「ガリバー旅行記」から「ゾウの時間ネズミの時間」へ
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人間は何らかの相似性をもとにしなければ、自然を理解できないのではないか。自然科学とは自然の内にパターン(相似性)を見つける作業ではないか。もしそうなら、時間と空間はいつも相関関係を持っている。』 本川達雄著【ゾウの時間ネズミの時間】より
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【ジョナサン・スイフト(1667~1745)著 ガリバー旅行記】を読む

T:ガリバー旅行記って読んだことのある人? 2・3人か。少ないな。でも、ガリバーの話は知っているだろ。絵本で縛り付けられたガリバーを見たことがない?これからガリバーに関する問題を出すよ。

【第一問】 ガリバーは小人国、大人国、空飛ぶ島、馬の国と旅行する。途中に日本へも立ち寄っている。さて、3番目の空飛ぶ島の名前は?

S:ラピュタだ。「天空の城ラピュタ」でパズーが言っていたよ。
S:ガリバーは日本へも来たのか。
T:16世紀から始まる大航海時代によって、ヨーロッパにとっての世界の発見が始まります。そして造船技術の進歩や羅針盤、天体観測による位置決定などで、地球の地図や海図が製作されます。

【第二問】 ガリバーは子どものころから船に乗って外国に行きたいと思っていました。そのため彼は航海術や医学の勉強するのですが、もう一つ勉強したものがあります。何でしょう?

S:外国語。
T:惜しい。彼は外国語の勉強もしていて得意だったけどね。
S:数学。
T:そうなんです。外国へ行くのになぜ数学なんでしょうね。
S:航海にはコンパスを使って進路を決めたりするから、数学が必要なんだ。
T:徳川家康に仕えたウイリアム・アダムス(三浦按針1564~1620)は、少年の頃船大工になるために独学(ひとり)で幾何学や航海術を学んだということです。当然数学の教科書があったのでしょうね。

【第三問】 最初の旅行で、船が難破し、ガリバーが打ち上げられた所は、リリパット(小人国)であった。そこにはガリバーの1/12の大きさの小人がいた。小人の身長は六インチ(15p)。さて、ガリバーが寝るために必要なベッドは小人の何人分が必要か?

S:12人分。
S:違うよ。もっといるよ。
S:縦に12人分、横に12人分だから、12×12で144人分だ。
S:でもさ、それだと薄っぺらではないの。
T:こう書いてある。「皇帝が、私のためにベッドをこしらえてやれ、と言われました。普通の大きさのベッドが六百、車に積んで運ばれ、私の家の中で、それを組み立てました。」
S:つまり、144人分のベッドを敷いて、さらに4段に積んだということかな。
S:だから、数学が必要だったのか。

【第四問】 では、ガリバーの食事は何人分?

S:パンの大きさは体積だから、縦と横だけでなく高さも必要だ。とすると、12×12×12=1728人分となる。
S:身長が12倍だけで食べ物は1728人分にもなるの。(なぜか、「1724人分の食事」と本文には書いてある。)
S:ウンチだって1728人分も出るということか。
T:小説にはウンチのことは書いてない。さすがに、スイフトの想像力でも、ガリバーの出すウンチの始末には困ったんだろう。では、ガリバーの体重は?
S:小人の体重の1728倍ということですね。
T:そんなに重いとつぶれてしまわない?
S:そんな気がするな。
T:実はこう書いてある。「九百人の男が力をそろえて、とにかく私を車台の上に吊し上げて結びつけてしまいました。すると、千五百頭の馬が、その車を引いて、私を都の方へつれて行きました。」
S:900人で1728人分の重さのガリバーを持ち上げることができたのかな。
T:力と重さが比例するのはわかるけど、力と体重は比例するの?
S:それをいうなら、食事の量は体重に比例するの?
S:パンの重さは体積に比例するよ。
T:ガリバーの食事については、「さっそく、皇帝は、勅命で、私のために、村々から毎朝牛六頭、羊四十頭、そのほかパン、葡萄酒などを供出するよう、命令されました。」と書いてあるよ。
S:ところで、小人の身長は15pというのはわかったけど、体重はどれだけだろう?
S:ガリバーの1728分の1だよ。
S:ということは、ガリバーの体重を70kgとすると、約40gだよ。
T:卵のちょっと小さいぐらいの重さだよ。
S:逆に僕らが小人だとすると、ガリバーの体重は70×1728=120960kg=120dだ。
T:10dトラック12台分。

【第五問】 宮殿が火事になったとき、ガリバーはどうやって消したのか?

