ハトは衝突までの時間がわかる!?

 茂木健一郎氏の「脳の中の人生」を読んでいたら、「ハトは衝突までの時間がわかる」と書いてあった。
 私は、鳥は目が良いから衝突する物体までの距離を測っているのだと思っていた。ところが、この本によると距離ではなく時間を計っているというのだ。
 物は見える大きさによって距離を測ることはできない。でも、時間なら計ることができるというわけだ。

 距離を測るには両目でないとできないが、目の位置がかなり離れていないと距離は測れない。鳥の両目は1〜2pぐらいしか離れていない。これでは、両目で距離を測ることは難しいだろう。本にはこう書いてある。

『近づいてくる物体をハトに見せた実験では、衝突の約1秒前に活動するニューロンがハトの脳内から発見されている。どうやら、「衝突までの時間」を計算するというアプローチは、ハエなどの小動物を含め、飛行する動物において広く採用されている戦略のようである。』


【疑問】では、このシステムは何を用いて衝突までの時間を測定しているのだろうか。

 まず、下の三角形を考える。ハトは最初Aにいる。CBが対象物だとしよう。衝突するまでの距離はAB。その中点をMとする。ハトは一定の速さで飛んでいる。AMまでの時間とMBまでの時間はもちろん同じ。
 さて、ハトがMまで進んだときにBCはどれくらいの大きさに見えるのだろうか。

見える大きさというのは、角度で表される。Aからだと∠BAC。Mからだと∠BMC。
では、∠BMCは何度になるのだろうか?(大きさは2倍になっていることはわかるけど・・・1秒前も出てきそうにないな。)
簡単にはわからない。どうもこの図では、かなり難しい計算をしなければいけない。ハトはもっとシンプルな求め方をしているはず。
角度ではなく、大きさそのものから考えたらどうだろう。
そうだ!見かけの大きさの変化がどうなっているの考えればいい!


Aがハトの目。物までの距離をs、物の大きさをh、スピードをv、時間をtとする。
 ここで、物の見かけの大きさを求めなくてはいけない。そこで、1秒後にぶつかる距離はvなので、その位置を見かけの大きさと考えるのが合理的であろう。(Bの位置)
hの見かけの大きさHは、
 s:h=v:H
  H=hv/s
物の大きさはそれぞれ違うから、大きさでもって距離を測る事はできない。とすれば、何で距離を測れるのだろうか。
いや、大きさだけで距離を測るにはどうしたらいいのだろうか。
つまり、見かけの大きさだけで距離を測るにはどうしたらいいのか。
遠ければ見かけの大きさが大きくなる率は少ない。この率を計算してみよう。

ハト(物)は、速さvで動いていて、1秒を求めることができるのだから、距離はv(m)単位で考えるのが最もわかりやすい。
衝突2秒前の大きさをhとすると(Cの位置)、見かけの大きさはh/2である。衝突1秒前にはhになるわけだから、大きくなる率は2倍/秒である。網膜の面積で言うと、4倍である。

つまり、物の見かけの長さが1秒間で2倍になった(面積で言うと1秒間で4倍になった)ときに反応するニューロンが回避行動をとらせるということになる。

 定理 「一定の速さで動いているときに、見かけの大きさが1秒間で2倍になったら、1秒後には衝突する。」

もし、この仮説が正しいとすれば、ハトは脳の中で微分をしていることになる。たぶん、体内時計を使って見かけの大きさを微分し、ぶつかるまでの時間を求めているのだろう。

では、Bの位置の見かけの大きさの増加率を求めてみよう。
まず、H=hv/s をtを使って表してみよう。ただし、tは衝突した時を0としてさかのぼる。
H=hv/vt=H/t  (反比例になった!)
念のために、変化の割合を求める(時間で微分してみる)。
H’=−1/t2 となるが、時間を逆にとっているので、
H’=1/t2 と考えてもよい。(左のグラフ)
これは、t=1のとき、それまで1以下だった傾きが1となり、質的に変化している。ハトは小さな基本の体内時間を持っていて、それで、このような微分をして1秒前を求めているのか、それとも、もっと長い1秒単位で求めているのか興味が湧く所である。

エコロジカルな知性

『脳の中にあるのは、「衝突までの時間」が一定になると回避行動をとるというシンプルなメカニズムだけである。このシンプルなメカニズムを持った脳が、動物の身体を通して環境と相互作用すると、結果として障害物と衝突せずに空間を動き回れるという、「エコロジカルな知性」』をハトは持っているのである。

シュミレーション

 とすれば、衝突1秒前を見つけるシステムも単純なものになっているはず。それをどう確かめたらいいのか。そうだ!ハトのようにだんだん近づいていくと、物体が大きくなるシュミレーションプログラムを作ろう。ところが、Javaの作り方を忘れてしまった。しかたがなくファンクションビューのマクロを使って作ってみた。
 円がだんだん拡大していくというマクロだ。1秒前に止めるのだが、なかなか難しい。1秒で2倍の感覚がつかめないのだ。
 でも、反比例を横から見ているみたいで面白い。1・2と数えていないと時間がわからない。どうも、2倍感よりも大きくなるスピード感の方がわかりやすい。単位時間よりも大きくなる割合の方が大きくなる瞬間がわかるかどうか。
《Functionview》を持っている人は、FVWファイルをダウンロードできます。右クリックで保存してください。

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