%4
【数学アラビアンナイト】
『第1話 九九の研究』
九九が日本独自なものであることは知っているだろう。かの、万葉集にもちゃんと使われている。(一六と書いてししと読む)ところで、アメリカでは九九をどう覚えるのか知りたいと思わないかい。
--同じ様な歌みたいなのがあるんじゃないの。
そこで、アメリカから来たばかりの英語の講師に、英語で九九をどういうのか聞いてみた。もちろん英語でね。
--先生、英語をしゃべれるの。
もちろん。彼が言うには、丸暗記するらしい。何か、songの様なものがあるのかと聞いたら、times
table という表があるといって、書いたのがこれだ。
Multiplication Table OR Times Table
× 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12
2 4
3 9
4 16
5 25
6
7
8
9
81
10
100
11
121
12
144
3Ft=1Yard 12inches=1Ft 1SquareFt=144 Squqreinches
--九九の表と同じなんじゃない。
--でも、12×12=144まであるよ。なぜ?
彼が言うのには、アメリカの長さの単位はインチやフィートだから、12進法で計算する。1フィートが12インチだから、1平方フィートは144平方インチという事になるから12までの
times table が必要なのだ。
--アメリカに生まれなくって良かった。それで、どうやって覚えるの。
うん、そこを聞きたかったわけなんだが、彼は質問の意味が分からないといった。色々聞いたら、どうやら、表を丸ごと暗記するらしい。
--それで本当に覚わるの?
たとえば、表ごと覚えるのだが、2×3=6なら two times three are
(equarles) six.というように言って丸暗記するらしい。念の為に、それだけで本当に皆が覚えられるのかと聞いたら、そうだと言う。
--ちょっと、眉唾ものだね。
いずれにしても彼等は掛け算が苦手らしい。次にあげるのがその証拠だ。九の段を指で計算していたのだ。
九一が九。九二十八。九三二十七。九四三十六。…
--本当だ。簡単だ。
--これなら、九九を知らなくてもいいや。
--でも、九の段だけでしょう。
フランスの農民(モンゴル人も)は五の段まで知っていれば、あとは指で計算できるという九九をやっていた。
たとえば、7×8は左指を7つ数え、右指を8つ数える。
立っている指を足すと十の位。折っている指をかけると一の位になる。
7×8=10×(2+3)+(3×2)=56
--本当だ。半分九九を知っていればやれる。
わけは
(5+a)(5+b)=10(a+b)+(5-a)(5-b)
もう一つ、証拠がある。それはネーピアの計算棒だ。
『第2話 古代インド式計算とネーピアの計算棒』
これは、今から300年ぐらい前のヨーロッパの計算機だ。
--ただの棒じゃない。
良く見てください。何か書いてある。
--本当だ。数字が書いてある。
実は、ここには九九が書いてある。
これで、23×45を計算してみよう。まず、横に見て二の段の棒と三の段の棒を並べる。
そして、縦で4と5の所を見る。
2と4、2と5、そして3と4、3と5の交差したところの数を斜めに足す。
図 ネーピアの計算棒
1 |(2)|(3)| 4 | 5 |
| /| /| /|1/|
2 |/4|/6|/8|/0|
| /|1/|1/|1/|
3 |/6|/9|/2|/5|
| /|1/|1/|2/| 1/
(4) |/8|/2|/6|/0| 8/2
|1/|1/|2/|2/| 1/1/
(5) |/0|/5|/0|/5| +/0/5
|1/|1/|2/|3/| 1 0 3 5
6 |/2|/8|/4|/0|
|1/|2/|2/|3/|
7 |/4|/1|/8|/5|
|1/|2/|3/|4/|
8 |/6|/4|/2|/0|
|1/|2/|3/|4/|
9 |/8|/7|/6|/5|
--本当だ。答になっている。でも、なぜ斜めに足すの?
じゃ逆に聞くけど、 23 この計算はどこがおかしいの?
×45
115
92
207
--92を1桁ずらしてない。 115
+
92
なぜずらすのか説明できる。 1035
--?
