騎馬戦とランチェスターの法則

1、騎馬戦に勝つ方法

運動会で騎馬戦がありました。この騎馬戦は上に乗った騎手の帽子を奪うと勝ちです。練習の対戦を見ていたら、それぞれがバラバラに組み合って取り合いをしているだけ。中には特攻して自滅する騎馬もいます。さっそく作戦(戦略)を教えました。

T:騎馬戦で負けたね。勝つために何か作戦を考えている?
S:何も考えていません。
T:実は必ず勝てる作戦があるんだ。聞く?
S:はい。
T:作戦は簡単。1対1よりも2対1や3対1の方が有利だろ。だって、組み合っている後ろに回って帽子をとればすぐに取れたよ。そこで常に2〜3騎で行動するんだ。1騎だけの単独行動は絶対にするな。そして、小隊長を決めてその命令に従う。小隊長は相手の1騎だけのはぐれ騎馬を見つけて取り囲み、後ろに回った者がすばやく取るように指示を出すんだ。
S:なるほど。でも、人数が同じなんだから3対1には簡単にはなれません。
T:いや、相手が何も知らないと簡単に3対1になれるんだ。必ずはぐれ騎馬が出てくるから。昔から名将はこの作戦を使って戦に勝ってきたんだよ。これはランチェスターの法則という(紙に書いた数学の式を見せながら)数学の公式を使っている極めて合理的な作戦なんだ。
S:すげー。
T:戦いは人数の多い方が必ず有利でしょ。
S:でも、人数が多いと油断するよ。
S:織田信長だって今川義元の大軍に勝ったよ。
S:でも、あれは奇襲作戦でしょ。
T:奇襲だけど、大軍が細長くなる桶狭間に誘い込み、一番薄いところを一気につく。部分的には多数になっているんだ。全軍では2万5000を数えた今川軍も、本隊はそれほど大きな兵力をもっていなかったため、4000人が一団となって突撃してきた織田軍の猛攻によって混乱し、乱戦となってついには今川義元は討たれた。
S:そういえば、義経の戦術も奇襲作戦だよ。一ノ谷とか屋島とか。
S:奇襲作戦は、相手の弱いところをつくことで部分的に大軍(人数が多い)に持ち込んでいるんだ。そこで勝つと相手は混乱する。
T:ナポレオンの「各個撃破」作戦も同じなんだ。
1796年4月に行われた「ガルダ湖畔の各個撃破」 【参考サイト「戦史研究」】

[オーストリア軍 合計60000]
  [オーストリア軍 合計60000]
20000  カ  25000    5000
 ↓   ル   ↓  山  ↓
 ↓   ダ   ↓  山山
 ↓   湖      山山山
 サロー
    [ナポレオン軍30000]

   カスチクリオーネ
        マントバ要塞
      [オーストリア軍10000]

オーストリア軍は、マントバ要塞に立てこもった1万のオーストリア将兵を救うため5万の兵力で南下し、ナポレオンの挟撃を計る。しかし、ナポレオンは敵の分断に乗じて各個撃破をもくろみ、まずサローに進撃し敵2万を撃破し、返す刀で後方に迫ってきた敵の主力をカスチグリーオ付近で撃破した。
S:つまり、敵の進路の集合地点に全軍を集結して待ち構え敵の分離に乗じて1つずつ攻撃しつねに優勢を保って戦い続けるということですね。
S:3対1だと3の方が必ず勝てると同じだね。しかも、強い軍隊だと3対2でも圧勝だ。
S:つまり、勝負は戦う前に3対1に持ち込めればいいわけですか。
T:そうなんだ。1対1では消耗戦だからね。
S:1対1だと互いに人数が減っていくだけで互角ですよね。
S:そういえば、騎馬戦でも残った騎馬は3:4とかもあるけど、0:5とかの場合も多いよ。
S:わかった。相手の人数が減れば、味方は有利になる。さらに人数が減ればもっと有利になる。

S:騎馬戦の場合ではどうなるのかシミュレーションをしてみよう。仮に騎馬数を5とするよ。

○ ○ ○ ○ ○    ● ● ● ● ●
2対1ではぐれ騎馬を一騎やっつけた。3対4で相手をけん制する。
○ ○ ○ ○ ○    ● ● ● ● 
今度は、2対1で一騎をやっつける。その間、3対3で相手をけん制する。
○ ○ ○ ○ ○    ● ● ● 
さらに、2対2でけん制しながら、3対1でやっつける。
○ ○ ○ ○ ○    ● ● 
ここまでくると、2対1と3対1で相手を圧倒する。