S:近くの川から帽子に水を入れてきて消した。
S:おしっこをかけたんじゃない。
T:正解!彼は機転を利かせておしっこをかけ見事に火事を消したんだけど、このことでガリバーは皇帝と仲が悪くなる。

【第六問】 では、ガリバーの時間は小人の時間と比べて遅くなるか、早くなるか?

S:時間は、大きかろうが小さかろうが同じじゃないの?
S:でも、小人の方が早く動いているような気がするな。
S:小さいとすばしっこいから?
S:ミニチュアセットのビルをゴジラが破壊するとき、壊れたビルが落ちる。でも、ミニチュアだと早く落ちてしまい模型だとわかるので、時間をスローにして映写するという話を聞いたことがあるよ。
T:高さは時間の2乗に比例するから、実際のビルの高さが16倍なら、時間を√16=4倍にするんだ。
S:高いと落ちる時間は長くなるもんね。(比例∝の記号を使って表すと、高さ∝時間2
T:小人の体重が40gなら、ネズミと同じぐらいの重さだ。ネズミは、10mぐらいの高さから落としてもなんともない。
S:小人をガリバーの高さから落としても怪我をしないということ?
S:ネズミはすばやく動くから、小人もすばやく動けるんじゃない。
S:もし動く速さが同じなら、腕の振り上げにかかる時間は、ガリバーの場合は距離が12倍だから時間も12倍になるんじゃない。
S:ガリバーの動きが12倍もかかるとは思えないよ。ウルトラマンは同じように動いているよ。
S:ウルトラマンは、人間が中に入っているの。
S:私たちが小人だとすると、ガリバーの体重は1728倍なんでしょ。重くって動かすのが大変だよ。
T:では、ガリバーの動き(時間)は小人よりも12倍遅いというのは本当だろうか、考えてみよう。ところで、ガリバー旅行記は童話ではなく大人向けの風刺小説なんだ。
S:風刺って何?
T:政治や社会を、何かに喩えて批判することだよ。当時(1700年頃)のイギリスの政治や社会を批判してある。その風刺の方法としてスイフトが用いたのが、ある国とその国の人間を12倍の大きさから見るという方法。何でも12分の1のこの国では、なんでもないことで国の中が分かれていたり、どうでもいいことで外国と戦争をしている。逆に、国や人・物を12倍にして見ることもしている。そして、理性を持った馬から人間(ヤフー)を見るとどうなるかということもやっている。現実世界を、視点をずらして相対化して見ようとしているんだ。相似の考えはその場合にとても便利で、自分自身を拡大したり縮小したり自在にできる。ここで、さっきの問題を考えるために、大きさを小動物にまで移してみよう。
S:ネズミになってみようということ?
T:そうです! そこで、参考になる本として、本川達雄著【ゾウの時間ネズミの時間】を紹介しよう。ボクはこの本を興奮して読んだよ。

【第七問】 ガリバーの12倍の身長の巨人の体重は121dもあるが、自分自身の重さを支えることができるのだろうか?(相似形の不思議)

T:私たちは形が相似だと、全てが比例だと考えるけど、体重は比例していない(3乗に比例している)。身長が12倍で体重が3乗倍の1728倍になると、体重を骨が支えられない。骨の太さは12倍で、断面積は144倍だから、強度は144倍しかない。(強度は面積に比例する。)
S:ところが、体重は3乗に比例して増えるので、強度も1728倍にしなければならない。
S:つまり、骨は相似ではダメなんだ。もっと太くしないと。
S:それで、ゾウは骨が太いのか。恐竜だって太いよ。
T:強度を1728倍にするには、断面積を1728倍にしなければならない。断面積を1728倍にすると、巾は√1728倍≒41.5倍になる。
S:縦が12倍で、横(巾)が41倍なんて、巨人は横にかなり太くなるよ。
T:さっき、ネズミを落としても大丈夫だという話をしたね。アリだったらどんな高さから落ちても怪我しないだろ。100gまでの動物ならどんな高いところから飛び降りても大丈夫ということがわかっている。
S:人間やそれより重い動物は、怪我をしやすいということなの。
S:長さの3乗に比例するわけだから、長さが小さくなると、すごい割合で軽くなるといいうことじゃない。
T:競馬の馬は、走るだけで骨折する場合があるよ。この巨人のように長さに比例して強度も比例するような相似を、「弾性相似(長さ^3∝重さ∝強度∝断面積∝巾2。よって、巾∝長さ(=高さ)3/2」という。さて、いよいよ時間について考えるよ。この本には、重さの違う動物について、体重と寿命の関係を調査したデータがある。

【第八問】 動物の体重が16倍になると寿命は何倍になるか?

