飛んで火に入る夏の虫

昆虫たちは街灯になぜ集まるのか?

A:「飛んで火に入る夏の虫」と言うでしょう。なぜ昆虫たちは街灯に集まってくるのかな?
B:そうだよね。わざわざ死ぬために集まってくるようなものだよ。そんなことをなぜするの?
C:昆虫って光に吸い寄せられるって聞いたことがあるな。
A:どうして光に吸い寄せられるの?太陽に吸い寄せられるっていうこと?
C:昼間ではなく夜行性の昆虫には光を求めて飛んでいく性質があるんじゃないかな。
B:そうすると、月夜の晩は月に向かって飛んでいくの?
C:そうか。そんなことはおかしいね。
B:それに、そもそもなぜ光に向かって飛んでいくの?
A:光を出す植物があって、それの蜜を吸いに行くんじゃないかな。
B:そんな光を出す植物を見たことはないな。ヒカリゴケぐらいだよ。
A:そうすると、なぜ夜活動をするんだろうか?
C:それなら簡単だ。昼間だと鳥などの外敵が多いからだよ。夜に移動したり、餌を取った方が安全なんだよ。
B:でも、夜は昆虫だって見えないだろ。
C:昆虫は匂いで相手や餌を探すって聞いたことがあるよ。匂いに向かって飛んでいくんだ。
B:安全に飛ぶためには地面と水平に飛ばなくっちゃいけない。匂いは濃さだからあんまり正確じゃあないよ。
A:ミツバチは太陽の方向を目安にして餌の方角を知るということを本で読んだことがあるよ。
B:ダンスをして方向を示すんだろ。
C:夜だったら、月ということかな。月なら曇りじゃない限り大丈夫だ。
B:そういえば、曇りの日は太陽が見えないけど、ミツバチはどうやって方向を決めるの?
A:そうそう、ハチは太陽の偏光を偏光版のような目で見て方角を探しているから曇っていても大丈夫らしい。(雲ばかりでは偏光は見えない。青空が無いとダメ。個眼に8枚の偏光板が付いている。透明な方向に太陽がある。)
B:そうすると、月の光にも偏光があるのかな?
A:そこまではわからないけど(月の偏光を利用するスカラベがいるらしい)、月の光を目当てに方角を決めているんじゃないかな。
B:ということは、月に対してある一定の角度で飛んでいくということか。それなら、水平に飛ぶのも可能だね。
C:例えば、月に対して常に80度で進めば真直ぐに飛べる。
B:匂いのする方向を向いて、月の位置を確かめ飛び立つわけかな。
A:ちょっとまとめてみるよ。

(1)昆虫の中には外敵から身を護るために夜活動するものがいる。
(2)夜行性の昆虫は飛ぶために月を利用して方向を決める。
(3)その場、月に向かって飛んで行くのではなく、月に対して一定の角度で飛んでいく。
(4)その角度は、初めから決まっているのか飛ぶ時に決めるのかわからない。


B:ところで、(3)なぜ一定の角度で飛んでいくの?
C:一定でないと直線的に飛べないからですよ。それに、昆虫の複眼は一定の角度をとらえるのに都合がいいみたいだ。
A:これらを仮説にすると、なぜ街灯に昆虫が飛んでくるのか説明できるのかな

夜行性の昆虫は何億年という長い進化の過程で、月を目印に飛んでいくことを身につけた。ところが、数十万年ぐらい前から人間が火を使うようになってきた。昆虫たちには月の光と火の光が区別できない。

B:地上の光に対して一定の角度で進んでいったらどうなるんだろう。
A:月の光は平行線だから、一定の角度は直線になる。ところが、火の光は平行ではない。
C:そうか。光源に対して一定の角度で進むということは、【はまぐりの数学】でやったように等角らせんを描いて光源に無限に近づいていく。
B:つまり、火の中に入ってしまう。虫は直線的に飛ぶつもりで螺旋を描いて飛んでいるわけか。

(5)地上の光源に対しても一定の角度で飛行しようとする。
(6)その角度が、90度よりも小さいときに等角らせんを描いて光源に近づいていく。
(7)90度よりも大きいときは、等角らせんを描きながら光源から遠ざかっていく。
(8)その結果、昆虫は等角らせんの中心である光源に向かって飛んでいくことになる。

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A:昆虫は光源に対して直線的に飛んでくるわけではないのですね。
C:何億年をかけて身につけてきた習性は数千年では修正できないんだ。

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