インド式計算法

 時々、各ページのカウンターを見ていると、一日で300以上のアクセスがある時があります。そういう場合は、たいていTVでインド式計算法なるものをやっていて、4、数学アラビアンナイト(1991.3)『第1話 九九の研究』『第2話 古代インド式計算とネーピアの計算棒』のページのカウンターが増えています。
 でも、なぜマスコミや本でこれだけインド式計算法が取り上げられるのでしょうか。気になります。

【なぜインド式計算法がよく取り上げられるのでしょう?】

(1)ボケ防止のためか、計算法やパズルがはやっているから。
 脳を使うための計算は、単純な計算で十分だと言われていますが、それは脳全体をまんべんなく使っているからでしょう。そうすると、最も脳を使うのが暗算です。暗算は記憶も使います。だから最近、暗算の重要さが見直されてきたのではないでしょうか。

(2)脳の活性化・トレーニングのため。
 先の例とよく似ていますが、脳のトレーニングの為ということが考えられます。「IQサプリ」や「アハ体験」みたいなものに効果があるとされ、いかにも脳を使っている感じがします。

(3)日本人は数学ができなくなってきているから。
 IT産業でインドがメキメキと頭角を現してきました。それは、インドの理数科教育に秘密があるのではないかといわれています。インドの小学生は九九を二桁まで覚えているらしいという噂もあります。
 逆に日本の教育では、理数系が衰退しているという危機感があります。実際に買い物でも計算能力はほとんど必要がなくなってきています。

(4)暗算が見直されてきたから。
 電卓やレジでやってしまうため、暗算ができないのが現状ではないでしょうか。かってはそろばんをやりましたが、最近ではそろばんを使ったことのない人もいます。これではいけないと暗算が見直されてきています。

 ところで、このやり方をTVなどで知った人は、実際にこのインド式計算法を使っているのでしょうか。

【実際にインド式計算法を使っているのでしょうか】

 私の体験から言えば、インド式計算法を昔から生徒たちに紹介しましたが、それを使おうとする生徒はいませんでした。なぜでしょうか。それは、めんどくさいからです。さらに、いざ使おうと思ったら忘れてしまうからです。そして、使う場面がないからです。
 もっと言えば、生徒達は、そんなめんどくさいことをしなくても筆算でやった方が確実だと思っているからです。それに電卓だってあります。どうやら、暗算でやろうなどとはとうていと思っていないようなのです。
 こうなると、暗算が日本の教育から無くなってきたことが、数学ができなくなってきた大きな原因ではないかとさえ思われるのです。
 かって、物理学者のファインマンは計算が得意で、いつも暗算で計算をしていたという話を読んだことがあります。彼の映画で、ソロバンと暗算の対戦をする場面があったことを思い出します。彼の場合は、暗算で人を驚かすのが楽しみであったという面があるようですが、いつも簡単なやり方はないかどうかを考えていたのです。どうやら暗算はそろばんにしろファインマン方式にしろトレーニングしないとできないようなのです。
 ここでは、どうやったら暗算ができるのかをファインマン方式でやってみましょう。

【暗算には何が必要なのでしょうか】

 ワーキングメモリという言葉をご存知でしょうか。一時記憶装置のことです。私たちは計算をする時に、一時的に数値を記憶しておく場所を脳の中に持っています。電卓で言うメモリーです。これがあると、計算した結果を記憶しておいて、別の計算を始めることができます。
 ところが、私の場合で言うとこのワーキングメモリの容量が極めて小さいのです。暗算が苦手な人は記憶の苦手な人が多いと思います。では、こういうときはどうしたらいいのでしょうか。
 暗算が得意な人は、ソロバンを頭の中に浮かべているといいます。つまり、彼らが使っているワーキングメモリはソロバンのイメージだけなのです。ソロバンだけだから容量も少なくてすみます。図で記憶しておくので言葉は使わずに、したがって早くできます。

【ワーキングメモリをどう使ったらいいのでしょうか】

○ソロバンの代わりに「田んぼシェーマ」を思い浮かべる。

 もちろんソロバンが頭に浮かぶ人はソロバンの方がいいと思います。ソロバンが浮かばない人は田の字を思い浮かべましょう。そして、その外側に数字を書くのです。かけ算は面積を求めることと同じです。
 実際にやってみましょう。

【どうやったら暗算で計算できるようになるのでしょうか】

○方法を自分で生み出すことが、使えるようになる最高の方法です。

 方法(=法則)を使う一番良い方法は、法則を見つけ出すことです。人から教えてもらった方法では、身につかないのです。ですから、これから実際に法則を見つけ出してみましょう。もちろん法則は一つとは限りません。
 まず、2桁同士のかけ算ができるようになることを目標にしましょう。では、はじめます。

(1)11〜19までのかけ算
 これなら暗算でできそうですね。表にしてみましょう。こうやって実際に自分で作ってみることが大事です。あいている所を埋めてみましょう。