S:そういえば猫や犬は寿命が短いね。
S:ゾウは寿命が人間よりも長いの?
T:答えはずばり、2倍延びる。この調査から「時間は体重の1/4乗に比例する。」という法則が見つかっている。つまり、体重は時間の4乗に比例する。体重が16倍になると時間が2倍になるということ。時間とは心臓が1回ドキンと打つ時間、大人になるまでの時間や赤ん坊が母親の胎内に留まっている時間など。
S:猫の寿命は14年ぐらいだよ。
S:うちの犬は15歳まで生きていたよ。
S:でも、猫の体重を5kgぐらいとすると、人間の体重は約12倍だから、寿命は√(√12)≒1.86倍=14×1.86=26.04歳ということ?
T:人間の動物としての寿命は、本来30歳ぐらいじゃないの。1900年頃の日本の男子の平均寿命は42歳ぐらいだよ。
S:えーっ。
T:この法則を次のように証明した人がいるんだ。
  動物の身体が弾性相似だと仮定しよう。
  体重∝巾2×長さ∝(長さ3/2)2×長さ=長さ4 つまり、重さ1/4∝長さ
  時間∝周期∝長さ∝重さ1/4
S:「時間∝周期」はわかるけど、「周期∝長さ」がわかりません。
T:マクマホンという人はこう証明している。
  力=質量×加速度(ニュートンの運動の第二法則) …(1)
  ところで、質量∝長さ×断面積。また、加速度∝長さ/時間2 …この2つの式を(1)に代入すると、
  力∝長さ×断面積×長さ/時間2 …断面積で両辺をわると、
  力/断面積∝(長さ2)/時間2 
  筋肉の出す単位面積あたりの力は一定なので、
  時間∝長さ …弾性相似なら、長さ∝体重1/4なので
  時間∝体重1/4
S:へー。なんだかわからないけど、これで証明されたの?
T:ところが、この仮定である弾性相似が成り立っているのかどうか調べてみたら、牛については言えるけど、鳥類や他の哺乳類では弾性相似が成り立っていない(幾何相似である)という調査結果が出たらしい。
S:ザンネン!!
T:だから、時間∝体重1/4の法則が成り立つ理由は、まだわかっていないらしい。でも、この法則は、理由はわからないけど成り立っていることは確かだ。
例えば、
○ゾウも猫もネズミも心臓はドッキンドッキンと20億回打って止まる。
○ウグイスもカラスもダチョウも息をスウハアと3億回すって終わる。
S:ということは、ネズミは心臓の打つ早さが早いということ?
S:ハムスターの心臓はとても早いよ。
S:ハムスターは50gぐらいだから、猫の100分の1。つまり、寿命は猫の3分の1ということになるよ。
S:猫の脈拍も人間よりもずっと早い。
S:ボクの1時間はハムスターの10時間分ということか。この時間内に打つ心臓の鼓動数は同じなんですね。
T:動物が弾性相似なら長さ(高さ)と時間は比例する。そうすると、さっきのガリバーの時間の問題は、ガリバーが弾性相似なら12倍で正解なんだけど、弾性相似ではない(幾何相似)から、体重1/4=√(√1728)となって、時間は約6.4倍ということになる。さらに、この法則を使うと、哺乳類の平均体重から平均寿命が求めることができるよ。
   寿命(飼育したもの)=(11.6×(体重kg)0.2)年。
S:ゾウの体重は5000kgだから、…63年だ。
S:ネズミは40gとすると、…6年。
S:人間は26年と出たよ。
T:寿命については、人間は他の哺乳類と相似ではないんだ。でも、標準代謝量については,他の動物と相似だよ。

【第九問】 体重が16倍になると、エネルギーの消費量は何倍になるか?

