ジャンケンで探るゲーム理論入門

1、グーとパーだけのジャンケン

S:そんなの面白くないよ。
T:いやいや、これが結構奥が深い。ただ、ルールを少し付け足すよ。

ルール
 (1)グーとパーでは、もちろんパーの勝ち。
 (2)あいこでは0点とする。
 (3)パーで勝てば2点。グーで負けても1点もらえる。
S:これを表Aにしてみよう。ジャンケングリコと少し違うな。

表A    ぐ ぱ       ぐ  ぱ _
  ぐ| 0 1  → ぐ| 0,0 1,2
  ぱ| 1 0    ぱ| 2,1 0,0

S:得点が自分と相手で違うから、利得を二通りに書く必要があるね。左が自分の利得で、右が相手の利得か。しかも得点の合計は0にはならない。お互いから取りあうのではなく、どこかから利益を得るという方式ですね。
S:これ世の中にありそう。
T:さあ、このルールでゲームをやるとどんなゲームになるだろうか。
S:10回やってみよう。
 パー:グー  パーが2点で、グーが1点。
 パー:パー  どちらも0点。
 パー:パー  どちらも0点。
 パー:パー  どちらも0点。
 ・・・
S:これでは、点数が入らないよ。
T:じゃあ、どうしたら点数が入るのか考えてみて。
S:10回のうち、5回を相手がパーで自分がグー。次の5回を逆に、自分がパーで相手がグーだと、それぞれ15点取れるよ。
T:いいアイディアだけど、それだと「談合」になってしまうよ。
S:いつも不思議に思うんだけど、談合って協力しているでしょう。協力するのは良いことなのに、なぜ犯罪になるの?
T:二つ理由があると思うよ。一つは事業を公的な機関がやる場合、税金をより使うことだから。もう一つは市場経済では自由競争の方が協力よりも大事だからじゃないかな。
S:つまり、相談せず(相手と協力しないで)確率にのみ頼って勝負するなら、どうしたらいいのか?という問題なんですね。
T:そうです。こういうゲームを「非協力ゲーム」といいます。問題を出しなおしますよ。


2、非協力ゲーム

問題 もし、お互いにランダムに出すとするならば、どの割合で出せば最も得点が高くなるか?

S:どちらもパーだと0点だから、こちらはグーにすると、少なくとも10点は入ることになるから、パーを出すよりは良い。
S:でも、相手は20点だろ。悔しくない?
S:じゃあ、相手よりも点数を多くするにはどうしたらいいのかということかな。
S:相手の出方次第だね。
T:相手も決まった法則で出すと見破られてしまうから、ランダムに出すとしよう。ただし、グーを出す割合は決めているとするならどうなるだろう。
S:相手のグーを出す割合に応じて、自分の利得が最も多くなる方法を考えてみるということですね。例えば、お互いに同じ割合でグーを出すとすると、次の表Bのようになります。

              表B     0.5    0.5
    ぐ  ぱ            ぐ     ぱ  _
 ぐ| 0,0 1,2   ⇒  0.5 ぐ|  0,0  0.25,0.5
 ぱ| 2,1 0,0      0.5 ぱ| 0.5,0.25  0,0

S:このときに利得は期待値で求めることができるよ。右の表のように、確率×得点で期待値が出るから、それぞれ0.5+0.25=0.75=3/4となるね。


3、利得の期待値を求める

T:ここで、自分にとって一番利得が高くなるのかを、この期待値で考えてみよう。
S:ということは、確率がいくつの時の利得が一番高いのかを求めれば良いのですね。まず、自分のグーの確率を]とし、相手のグーの確率をYとします。そうすると、パーの確率はそれぞれ1−],1−Yとなるから、次のようになって、
表C
       Y  1−Y            Y         1−Y
       ぐ   ぱ             ぐ          ぱ    _
 X  ぐ| 0,0  1,2   →  X  ぐ|  0,0    (1−Y)X,2(1−Y)X
1−X ぱ| 2,1  0,0     1−X ぱ| 2(1−X)Y,(1−X)Y   0,0

自分の利得の合計は、(1−Y) X+2(1−X)Yだ。この値をZとして、このZが最大になる場合を考えてみよう。
 Z=(1−Y) X+2(1−X)Y=X−XY+2Y−2XY=X−3XY+2Y
  =(1−3Y)X+2Y
これを、Xの一次関数と考えると、傾きが右上がり、0、右下がりに分けることができる。そのときZが最大になるには、