S:へー。こうなると圧勝だよ。消耗戦にはならないんだね。
S:でも、実際はこんなにうまくいくはずがないよ。
T:ナポレオンは「あなたは、少数では多数に勝てないというけれど、実際には少数で多数の敵をしばしば破っているではないか。」と聞かれた時、「それはちがう、少数で多数と戦うときには、全兵力をあげてそれより兵力の少ない敵の一部を破り、つづいて敵の他の部分を攻めるなどして、戦闘場面では常にこちらのほうが多人数になるように指揮をしているのだ。」と答えている。
S:問題は、最初に味方の損害をなしにどうやって一騎をやっつけるかだね。
S:おとりを使うとか、敵の真ん中に分け入って分断するとかいろいろある。
T:ここからは個々の戦術だよ。
S:戦略と戦術はどう違うの?

2、ランチェスターの一次法則(線形法則)

T:これらのことを数学の公式で表したのがランチェスター。イギリスの航空工学のエンジニアであったF.W.Lanchester(1868〜1946)は、第一次世界大戦の空中戦をシュミレーションすることである法則を見つけた。この法則は、オペレ−ションズ・リサ−チ(OR)の理論として、軍事作戦や経営戦略などに利用されている。
S:騎馬戦を数学にできるの!?
T:さて、「ランチェスタ−の一次法則」をつくってみよう。
X軍とY軍が戦うとする。戦いの原則は君たちの騎馬戦と同じ一騎打ち。Y軍の兵士のほうがX軍の兵士より強く(腕がいいのか、武器が優れているのかは問わない)Y軍の兵士が1名戦死するごとにE名のX群兵士が戦死してゆきます。ある時間が経過した後、
X軍の人数をx
Y軍の人数をy
とし、戦いが始まる前にはそれぞれx0、y0の人数であったとすると、
それぞれの戦死者の数は?
S:X軍の戦死者の数=(x0−x)人
  Y軍の戦死者の数=(y0−y)人
T:さて、この二つの戦死者数の間にはどんな関係が成り立つだろうか。
S:X軍の戦死者数はY軍のE倍だったから、
 x0−x=E(y0−y)
T:これが「ランチェスタ−の一次法則」といわれる数学モデルです。
S:X軍の戦死者が2倍になったら、Y軍の戦死者の数も2倍だね。
S:50人と30人が戦えば、戦闘力が同じならば生き残る数は50−30=20ということか。
S:これは、1対1の場合でしょ。集団(チーム)になると違うよね。

3、日本海海戦(対馬海戦)

T:日露戦争の「日本海海戦」で、連合艦隊は丁字戦法を用いて先頭艦に砲撃を集中させる作戦にでた。丁字だと先頭の艦に集中させやすい。しかし、被害も多くなる。もちろんバルチック艦隊もそうした。ではなぜ、両艦隊は互いに相手の1艦に集中攻撃したのか?
S:これもシュミレーションで調べてみよう。

全く同一の性能の艦隊からなる白丸艦隊○と黒丸艦隊●が並んで撃ち合うことを考える。
白丸艦隊○は5隻、黒丸艦隊●は4隻が向かい合って、全部沈むまで戦闘が続いたとする。
1隻あたり20発の被弾で沈没するとしよう。

(1) 白丸艦隊、黒丸艦隊ともに相手の全部へ攻撃する場合
1回目の攻撃で白軍の被弾は各隻4/5発 、  16回目の攻撃で白軍の被弾は各隻64/5発、
黒軍の被弾は各隻5/4           黒軍の被弾は各隻16×5/4=20発だから全隻沈没
○ ○ ○ ○ ○            ○ ○ ○ ○ ○
 ● ● ● ●              × × × ×

