「じゃんけんグリコ」の数学

〜ゲームの理論超簡単入門・最適戦略の考察〜

T:『生き物の進化ゲーム』という本を読んだ。そこには、ゲームの理論を使った生物の進化の研究が書いてあった。以前にも「ゲームの数学」でゲームの理論らしきものを少し扱ったけど、進化への応用という面で大変興味深いので、再度取り上げる。まず、手始めに、次のゲームを紹介しよう。

1、グリコとチヨコレイトとパイナツプル

T:じゃんけんで階段のぼりをするというゲームがあるよ。
S:知っている。グーだとグリコ。チョキだとチヨコレイト。パーだとパイナップルといいながら、階段を登るんだ。
S:小学校の頃、よく遊んだよ。
S:そんなのおかしい。グーだけ損だ。グーは3段、チョキとパーは6段だろ。みんなグーは出さないよ。
S:チョキとパーでは、チョキの方が強いから、チョキを出せば、有利ということでしょ。
T:ところがね、相手がそう考えて、チョキを出せば、グーを出すというようにけっこう複雑になって、得点が同じよりも面白いゲームになるんだ。
S:こつこつ得点を積み上げるか、大きく上がるか、その人の性格が出るような…。

T:さて、今日の問題は、「じゃんけんグリコでどんな手を使えば勝てるのか」
S:面白そう。
S:こういう問題は、確率を使うんでしょう。
S:その確率を使って、これを表にすると、次のようになります。(表A)

表A (割合) 1 1 1           1 1 1
自分\相手|ぐ ち ぱ     自分\相手|ぐ ち ぱ
  1 ぐ | 0 +3 -6       1 ぐ | 0 +1 -1
  1 ち |-3 0 +6  →    1 ち |-1 0 +1
  1 ぱ |+6 -6 0       1 ぱ |+1 -1 0
  (割合)         (普通のジャンケンは得点が全て1と考えられる)

T:この表Aはわかり易いですね。ただし、+−の数は自分から見た利得を表わしています。マイナスは相手の得点になります。0は引き分け。それから外側の数字は、出す割合です。
S:それぞれ、同じ割合でランダムにじゃんけんをした場合の結果ということですね。
S:合計は0ですね。でも、これだと、チョキを出すのが一番有利みたい。
S:やってみよう。チョキを2倍にしてみよう。(表B)

表B     1 1 1     表C     1 1 1
自分\相手|ぐ ち ぱ     自分\相手|ぐ ち ぱ
  1 ぐ | 0 +3 -6  →    1 ぐ | 0 +3 -6
  2 ち |-6 0+12       3 ち |-9 0+18
  1 ぱ |+6 -6 0       1 ぱ |+6 -6 0

S:確かに、表Bは全体で+3になりますね。この割合でやっていれば、勝てますね。
S:(表C)チョキを3倍にすればもっといいよ。+6になる。
S:でも、これだと、相手がパーを出さなければ勝てないよ。相手はきっとすぐに気がつくよ。
S:さらに、相手もチョキを多くしてくる。(表D)

表D     1 3 0     表E     1 3 0
自分\相手|ぐ ち ぱ     自分\相手|ぐ ち ぱ
  1 ぐ | 0 +9 0  →    1 ぐ | 0 +9 0
  2 ち |-6 0 0       0 ち | 0 0 0
  1 ぱ |+6-18 0       0 ぱ | 0 0 0

S:全体で-9となって、相手がかなり有利になる。
S:そうすれば、こちらはチョキとパーを0にして、グーにする。(表E)
S:だったら、相手はパーにする。
S:一種類だけの手は単純すぎるな。やっぱり混ぜて出した方が良いよ。だいたい単純なやつはすぐに負けるもんだ。
S:だったら全部出すことにして、出す割合を問題にするんですね。
S:でもね、こんなことをやっていたらきりがないよ。
S:わかった! 行列を横に見て、プラスの所の割合を多くすれば良い
S:でも、そうすると、相手も縦に見てマイナスが多い所の割合を多くする
S:もしかしたら、絶対勝てる方法はないのじゃないかな。
T:そうですね。勝とうと考えると、必ず相手がそれに勝つ手を考え出します。
S:そもそも、2人の利得の合計は0になるでしょう。もし、マイナスの場合は0に近づこうとするし、こちらの手と同じ手を相手もやれるわけだから、お互いが最善を尽くせば、0になるのが普通じゃないのかな。
S:世の中に、自分だけ得するようなうまい手があるわけじゃない。
T:ということは、「必ず勝てる手」はないということになりますね。


