「因数分解」と「代入」のアナロジー

映画とニュースと因数分解

TV「たけしの新・教育白書」で、北野武さんと池上彰さんが数学について面白いことを話していた。

北野武さん
「映画は因数分解を使う。共通したシーンをこうやってまとめる。
    ab+ac+ad=a(b+c+d) ・・・(1)
 見た人は無意識のうちに展開してあらすじを理解する。」

池上彰さん
「ニュース解説では、わかりやすく説明するために共通項を見つけ出し、それでくくるとわかりやすくなる。つまり因数分解と同じ。
    ab+ac+de=a(b+c)+de ・・・(2) 」

映画における表現は、省略するために如何に因数分解をするかと考えることであり、社会の変化は、共通項を見いだし、違って見えるものをそれでくくって説明するとわかりやすいということを示している。

【ex.1】
[ラーメンとキツネザル](共通項=大陸から移動しニッチの中で独自に進化した)
この共通項を用いると、まるで違うと思えるラーメンとキツネザルをカッコでくくることができる。

これを聞いて、なぜ映画やニュースと因数分解を結びつけることができたのかが気になった。
数学から見ると、
「数学の因数分解が、映画の省略法やニュースの説明法のアナロジーに使われている」
ということだ。これは、因数分解の考え方は案外普遍的であることを示している。しかも、二人とも思考の道具としてこの方法を使っている。

  映画     ←→   因数分解
  ニュース解説

この関係は、左右が同値であるということを示している。
しかも、映画やニュースは具体例で、因数分解は一般化である。

では、その因数分解の「働き」(考え方)とは何だろうか。

 (1)共通項(共通因数)を見いだす
 (2)共通項でくくる
 (3)2ab+3ab=(2+3)ab=5ab (同じものを一くくりにする)
 (4)似た物をまとめる (省略する)
 (5)8×5+8×4=8×(5+4)  (簡単にする)

二人は最初から因数分解を当てはめたのではなく、いろいろやっているうちにこれは因数分解と同じコトだと気がついた。どうやって気がついたのか、なぜ結びついたのかの説明はなかったが、二人がたまたま同じコトを話したということから、さらなる因数分解が考えられる。

映画+ニュース解説 → 「因数分解」

つまり、映画の表現とニュース解説という別のコトを、因数分解によって結びつけることが可能となる。(これを「因数分解」とする。)「因数分解(共通項を見つける)」という発想法は、かなり強力な方法であることを示している。そして、「因数分解」できるのは、映画やニュースだけではないことに気がつく。

では、「因数分解」の逆は何だろう。
普通、因数分解の逆は?と聞かれると「展開」と答えるが、この場合の逆は展開ではない。
実は、「因数分解」 → 映画・ニュース に対応するのは「代入」である。 「因数分解」に映画を「代入」すれば省略という表現になり、ニュースを「代入」すれば解説という表現になるということだ。
つまり、「因数分解」と「代入」を対応させると、次のようなアナロジーが浮かんでくる。

  「代入」  ←→  「因数分解」
   具体化       一般化(法則)
   個別化       抽象化(概念)
   あてはめる     くくる

【ex.2】
具体物→箱→式→因数分解→置換→剰余類→
因数分解も含めてここには「因数分解」の方法が使われている。
「因数分解」は分類し一つにまとめて括り出すという志向性がある。

一方、「代入」の方は、具体的な現実世界の方に引き寄せる働きがある。
【ex.3】
北野武さんは、a=暗殺者 b,c,d=被害者 を因数分解の(1)式に代入するという説明をしていた。そうすると表現としてどうなるのか想像してみてほしい。そして、ここにはいろいろな値が入ることも想像できる。

【ex.4】
国語の文章には代名詞がよく出てくる。これ、それ、あれ、は何を示しているか。それが正しいかどうかは「代入」してみればわかる。

【ex.5】
実は、これまで用いてきた「例」というのも「代入」である。

私たちの思考は、「因数分解」をして「代入」をするという運動を常に繰返している。

        「代入」   ←→  「因数分解」
イメージ  ・法則に値を入れる  ・共通因数でくくりだす
世界    ・現実世界      ・イメージの世界
      ・同値的アナロジー  ・一般的アナロジー
      ・例・応用      ・法則
      ・多様性       ・単純性
      ・特殊        ・拡張


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