S:当然の結果だよね。
S:私は、白丸艦隊も沈没する船があると思っていた。
T:そうなんだ。なぜなかったのかを考えてみよう。この場合、白丸艦隊が受けた被害は、4×16発で、黒丸艦隊は、5×16発。一隻あたりだと、4×16/5:5×16/4となる。この比に20をかけて約分すると、
4×16/5:5×16/4=4×4×16:5×5×16=42:52=16:25≒4:6となる。
S:(敵に与える)被害の大きさは艦隊の数の2乗に比例するということ?
T:そうなんだ。もっと言えば、戦力(相手に与える被害の大きさ)は艦隊の数の2乗に比例する。だから、数の多い白丸艦隊の方が圧勝する。
S:被弾の数は相手の人数に比例するし、個々の被害は味方の人数に反比例する。だから、敵味方の比を取って約分すると、被害の大きさ(=戦力)が相手の人数の二乗に比例するんだ。
T:これが、ランチェスターの2乗法則だよ。

S:じゃ、黒丸艦隊が勝つ場合はないの?
T:これがあるんだな。どういう作戦をとれば勝てると思う?
S:白丸艦隊は全部へ攻撃し、黒丸艦隊は1隻ずつ集中攻撃したらどう。

(2)白丸艦隊は全部へ攻撃し、黒丸艦隊は1隻ずつ集中攻撃する場合
1回目の攻撃で白軍の左端の1隻の被     5回目の攻撃で白軍は1隻は沈没
弾は4発、黒軍の被弾は各隻5/4発      黒軍の被弾は各隻25/4発
○ ○ ○ ○ ○            × ○ ○ ○ ○
 ● ● ● ●              ● ● ● ●

S:6回目はどうなるの?
S:黒軍の被弾数は一隻減ったから全体として25+4=29で、一隻あたり29/4≒7だ。白軍は次の5回で一隻減る。

10回目の攻撃で白軍は2隻目が沈没      25回目の攻撃で白軍は全隻沈没
黒軍の被弾は各隻45/4発          黒軍の被弾は各隻75/4発
× × ○ ○ ○            × × × × ×
 ● ● ● ●              ● ● ● ●

S:へー。1隻に集中させただけで、少ない方が勝つんだね。
S:でも、黒軍はあと5発撃たれたら全艦沈没だよ。かろうじて勝ったんだ。
S:他の場合はどうなのかな。例えば両方とも一隻に集中させたら(1)の結果とどう違うんだろうか。
S:それから、どれくらいの戦力の差まで勝つのかも調べたいな。例えば6対4だとどうなるか。
      ・・・
S:まとめると、全隻へ均等に攻撃するのでなく1隻ずつ集中攻撃した方が良いことがわかった。
S:集中させるという点では、3対1に持ち込むのと同じだね。
S:それから、戦力(相手に与える被害の大きさ)は艦隊の数の2乗に比例する。
S:だから兵数は集中させた方がいい。
S:騎馬戦で、結果が3:4になる時は一騎打ちで、0:5になる時はチーム戦ということか。
T:もしn人の国民がバラバラならば、一人の戦力は1。だから、戦力はn×1=n。一方、軍の数をmとすると、2乗法則で戦力はm2。したがって、m2=nとなり、国民の数が1億人ならm=√1億=1万人の軍隊で支配することが出来る。
S:なんで国民の戦力は1なの?    【参考サイト「知識人のための海軍戦略」】

4、ランチェスターの二次法則(二乗法則)

T:この2乗法則を公式にしてみよう。さっき、艦隊戦力の比は艦隊数の2乗に比例するというのがあったでしょ。それを、被害があって兵数が変化する場合はどうなるのか公式で表すんだ。
S:チームだとどうして違ってくるの?
T:一対一だと余った兵は戦わない。でも、実際の戦闘では互いに敵方をめがけて銃を撃ちまくり、だれかが戦死したとしても敵方のだれが撃った弾が当たったのか見当もつかないだろ。さっきの艦隊の戦闘と同じさ。
S:空軍の援護だってあるしね。
T:さて、x名のX軍とy名のY軍とが戦場で対面し戦っているとします。ただ、Y軍の銃の方は性能が良く、X軍の銃のE倍もの弾を発射できるとしましょう。
戦いの最中のごく短い時間の間にX軍の人数はdxだけ減り、Y軍の人数がdyだけ減ります。dxはY軍から飛んでくる弾数に比例し、その弾数はY軍の人数のE倍に比例するから
(S:弾数が2倍になれば、減る人数も2倍になるということですか。違いないな…)
 dx=kEy(kは比例定数)…(1)
また、dyはX軍から飛んでくる弾数に比例し、その弾数はX軍の数に比例するので
 dy=kx…(2)(比例定数は同じ)
となります。ここで(2)を(1)で割ると
 dy/dx=x/Ey  (dy:dx=x:Ey…ごく短い時間の被害は相手の人数に比例する)
という変数分離形の微分方程式が現れます。これを
 xdx=Eydy
と変形して両辺を積分すると、(∫xdx=∫Eydy+C)
 x2=Ey2+C(Cは積分定数)…(3)
となります。戦いが始まる直前の両軍の人数をx0、y0とすると
 C=x02−Ey02
であることがわかりますから、この値を(3)に代入して整理すれば
 x02−x2=E(y02−y2)
という関係を得ます。この式が「ランチェスターの2次法則」です。
S:積分するのはどうして?
T:小さな変化の規則の「もとの法則」を見つけるために積分をするのです。
S:?
T:ごく短い時間の被害は相手の人数に比例するから、その被害を積み重ねたものを求めるために積分するんだ。