(1) 0≦Y<1/3 のとき、X=1で、Z=1−Yで最大。相手の利得は2(1−Y)。
(2) Y=1/3   のとき、Xがどんな値でもZ=2/3。相手の利得はX+1/3。
(3) 1/3<Y≦1 のとき、X=0で、Z=2Y。相手の利得はY。

S:わかりにくいから表にしてみよう。
表D
    Y  0 1/10 1/5  1/4  1/3  1/2  2/3  3/4  4/5 1
    X  1  1   1   1   1/3  0   0    0    0   0
自分の利得  1 9/10 4/5  3/4  2/3  1   4/3  3/2  8/5 2
相手の利得  2 9/5  8/5  3/2  2/3  1/2  2/3  3/4  4/5 1

S:自分の利得が一番多いのを追求すると、相手が多くなるときがあるよ。
S:そうだよね。やっぱり相手よりも利得が多くなくっちゃ。
T:そうすると、さっきの条件を変えて、自分の利得が相手よりも多くなるようにするにはどうしたら良いのかを考えてみよう。


4、均衡する戦略

T:では、どうしたら良いのだろうか。
S:0≦Y<1/3 のとき、X=0にするといいのでは。
表E
    Y  0 1/10 1/5 1/4 1/3 1/2 2/3 3/4 4/5 1
    X  0  0   0   0   0   0  0   0   0  0
自分の利得  0 1/5  2/5 1/2 2/3  1  4/3 3/2 8/5 2
相手の利得  0 1/10 1/5 1/4 1/3 1/2 2/3 3/4 4/5 1

S:これだといつも相手よりも利得が2倍になるね。
T:でも、これを相手も見ると、当然作戦を考えてくる。
S:相手も同じ戦略を取ると、二人とも利得は0になる。それでは困るな。
T:ここで注目してほしいのが、Y=1/3のとき。このときXはどんな値でもよい。
S:そうか。Xも1/3にすればいいんだ。そうすれば、お互いに2/3ずつになる。
S:でも、(2)でXもYも1/2のときは、利得が3/4となったよ。こっちの方が大きいよ。
S:同じ値で最高になるのは1/2なんだろうか。もっと多くなる場合があるかもしれない。
同じ値だからX=Y。
 Z=(1−3Y)X+2Y=(1−3X)X+2X
  =−3X^2+3X=−3(X−0.5)^2+3/4
S:同じ値だと1/2のとき3/4で最大だよ。
S:ということは、お互い1/2にすれば、最大の利得があるということか。
S:でも、X=1/2だと、自分の利得をもっと上げることができるよ。
表F
    Y  1/2 1/2 1/3 1/3
    X  1/2  0  1/3  0 _
自分の利得  3/4  1  2/3 2/3
相手の利得  3/4 1/2 2/3 1/3

T:そうすると、1/2か、それとも1/3か、どちらがいいのでしょうか。
S:自分がX=1/2をとったときと、1/3をとったときの違いを考えてみればいいんだ。
X=1/2のときは、 
表G   Y   0  1/2  1    Y
    X  1/2 1/2 1/2   1/2
自分の利得  1/2 3/4  1 (1+Y)/2
相手の利得   1  3/4 1/2  1-Y/2

X=1/3のときは、
表H   Y   0  1/3  1    Y
    X  1/3 1/3 1/3  1/3
自分の利得  1/3 2/3 4/3 Y+1/3
相手の利得  2/3 2/3 2/3  2/3

S:この二つの表を見比べると、相手の利得が変化するかしないかだけだね。
S:X=1/2の場合は、均衡はお互い1/2しかない。相手が自分の利得をさらに上げようとすれば均衡しない。
S:X=1/3の場合は、相手の利得は変わらないから、相手がこちらの利得を最小にするか最大にするか考える余地はある。
S:そのとき、(相手が)自分は変わらないから、相手も最大の利得をと考えれば、1/3で均衡する。
T:まとめてみようか。一番利得が多い順番に、
(1) 談合方式  → 利得はお互いに1.5         (協力ゲーム。)
(2) X=1/2 → 相手も1/2にすれば、利得は3/4 (分析し尽くせば、非協力ではこれがお互いの最大利益を生む。)
(3) X=1/3 → 相手も1/3にすれば、利得は2/3 (相手の利得を一定にする。一般的な均衡。)
S:でも、お互いにこのように合理的に考えるのかなあ。人間には欲があるから。

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