S:16倍じゃない。
S:そうともいえないよ。だいたい比例しているの?
T:実は8倍になるんだ。時間∝体重1/4だったね。(エネルギーの消費量)∝(単位時間当たりの肺に入ってくる酸素量)∝体積/(呼吸する時間)∝体重/(呼吸する時間)∝体重/体重1/4=体重3/4だから、163/4=8となる。
S:計算がわからないよ。
T:実測の結果もこの計算と一致して、「エネルギーの消費量は体重の3/4乗に比例している。」  【対数グラフについて
S:3/4乗に比例するってどういう意味?
T:エネルギーの消費量の4乗と体重の3乗が比例するということです。
S:?
T:脳の重さも、体重の3/4乗に比例している(なぜだろう?)。エネルギーの消費量∝食べる量も、体重の3/4乗に比例するということはわかるね。
S:ということは、ガリバーの食事は1728人分でなくて、268人分ですむということですか。
T:小人の方が、ガリバーが食べるよりもたくさんの食事を必要としているということです。
S:私たち(ガリバー)が食べるよりも6.4倍食べているよ。
S:食事の量は、体重に比例していないんだね。そうすると、力は何に比例するの?筋肉の縮むスピードは長さに比例するの?
T:力は、筋肉の量に比例するから、断面積に比例するよ。スピードについては、力のモーメントも考えなくてはいけないな。
S:そうすると、小人の力はかなり強いということですね。
T:力が面積に比例するということは、力は1/122=1/144になるから、自分の体重よりも12倍の重さの物を、持ち上げられるということになります。つまり、ガリバーを持ち上げるのに、144人で十分だということですね。
S:だから、アリは力持ちなのか。

○けものならみんな一生に1kgの体重あたり15億ジュール消費する。
  エネルギーの消費量∝体重3/4   両辺を体重でわると、
  エネルギーの消費量/体重∝体重3/4/体重=体重(3/4-1)=体重-1/4=1/体重1/4
  つまり、単位体重あたりのエネルギー消費量は、体重1/4に反比例する。
  一方、時間∝体重1/4だから、時間×単位体重あたりのエネルギー消費量=一定。
T:どんな動物でも、心臓が1回ドキンと打つ時間の単位体重あたりのエネルギーは、同じということです。さらに、これに一生の時間をかけると15億ジュールになります。また、1/時間∝1/体重1/4なので、1/時間∝単位体重あたりのエネルギー消費量となり、時間の進む速さと単位体重あたりのエネルギーは、比例するということも出てきます。
S:時間の進む速さは、エネルギーが2倍になれば、2倍になるということですか。
S:年をとると、時間が早く感じるというのは、子どもの方が「単位体重あたりのエネルギー」が大きいからなんですね。

『サイズによって時間が違う。サイズによって働く物理法則が違う。大きい世界はニュートンの力学が支配する世界であり、慣性力が主役になる。慣性力は質量に比例しており、小さい世界では質量が長さの3乗に比例して小さくなるので、慣性力も非常に小さくなる。その代わりに分子間の引力や熱運動による分子のゆらぎが無視できない、統計力学が支配する世界となる。』【ゾウの時間ネズミの時間】より
例えば、
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『アメンボ・コオイムシ・タガメの卵の大きさを比較すると、アメンボ1.4mm。コオイムシ2.2mm。タガメ4.4mm。
立方体で考えると、長さが2倍になると体積が1立方cmで表面積が6cu→体積8立方cmで表面積は24cu。つまり、卵の中身は8倍の酸素がほしいのに、とり入れる口となる殻の表面は4倍しかない。水中の卵は大きくなるほど酸素が足りなくなりやすい。アメンボは水中でも平気。コオイムシは水面近くがいい。タガメは空気中がいい。しかし、水気がないとダメなので、オスが乾かないように水をかけている。』  【タガメはなぜ卵をこわすのか? ―水生昆虫の「子殺し」市川憲平著】
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S:わかった。体積と「必要な酸素量」が比例していて、表面積と「入っていくる酸素量」が比例しているということだね。
T:拡大すると、環境ががらりと変わるんだ。

【第十問】 牛とウサギから肉をとるときに、効率的なのはどちらか?

S:効率というのはどういうこと?
T:時間やえさ代や肉になる割合のこと。
S:牛の方が大きいから効率が良いのに決まっている。
T:計算してみよう。時間は体重の1/4乗に比例することを忘れないように。

A.10tの干草を500kgの雄牛2頭に食べさせると、食べるのに14ヶ月かかり、0.2tの肉が新たにでき、6tの糞ができる。
B.10tの干草を2kgのウサギ500匹に食べさせると、3ヶ月で食いつくし、0.2tの肉が新たにでき、6tの糞ができる
C.10tの干草を1gのイナゴ100万匹に食べさせると、9ヶ月で食いつくし、2tの新しく生まれたイナゴができ、6tの糞ができる。

S:へー。こんなことまで計算できるのか。
S:早く食べようと思えばウサギ。たくさん食べようと思うとイナゴだな。
T:まだまだ面白いことが書いてあるよ。この本をぜひ読んでみて。

参考【ガリバー旅行記(原民喜訳)・ガリレオ新科学対話・環境の数学ガリレオと落体の法則

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