2、負けない手はあるのか

T:では、今度は負けない手はどうでしょうか。
S:負けない手?引き分けになるということ?そんなの意味ないじゃん。あくまで勝たなくっちゃ。
S:でも、負けない手ってあるかもしれない。考えてみよう。
・・・
S:わかった!!相手がどんな手を打とうが、ちょうど0にすればいいわけだから、縦の列を0になるようにすれば良い。(表F→表G)

表A     1 1 1     表F     1 1 1
自分\相手|ぐ ち ぱ     自分\相手|ぐ ち ぱ
  1 ぐ | 0 +3 -6  →    1 ぐ | 0 +3 -6  ←(ここを2倍にすると
  1 ち |-3 0 +6       2 ち |-6 0+12    縦がちょうど0になる)
  1 ぱ |+6 -6 0       1 ぱ |+6 -6 0


表G (割合) 1 1 1
自分\相手|ぐ ち ぱ
  2 ぐ | 0 +6-12  -6
  2 ち |-6 0+12  +6
  1 ぱ |+6 -6 0   0

           0  0  0  (自分も全体で0)

S:これ(表G)だと、縦はグー・チョキ・パーそれぞれ0だから、相手がどんな手を出してこようが得点はプラスにはならない。
T:この場合、この得点は確率と考えてもいいし、期待値と考えても良いですね。
S:ということは、負けないわけか。つまり、グーとチョキを2、パーを1の割合(ぐ:ち:ぱ=2:2:1)で出すと、負けない手になるわけか。
S:でも、負けないだけだろ。やっぱり勝たなくっちゃダメだよ。

3、あくまで勝つための戦略

S:いやいや、この負けない手が見つかっただけでも、けっこう大きいよ。だって、この手を使えば負けないんだから。
S:そうだね。最初、この手を使っていて相手の傾向を見る。もし、その傾向が2:2:1以外ならば、必ず負かす手がある。
S:そうか。それをわからないように、混合して出せば、勝てるということになるね。
S:でもさ、じゃんけんグリコをやっている時に、いちいち記録をとっているわけにはいかないじゃない。
S:それは、頭の中でやるのさ。
S:そんなの無理だよ。
S:いずれにしても、2:2:1で出していれば、負けない。
S:これって、意外な気がするよね。グーが少ない方が良いと思ったけど、グーを出して、パーを少なくするんだ。
S:1:1:1ではダメなのかな。
S:それだと、さっきの負ける手があるよ。
S:ということは、相手にとっても、この2:2:1が最善の手ということになるね。
S:さっきの戦略も相手が知っていると、先に動き出した方が負けるということですからね。
S:これを見ると、互いに利益を分け合うのが、最善という気がしてくるね。
T:同じ条件で、互いに最善を尽くすと、互いの利益は0になるということです。

4、他の場合に拡張してみよう

T:グリコとチョコレイトは同じだけど、パイナップルケエキに変えたらどう?
S:パーを9点にすると、どうなるかということですね。例によって、行列の表にすると、・・・
S:これにも、負けない手はあるのかな?

      1 1 1    表H     1 1 1    表I     1 1 1
自分\相手|ぐ ち ぱ    自分\相手|ぐ ち ぱ    自分\相手|ぐ ち ぱ
  1 ぐ | 0 +3 -9  →   1 ぐ | 0 +3 -9  →   2 ぐ | 0 +6-18
  1 ち |-3 0 +6      3 ち |-9 0+18      3 ち |-9 0+18
  1 ぱ |+9 -6 0      1 ぱ |+9 -6 0      1 ぱ |+9 -6 0


S:チョキを3倍すれば(表H)、一列目は0。二列目を0にするには、グーを2倍すれば良い。(表I)そうすると、3列目もピタリそろう。
S:グー:チョキ:パー=2:3:1だ。一番得点が多いパーは、出し過ぎてはいけないんだ。
S:負けない手は、ちゃんとあるんですね。どんなゲームにも負けない手はあるのかなぁ。
T:さて、このように見たら、普通のじゃんけんは、どの手が一番いいのだろうか?と考えられますね。
S:(1:1:1)が負けることも勝つこともない手ですね。これを最適戦略というのかな。
T:次は、これを生物の進化に応用してみましょう。

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