三角形極線の極線

三角形極線におけるある定理の発見と証明

0,はじめに

誰でも発見できる.誰でも証明できる.数学が得意でなくても.
だって定理は経験の中にすでに在り,証明はそれを本当に思い出すことだから.
「自分の経験の中に真理(法則)が在るとわかれば,悩まずに粘り強く考え続け,そして苦しむことができるんだ.」

1,発見の道すじ

@三角形の極と極線

T:三角形の内接円の接点と頂点を結ぶと3線は一点で交わります.
S:その点は内心とは違うんですね.
T:そうです.この一点をジェルゴンヌ点といいます.

ジェルゴンヌの定理

S:これは楕円でも成り立つような気がする.
S:ABの距離を長くすると楕円になるよ.
T:このジェルゴンヌ点を極とする円の極線から三角形の極と極線を考えることができます.
S:円を消して三角形だけの極と極線を作図してみるのですね.
S:そうすると,円と同様に今度は三角形の極線を考えることができる.
T:そうです.例えばこの図を見てください.

内分外分からメネラウス・チェバの定理の証明へ

S:DやEを動かしてもB’は動かない。不思議だな。
S:Eが極ということか.つまり,三角形の極と頂点を結んだ線と極線は,AとBを内分と外分に分けるんだな.
S:この比はメネラウスの定理から言える.これって大事な比だね.
S:それにCGの直線を引くと,三角形の極線も作図できる.

A逆を試す

T:さあ,三角形の極線を調べてみよう.
S:円や楕円の極から極線を作ってその極線上の点を極とする極線は元の極を通った.
  ⇒【円の極と極線】のページへ
S:だから,三角形の極線上の点を極とする三角形極線は元の極を通るんじゃないかな.
S:作図してみよう.

S:あれ?D(極)を通っていない.どうして?
S:この線は何だろう?
S:この直線を右クリックして[残像]をチェックしてみよう.点Jを動かしてみると・・・
S:あれ,楕円になっているような気がする.
S:包絡線が楕円だとすると,この直線は楕円の接線ということだ.
S:じゃあこの楕円を作図して確かめてみよう.

Bこの楕円は三角形の極と極線が作る内接楕円

S:三角形の内接楕円ってどうやって作図するのですか?
T:極線を使うと簡単に作図できます.上図のナビゲーションをさらに進めて順番に確かめてみましょう.
作図方法
 まず,BDとDの極線との交点Pをとる.
 次に,Pと他の2接点とを結び,ADとCDとの交点を見つける.
 これで5点が見つかったので,5点を通る円錐曲線(二次曲線)を作図すると内接楕円が描ける.
S:どうしてこの方法で描けるの?
T:円の極線の性質からわかるよ.
三角形の極線と内接二次曲線のつながりを探る

Cどうして接線になるんだろうか

S:混乱しているからまとめてほしいな.
T:ではこの性質を表現してみよう.

三角形極線上の点を極とする三角形極線は,三角形の極のつくる内接円錐曲線に接する

S:この性質はGeoGebraで作図してみると確かに言えそうだ.
S:でも不思議だな.どうして接線になるんだろう?
T:そう実に不思議ですよね.
もしこのことが証明できたならこれは定理になる. せっかく見つけたのだから証明してみようと決意したのが4年前.
いろいろな方略を次から次へと試してみました.
 ・内分・外分の比で解けないか
 ・極と極線で解けないか
 ・メネラウスの定理を使って証明できないか
 ・円錐曲線の性質から証明できないか
だけど,道は見つからない.迷いまよってあちこと彷徨ってしまいました.
S:わからないのは暗闇を歩いているようなものでしょう.
T:そうなんだ.でも,それぞれの場所でいろいろな発見があって面白かったよ.
最近やっと方向が見えてきたので,その道筋を示そうと思う.

2,証明の道すじ

T:この図をよく見ると,ここに四角形が出てくる.
S:ONCAですね.
S:この四角形が楕円に外接しているんだ.
S:確か楕円に外接する四角形には特別な性質があったような.

@外接四角形

S:円に外接する四角形の性質
 「向かい合う接点を結んだ線と対角線は一点で交わる.」
S:そうか.さっきの図に対角線を作図してみるんだ.
S:作図すると・・・,すごい! この対角線の交点がピッタリEG上にある.
S:それだけじゃないよ.BJ上にもある.

(ちなみに上の外接四角形の定理の証明は意外と難しい) ⇒外接四角形の対角線の証明

S:ということは交点がEG上にあれば接線になることが示せる.
S:でも,この図(下図)は対角線の交点HがCE上にあるだけだ.これは必ず接線になるの?
S:CE上の点Hへの対角線を引いたとき,KLは必ず接線になるということでしょう.(Hを動かしてみよう)

A対角線は接線を作る

T:じゃあまずこの図を証明してみよう.