S:軍隊の実力が同じとき(E=1)、x=5でy=3とすれば、xの生存数は4だ。
S:どうして?
S:y=0でx=√(52−32)=√16=4だ。
S:これって三平方の定理と同じだよ。

T:例えば、戦いが始まるときの兵力はX軍が200人、Y軍が100人とし、この兵力の差を補うためにY軍の兵士がX軍の兵士の2倍の実力を持つとしてみよう。
S:Y軍は少数精鋭だということですね。
T:二つの軍が戦うとどうなるか?
S:2倍の実力を持つということは、200人分にあたるわけだから、引き分けだよ。
T:そうだね。一次法則(一対一の戦い)によれば、戦闘開始ののち時間が経つにつれてX軍はY軍の2倍ずつ兵士を消耗してゆき、X軍とY軍が同時に全滅して戦いが終わる。ところが、二次法則を使うと…
S:2002−x2=2(1002−y2)だから、x=√(2(10000+y2))。
y=90とすると、x=√36299=190だ。表にしてみよう。

y:100  90  80  70  60  50  40  30  20  10  0
x:200  190 181 172 165 158 152 148 144 142 141

S:Y軍が一定に減少しても、X軍の減少はだんだん少なくなっている。
S:Y軍が全滅するまでのX軍の損失は59人だ。
S:つまり、兵力の方が勝敗に決定的な影響をもつということだね。
S:最初の時点で、戦力比は2002:2×1002=40000:20000=2:1ということか。つまり2倍ではなく4倍の実力がないと対等の戦力にはならないんだ。
S:実力が同じで2倍差・3倍差だと結果はどうなるんだろう。
S:y=0の時、
2倍なら、x=173で味方の損害は27人(13.5%)
3倍なら、x=283で味方の損害は17人( 5.7%)だよ。

T:この公式の一番強烈な教訓は、兵士の数の優位がなににもまして勝敗に決定的な影響力を持つということです。したがって、敵に勝る兵力を一点に集中することが戦いに勝つ秘訣なのです。
S:でもさ、実際の戦闘では、兵士の数のほかに、指揮官の能力、兵士の練度、士気、兵器の性能、通信や補給などの支援能力、地形、天候、偶然などいくらでもあるよ。この公式の通りにいくのかな。
S:ゲリラ戦もあるし、「テロ戦争」だってある。
T:そうだね。でも、これらの要素はケ−ス・バイ・ケ−スでまさに千差万別。そこで、ランチェスターは数量としては把握しやすく、誰が考えても戦いの推移に大きく影響すると思われる人数だけを取り上げ、しかも、一騎打ちと乱打戦という2つの典型的な戦い方を想定して理論的に方程式を作った。そして、人数以外の要素を、Eという1文字を加えることによって現実に即したモデルを完成させたわけです。数学における「モデル化」とはこのようなものです。
  【参考サイト「ランチェスターの法則について」】

