作図と証明

証明は理論、作図は実験

「証明は理論で、作図は実験」

このことを説明したい。
科学で理論と実験は車の両輪で切り離せない。
実験によって新しい現象を発見したり、理論を確かめることができる。
理論によって新しい現象を取り込んだ仮説で予測する。

これは応用と基礎にも通じる。
「理論をやるなら実験をやれ」という福井謙一氏の言葉がある。
福井さんは具体的な現象を大事にしてその理論を作り上げられたのだろう。

昔から学と習を分けて考えていた。
学んで時にこれを習う亦説ばしからずや
「学」とは何かを外部から取り入れる行為。 習とは後天的に身つくもの。

次の職人の言葉は学問でも通じる。
「聞いたことは三日で忘れる。身体で覚えろ。」

学問と修業(行)も同じだ。
この場合の学問は知識の習得で、それを身につけるのは修業。
頭で理解しても身体が理解しないと応用ができないということ。
語学や技術をイメージするとわかりやすい。

さて、これを数学に当てはめると、理論と応用になる。
でも、学校では応用と言っても与えられた問題を解くだけになる。
それを本当の応用にしていくのが作図の働き。

以前はコンパスと定規で作図をしていた。
でも、正確に描けなかったり、動かすことはできない。
ジオジェブラで作図をするとこの両方ができる。

というわけで、ジオジェブラで作図をすることが、実験と同じ働きをするということを示してみたい。

(1)定義では理解できないけど、作図してみると身につく

例、極線
極線はAN2=AP×ARで定義される。
でも、これがなかなかイメージできない。
そこで、実際に作図してみる。



いろいろ動かしているうちに、もしかしたら〜では?という気持ちが浮かんで来たら、すぐに作図して確かめることができる。

(2)もしかしたらと予想して作図をする

例、三角形の極線の極線
極線上の点から極線を作図すると、どうなるのだろう?
それがこの作図をした理由。

内心を極とする極線(赤)上の点Kの極線NMの包絡線は楕円(ピンク)を描く。
つまり、極Kの極線はこの楕円に接する。
赤い極線とピンクの楕円が対応しているように思われる。



何と、三角形の極線は内接楕円の周りを動いている。
これには感動した。

(3)異なった現象がつながる

作図をしているうちに、今まで違う現象と思っていたコトが、同じ現象だということに気がつくことがある。

例、三角形の極線と内分と外分

AとBの内分点がCで外分点がB’。
比の取り方は右上に。
B’の比からの求め方は、Dilate(B, 1 / (1 - a), A):a=CB/ACだが、作図でも簡単に求めることができる。
この4点の間には左下のきれいな関係があり、調和列点(点列)と呼ばれる。
Cの位置によってB’が左側に来る場合がある。



これは、上の極線の定義とつながるのだけど、作図してみなければ体感できなかった。

これらのことから、極と楕円だけから、「外接チェバ三角形」が作図できるはずだと考えて、いろいろ試行錯誤してみた。
そして、ついに作図できたのがこれ、


楕円に外接してEを極とする三角形(チェバ三角形)H’JIを作図することは、Eを極とする楕円の極線を使って、この外接三角形の必要十分条件を見つけることだった。

というわけで、ジオジェブラを使った作図を数学の実験としておすすめしたい。

さて、次は証明について。

これまで証明なしの図形の楽しみ方の試みをしてきた。
極と極線の研究においても、最初は証明をしなかった。
いろいろな現象があってその現象が面白いのでいろいろな仮説を試すことを優先したからだ。
仮説を試すことは作図をすることで、その結果は一目瞭然だった。
でも、
いろいろな現象を探っているうちに、なぜこうなるのだろうと不思議になってくる。
そして、この現象の指し示しているものは何だろうと考える。
それは、「公理→定理→定理・・・」と進む一般的な数学の学習とは異なっているけど、
現象から原理へとたどる道は極めて自然な私たちの思考ではないだろうか。
とすると、
現象がなぜそうなるのか追求したくなる時に、どれが元の定理なのか、どれが原理なのかと考え、
この現象を引き起こしている原理(定義や公理や方法)は何だろうと追求していくことは、
表現として「公理→定理→定理・・・」をとらざるを得ない。
体系化することが一番わかりやすいからだ。
ユークリッドやガウスが現象を何とか体系づけようと考えたのは、こういうことではなかったのではないか。

具体的な証明については、次のページを見てください。

270、≪ジオジェブラ・ブック≫ 円に外接する多角形の極と極線 ・・・「証明と作図」と「実験と理論」 極線を使った証明の試み


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