証明
@円に外接する四角形の対角線と向かい合う接点を結んだ線は一点で交わる.
Aこの図のように円に外接する三角形を作り,接点を結んだ線CE上に一点Hをとる.
 Hに対角線を引いて,接線と交わる点をK,Lとする.
 この時,直線KLは接線となることを示したい.
BDHと円との交点をNとする.Nから接線を引いて対角線をとると@によりHを通る.
C対角線がFH,GHと一致するので,KLも接線となる.
D接点を結んだCE上に点を取り,対角線を引いてできる四角形は必ず円に外接する四角形となる.
Eこのことは射影しても成り立つので楕円でも同じことが言える.

S:ということは,このことを示せれば,接線になることが示せるわけですね.
S:まとめてみよう.
「極線と元の三角形が作る四角形が,内接円錐曲線の外接四角形になっている」ことを示せばいい.
つまり,「その四角形の対角線と向かい合う接点を結んだ線が一点で交わる」ことを示す.
S:「対角線の交点が接点を結んだ線の上にある」ことを示してもいいよ.

T:対角線の交点が下図EF上にあることを言うにはどうしたらいいんだろうか?
まず図を調べてみよう.

S:この交点SはBJ上にあるよ.
S:そのことを示せるのかな.
T:ある点がある直線上にあることを示すには?

B一直線上にある点

S:確か「パップスの定理」というのがあったような.
S:そうだ.パップスの定理を用いると簡単に直線上にあることが示せる.

Pappus's hexagon theorem

S:これを使うとBJ上に対角線の交点Sがあることが示せる.
(上図のナビゲーションを進めてみる)
S:意外と簡単だ.
S:でもこれはBJ上にあることを示しただけで,EF上にあることを示していない.

Cレンマ(補題)1

T:いよいよ本題.
この図を見ると,SやKやJが対角線の交点だということに気がつく.
ここで,EFとBJの交点をS'とする.
そして,SとKとJの関係とS'とKとJの関係を探ってみる.
さて,下図で単純化してみると

S:最初にやった内分と外分の比を考えるんですね.
S:FCGHの対角線の交点がDO上に来るのは?
S:パップスの定理で言えるよ.
T:次はこの図.

Dレンマ(補題)2

S:そういえばBからの線は二本あったね.
S:だからもう一本の方も調べておく.

S:この二つの横線の上に対角線の交点が来る.
S:同じようにパップスの定理から簡単に示せるね.
S:何となくわかって来たぞ.
S:この二つのレンマを合体させるんだ.

F証明

S:記号が一致していないから混乱するけど,さっきのSがこの図のRということですね.
S:内分・外分の比が一致するので,RとR’は同じで,Rは常にFE上にあるということか.
T:ということは,「極線上の極の極線は三角形の元の極の作る内接楕円に接する」ということが示せたわけだ.
S:この図でJを動かすとRがFEの上にあることは当然のように見えるけど,証明は大変なんですね.

Eまとめ

T:三角形の極と極線は一点を固定したとき,四角形の対角線の交点になり,極線はより大きな対角線からできる.
そして,対角線の交点はBK上に常にある.
S:ポイントは四角形で考えることと,三角形の中だけでなく大きく考えることですね.
S:そして,四角形の対角線がこの問題の本質.
S:対角線と極線が深く関係していたということか.
S:ところで、この極線の極にも内接円錐曲線があるのでしょう。それはどうなっているの?

T:元の図に戻ってみよう。Sが外接四角形の極。Kを動かすには左下の▲をクリック。Dを動かすと双曲線になる。
S:この双曲線の極線になっているということか。
S:もとの極に戻らないのは極ごとに内接円錐曲線があるからなんですね。

⇒【三角形極線におけるある定理の証明】GeoGebra
 (勘違いや間違いなどの苦闘の記録)

T:こうやって示すと単純だけど,初めから道が見えていたわけではないよ.
わかってしまうと、こんな簡単なことになぜ気がつかなかったんだろうといつも思う.
自分の経験の中にすでに真理があって,それをようやく本当に思い出した(気がついた)んだろうね.

哲学者の池田晶子さんは「自分が真理だと分かれば苦しむことができる」と語っている.
全然わけがわからなくわからなくなりましたって言うなら、
君、大成功だよ

わからなくなったからこそ、これから考えられるんだ。
悩まないで、考えてゆけるんだ。
 ・・・
なぜなら「考える」とは、まさにその自分の人生、その謎を考えることに他ならないからだ。

考えるということは、答えを求めるということじゃないんだ。
考えるということは、答えがないということを知って、人が問いそのものと化すということなんだ。

どうしてそうなると君は思う。
謎が存在するからだ。
謎が謎として存在するから、人は考える、考え続けることになるんだ
          池田晶子「14歳からの哲学」より


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