×| 11 12 13 14 15 16 17 18 19
11| 121 132 143           209
12| 132 144 156 168 180 192 204 216 228
13| 143 156 169 182 195       247
14| 154     196         266
15| 165       225       285
16| 176         256     304
17| 187           289   323
18| 198             324 342
19| 209 228 247 266 285 304 323 342 361

【何か法則が見つかりそうですか?】

・足し算と掛け算ですぐに求まりそう。十の位は一桁目を足す。一の位は一桁目を掛ければ良い。
・理由だってわかるよ。(x+a)(x+b)=x2+(a+b)x+abだからだよ。
これがすぐにできるようになるまで練習してみましょう。若い君ならきっと30分もあれば5秒ぐらいで暗算できるようになりますよ。

【練習その1】

 ・カードを作り、11〜19までの数を2枚ずつ書いておく。
 ・2枚ずつ取り出して掛け合わせ、答えを出す。
 ・色々計算しながら、法則を見つけ出す。
   ex.12×15=6×2×15=6×30=180     13×14=

11の段は簡単ですね。                   11×16=
15以下は10+n、16以上は20−nの方が便利です。
                              17×16=
(2)2桁の2乗
・19×19はめんどくさいな。
確かに19×19=100+180+81=361は暗算では難しいですね。
     10   9 .
10| 100| 90|
 9|  90| 81|

じゃあ、これをどうやったら暗算でできるのか考えてみましょう。
・(20−1)2で計算したらどうかな。
 =400−40+1=361 これなら暗算できそう。
とすれば、2乗は全てこの方法でできそうですね。
     20  −1 .
20| 400|−20|
−1| −20|  1|                  29×29=

・でも、272はめんどくさそう。
・(30−3)2=900−180+9ですね。
     30  −3 .
30| 900|−90|
−3| −90|  9|                  41×41=

852は?
・(80+5)2か大変そう。
・これは、6400+800+25だから簡単だよ。
・もっと簡単になるよ。80×90+25で求まる。
・5+5=10だから簡単になるんだ。
   80+5+5 5 .
80|7200|   |
 5|    | 25|                  75×75=

・そうすると、一の位が5の数の2乗は簡単ということですね。
  35×35=      65×65=        45×45=
  15×15=      95×95=       75×75=

【練習その2】
 ・田の字を思い浮かべて数字を入れていくと、面積が自動的に出るくらいに練習する。
 ・上のパターンは繰り返し練習する。

(3)24×26の計算
=20×30+4×6=624
    20+4+6 4 .
20| 600|    |
 6|    |  24|

・これなら簡単な暗算だ。十の位の数と1つ上の数をかけて、一の位同士をかければ良いわけか。
・十の位が同じで、一の位の和が10になる数の場合ですね。

  34×36=      87×83=        48×42=
  18×12=      91×99=       25×25=

240×26=も暗算でできます。
では、十の位の和が10で、一の位が同じになる場合はどうでしょうか。

(4)43×63の計算
=(3+40)(3+60)=9+100×3+2400=2709
とやれば暗算できます。
      60   3 . 
40| 2400|   |
 3|  300|  9|              14×94=
                           25×85=
                           24×84=
(5)53×56の計算
=2500+450+18=2968
    50   3+6 3 .
50| 2500|450  |
 6|     |   18|            24×26=
                           43×42=

・僕は書けば大丈夫なんだけど、暗算では足し算ができない。
・それは、ワーキングメモリが少ないからさ。
・暗算ができる人は、ワーキングメモリが大きいの?
・いや、できるだけ簡単なイメージを思い浮かべることでワーキングメモリを使っているからできるといわれている。例えば、ソロバンのイメージを浮かべるんだ。
私たちはソロバンのように計算ができないから、できるだけ簡単になるように式を変えていくのです。

(6)98×35
=(100−2)×35=3500−70=3430
     100  −2 .
35| 3500|−70|              96×25=

(7)33×14=3×11×14=3×154=462
  22×55=2×11×11×5=10×121=1210
  66×12=

【練習その3】
 ・車のナンバーを見て、前2桁と後2桁をかけるトレーニングをする。
 
 車のナンバーはまさに偶然の出会いです。自分の持っている想像力を最大限に発揮して暗算で解いてみましょう。どんな計算をしたら暗算でできるのかを考えるのがとても楽しくなります。できそうもない暗算ができた時はドーパミンが湧き出て、幸せな気持ちになります。ただし、ドライバーの方は運転に十分注意してください。
 5割できるようになれば、かなり計算力がついたと自信を持ってもいいでしょう。

○車のナンバーシリーズ
 先日、前の車のナンバーを見たら、1945。
 19×45=(20−1)45=900−45=855
 と計算できることに気がついたときはうれしかった。偶然の出会いですね。こういう出会いが思わぬ発見を生み出します。
 
 [問題]
 前の車のナンバーは6325でした。
 64×25=は、16×4×25=16×100=1600ですが、
 63×25=は、どうやって計算すればいいのでしょうか?

  ⇒ ジオジェブラで【計算練習

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