物プランクトンが爆発的に増える。
S:ということは、植物プランクトンは無限に生まれてくるわけ?
T:いや、そのフルボ酸鉄はもともと海底にあったのではなく、地上の土の中にある鉄イオンが、木の葉などが腐食してできるフルボ酸と結びついてできる。つまり、フルボ酸鉄は山で腐食した腐葉土層ででき、川で海に運ばれるのだ。
S:ということは、山がないとフルボ酸鉄ができなくて、植物プランクトンも生まれない。
S:植物プランクトンがいないと、魚は育たない。
S:つまり、川が魚を育てているということか。
T:山の動植物だって、川が海から生き物を運んでくるから育つんだよ。
S:海から何を誰が運ぶの?
T:鮎やサケ、マス、カニなど海から川をさかのぼる生き物はいっぱいいる。海で大きくなって、川を上り、それを熊などが食べてウンチをすると、海から栄養が山に戻る。そういう生態系があってこそ、海も山も育つんだ。
S:すげー!

参考文献 「なぜ世界の半分が飢えるのか」スーザン・ジョージ著、朝日選書。「森は海の恋人」畠山重篤著、北斗出版。「奪われし末来」コルボーン著、翔泳社。

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