面積図
そのことを、面積図で説明してみよう。23m×45mと考えれば、長方形の面積を出すことになる。この長方形の縦を20と3に分け、横を40と5に分けると、4つに分れる。そこで、それぞれの長方形の面積を求めると、800u、120u、80u、15uとなる。
--800+120で920だから92というのは920のことか。つまり、0があるわけだ。
この計算を古代インドでは、このような図を使って計算していた。
図 この計算は527×34で長方形の面積を出す。
最後に中の数を左斜め下に足す。
--これは、ヨーロッパの計算棒と同じだ。インド人て賢いなあ。
現代は斜めに足すかわりに、ひと桁ずらすわけか。
ところで、 47
×43 4×(4+1)=20
と 7×3=21で
2021
と計算できることを知っているかな。
--本当だ。そうなる。こんな簡単な方法があったんなら、なんで早く教えてくれなんだの。
あわてない。あわてない。何故こういう計算ができるのかが分からないと豚に真珠。このわけも、面積図で説明できるのだ。
縦47、横43の長方形を考える。縦を40と7に分け、横も40と3に分ける。
7×40の部分と3×40の部分を合せる事ができる。すると、10×40の長方形ができる。40×40の長方形と合せると、50×40の長方形になる。あとは3×7の長方形があるから、合計で2400+21=2421となる。
--面積図って便利なんだね。でもこの計算は、もしかして1の位は足して10にならんといかんのじゃないの。
152 =225
252 =625
352 =1225 3×(3+1)=12 5×5=25
そうだよ。それに、10の位も同じじゃないといかん。15の2乗
や25の2乗の計算には便利だけど、全ての掛け算に使えるわけではない。残念だったね。このやり方は万能ではなかった。
--なーんだ。
図
でもこの面積図を使うと、展開や因数分解などの式の計算が簡単にできる。たとえば、
(X+3)(X+5)=X2+8X+15
左辺は縦×横で、右辺はその長方形を4つにばらし、同類項を足すことになる。
--長方形をバラバラにするから、展開というのか。
この計算も暗算でできるよ。
99×101=(100−1)(100+1)
=10000−1
=9999
『第3話 田んぼシェーマ』
縦も横もXの正方形と、縦はXで横は1の長方形、縦も横も1の正方形を作る。
面積を考えてみよう。縦も横もXの正方形はX^2、縦はXで横は1の長方形はX、縦も横も1の正方形は1の面積になるね。さて、Xの2乗の正方形は1個。Xの長方形は5個。1の正方形が6個ある。これを並べなおして、一つの長方形にしてみなさい。
--きちんとした長方形でないといけないわけですね。
--できた。
この長方形の面積は?
--X2+5X+6です。
--縦×横で、(X+2)(X+3)でもいい。
面積図をバラバラにすることを展開といいます。このように、逆にバラバラのタイルを一つの長方形にする事を因数分解といいます。
この時、面積図を使うと大変便利です。この面積図は田んぼに似ているのでこの図を田んぼシェーマと名付けます。
--田舎臭いネーミングだね。
X2+2X−8 を田んぼシェーマを利用して、因数分解してみよう。
X2は左上に、−8は右下に入れる。Xの2乗は正方形だから1辺の長さはX。−8は○×□で−8の長方形。左下の長方形の面積は□Xで、右上の長方形は○X。両方足して、2Xになる。
--かけて−8、足して2になる2つの数は、4と−2だから、○と□が分かります。
O.K.! だから、縦×横で(X−2)(X+4)と因数分解できます。
--なるほど。良く分かる。
『第4話 アラビアンナイトとアラビア数字』
この絵を見てください。この話の主人公は、誰だか知っていますか。
--アラジンとアリババとシンドバット。
この物語の書いてある本を。
--アラビアンナイト。千夜一夜物語。
この本は実に面白いから、是非読んで欲しいな。これは、今から千年前、シンドバットのいた世界。このイスラム帝国は、アジア、アフリカ、ヨーロッパにまたがる大帝国を築き、当時の世界の文明の最先端をいっていた。日本は奈良時代だ。
--それで、奈良大仏のつもりか。
さて、この国の残した遺産が、先程のアラビアンナイトという本だが、もう一つある。それは何か。
--?
ヒント。今でも使われているし、我々の生活に欠かす事ができないくらい重要なものです。
--数字?
ローマ数字とアラビア数
TUVWXYZ[\]CLM D=50 C=100 L=500 M=1000
そう。皆の使っている数字をアラビア数字という。この数字は、たった十個の文字だけで全ての数を表わすことができる。よく時計の文字盤に使われているローマ数字は、この東ローマ帝国からヨーロッパに広まっていた。
当時の中国の唐では、漢数字(一二三四五六七八九十百千万…)が使われていた。
--日本も漢数字だね。
この三つの数字を比べてみよう。
漢数字だと 一千九百八十六年
ローマ数字だと MLCCCCDXXXY年
アラビア数字なら 1986年
--アラビア数字だと0を入れて10個の数字ですむけど、漢数字やローマ数字では十百千の位の数字もいる。
--ローマ数字よりは漢数字の方が簡単。
このアラビア数字は表わし方が便利なだけではない。計算も大変便利なのだ。たとえば、漢数字で一千九百八十六×三百二十七を計算してみよう。
一千×三百 = 三十 万
一千×二十 = 二万
一千×七 = 七千
九百×三百 = 二十七万
九百×二十 = 一万八千
九百×七 = 六千三百
八十×三百 = 二万四千
八十×二十 = 一千六百
八十×七 = 五百六十
六×三百 = 一千八百
六×二十 = 一百二十
六×七 =
四十二
足して 六十四万九千四百二十二
アラビア数字だと
1986
× 327
13902
3972
5958
649422
ローマ数字だともっと大変。あまりに計算が大変なので、発達したのが?