5、弱者が勝つ方法

S:でも、これだといつも人数が多い方、強い方が必ず勝つということですね。
S:いや、弱い方・人数の少ない方にも勝つ見込みがあるよ。この結果を逆に使えばいいんだ。局地戦に持ち込むことや一点集中は大原則だね。
S:大きな敵は分断して、各個撃破する。
S:勉強でも一点集中・各個撃破。教科を絞ったり、山をかけたり。
S:それから、一対一に持ち込む手もある。こちらに自信があったらだけど。
S:楠正成みたいに、堅固な要塞に篭城する。
S:味方をあちらこちらに造る。敵の敵は味方。
S:戦闘の形態を変える。ゲリラ戦みたいに。
T:何だかベトナム戦争を思い出してしまったよ。
S:でも、大きい敵がこういうことを知っていたら通用しないんじゃない。
S:大きいと小回りが利かないし、責任もはっきりしないことがあるから欠点もある。
S:ということは、弱者がたくさんいる場合はどうしたらいいの。
T:これが問題なんだな。こんな例がある。
「而して、武力なるものは艦船兵器のみにあらずして、之を活用する無形の実力にあり。百発百中の一砲能く百発一中の敵砲百門に対抗し得るを覚らば我等軍人は主として武力を形而上に求めざるべからず。…」
これは、東郷平八郎司令長官の「連合艦隊解散の訓示」の一部ですが、参謀長であった加藤友三郎はこれを聞いて,「百発一中の大砲の弾百発のうち1つでも百発百中の大砲一門に当たったら,それで戦は終わりだ。」と言ったと伝えられています。
S:そんなの当然でしょ。100門あれば、1発は当たるよ。
T:いや、当たる確率は100%ではなく63%ぐらいなんだ。当たる確率が1/100の大砲100門で相手方の1つの大砲を狙って一斉に発射すると、100発の弾のどれかが当たる確率は
 当たる確率=1−(100発の弾すべてが外れる確率)
      =1−(99/100)100
      =0.634…=63.4%
S:(1発でも当たる確率)+(全て外れる確率)=1だからか。2回までに当たる確率も、同じように考えると求めることができますね。
S:(2回発射して当たる確率)=1−(2回とも外れる確率)=1−0.366×0.366=0.866=86.6%。3回だと1−0.3663=0.951=95.1%。[(97/98)98=0.36599だから]
S:3回目までだと当たる確率はかなり高い。ということは、その間に2,3門やられても98,97門は残っている。
S:つまり、弱者でも数が多いということはそれだけで力があるということですか。

6、戦争と数学

S:戦争にも数学が使われているんだね。
S:こうやってモデルを作って戦略を考える数学があるということですね。
S:敵にどうやったら勝てるか、どうやったらやっつけられるか研究するなんていやだなあ。
S:でも、それは生き残るためには必要なんだよ。
S:こういうことを調べていると、実際も同じなのか実験したくならない?
S:こんなこと実験したら大変だよ。机上の空論ならまだいいけど、それを実行したらどうなるの。
S:それにさ、私たちは参謀や指揮官ではなく、下っぱの一兵士だよ。TVゲームとは違うよ
S:そうだよな。騎馬戦でもぶつかり合ったら、めちゃくちゃになって作戦どころじゃないよ。
S:実際と理論とは違うということですね。
S:戦争は愛する人がいなくなったり、傷ついたりする。せっかく建てた家が壊される。自然だってめちゃくちゃになる。道徳だって人への思いやりだって破壊される。強いものが一番ということだから。
S:命を数字で表すと、その裏の様々なものが消えていくような気がするな。数学は想像力が大事だと言われるけど、一人一人の人生があるという想像力の方が大事じゃないかな。
S:じゃあ、ランチェスターの法則を戦争でなくビジネスにつかったらいいんじゃない。
S:ロールプレーイングゲームの戦闘場面は、この法則を使っているんじゃないかな。
S:ビジネスには使うには、品質やシェア数を兵力数に置き換えるんでしょ。社員の数を兵力としてもいいな。
S:モデル化というのは、結局いろんなことを単純にするんでしょ。一つ一つの裏にあるさまざまな出来事を無視して、人間を原子みたいにすることのような気がする。
T:数学を使うモデル化は、アトム化(一人一人を原子のように同じものとして考える)に通じるね。これは数学の長所でもあるけど欠点でもある。でもね、平和を追求するためには戦争も研究する必要があると思う。戦争を知ることが平和の研究でもあるんだ。だから、あくまで「何のために研究するのか」という目的をしっかりと持って研究することが大事だと思う。


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