--そろばん。
--ヨーロッパにもそろばんがあったの。
アラビア数字が入ってくる前のヨーロッパでは、ローマ数字だからこの計算がさらに複雑になる。だから、算盤というそろばんの一種が使われていた。十字軍を通じてこの優れた文化が、アラビアからヨーロッパに伝わったのは、この後のこと。
--今の計算の方が、ずっと楽だね。
今、みんながやっている計算方法はこの時代に基礎が作られたんだ。
--そんなに昔からあるの。
この数字と計算方法を発展させ、全世界に伝えたのが、シンドバットやアラジン、アリババ達アラビアの商人だったのだ。
--商売と計算は切り離せないもんね。
--アラビアンナイトとアラビア数字は別々のものではないということを言いたかったのか。
--私は、アラビアンナイトの主人公達が商人というのが不思議だったけど、理由がわかった。
ただし、彼等は架空の人物。この計算を発展させた実在の人物を紹介しよう。今から千年ほど前、アッバス朝の主都バクダッド(当時、100万人をこえる人口をかかえ《平和の都》と言われていた。)の大数学者アル=クワリズミ先生。彼は、インドから伝わったアラビア数字を基に計算法を考えそして、二次方程式の解き方まで考えていた。この先生の名前は今も使われている。アルゴリズム体操って知っているね。
--ピタゴラスイッチの後に、「いつもここから」がやっている体操でしょ。
「わしの名はアブー・アブダラ・ムハマッド・イブン・ムーサー・アル=クワリズミ・アル=マグージーである。今から千年ほど前、バクダッドで活躍した大数学者じゃ。わしはめんどくさい計算を簡単にすることを考えた。そして、2次方程式を図を使って解いたのじゃ。図を使ったのは、当時Xを使うような文字式がなかったからじゃ」
『第5話 アル=クワリズミ 』
この問題がアル=クワリズミの出した問題だ。
さあ、挑戦してみよう。
《輝く瞳を持っている美しい乙女よ、貴方は平方根の正しい求め方を知るや。しからば、我に語れ。ここに1枚の正方形の板があり。この正方形の4隅から1辺3pの正方形を切取って箱を作ったところこの箱の全表面積が64cuなり。この箱の底面の正方形の1辺はいくらなりや。》(本当は、違う問題だが解きやすいようにアレンジした)
--まず、図を書けばいいのだな。
--展開図を書いて、分かっている事を書込むと。
--そうか!
--小さな正方形の面積が9cuだから、全部で36cuとなり、元の正方形の面積は36+64=100cuとなります。面積が100cuの正方形の1辺は平方根をとって10pになるから、10−3×2=4pが答です。
素晴らしい。アル=クワリズミのやり方とほとんど同じだ。
ただし、100の平方根は±10ですよ。
--忘れてた。でも、長さだから−10は当てはまらない。
--別のやり方だけど、3pの正方形を1ヵ所に集めて、側面を右と下に持ってくると、田んぼシェーマになります。
--それを式にすると
(X+6)(X+6)=36+64=100
平方根を使って、X+6=10
X =4
おっ!ここまで考えると、もうアル=クワリズミを超えている。
--なるほど。こうすると、因数分解ができるし、展開すれば2次方程式ですね。
ただし、アル=クワリズミの時代には負の数はなかった。だから、彼は正の数しか答に入れていない。
--式で考えると、
(X+6)2=100だから
X+6 =±√100
=±10
X =±10−6
=4,−16
となるけど、彼は−16は答と認めなかったんだな。
--この板の長さが−16pなんておかしい。
2次方程式は田んぼシェーマを使うと簡単に解けます。
X2+6X =5 を解いてみよう。
まず、これを面積図で表わします。X(X+6)=5
左の長方形を正方形にすると、平方根が使えます。どうしたら正方形になるかな。
--6Xを3Xと3Xに分けて、Xの2乗の右と下に付ければ正方形になります。
--でも、足りないところがあるよ。
どれだけ足りないの。
--正方形だから、3×3で9だけ足りない。
それを左辺に足すと?
--右辺にも足さなくてはいけない。
--式は(X+3)2=9+5=14
--平方根を使うと X+3=±√14
--つまり、 X =−3±√14 ということか。
--これが、答なの?
平方根表を使って計算すると、0.741657・・・と−6.741657・・・の二つになる。
--√を使って書いても答なんですか。
少数で表わせないから√で表わします。ちょうど割切れない時に分数で表わすようなものです。
--[ややこしくてなんだかわからないなぁ。]
参考文献 『科学図説シリーズ9数の世界』矢野健太郎著、『ピタゴラスから電子計算機まで』板倉聖宜編、『数学教室』国土社