「てんびん3進法」の研究

― てんびんの錘の数と硬貨の数 ―

 TV番組「テストの花道」を見ていたら次の問題が出てきた。

 【問題】 「上皿天秤で、1g から 40g まで、1g きざみで量りたい。
       そのためには、何g の分銅が必要なのか? 」

     もちろん 1g から 40g までの分銅がすべてあれば量ることはできる。
     しかし、ここで条件が2つ。

      ・使う分銅の数をできる限り少なく
      ・同じ重さの分銅を2個以上使うのは禁止  

  これと同じようの問題があったな、確か2進法だとできたはずだから、
 2=1,2=2,2=4,2=8・・・
つまり、1,2,4,8,16,32gの6種類だ。

と考えていたら、もっと少なくできるという。

それは、てんびんの両方の皿を利用する。
 1+3+x=9 というようにxを出す。和だけでなく差でもOKというのだ。

そこで再考。
 1
 2=3-1
 3
 4=3+1
 5=9-3-1=9-4
 6=9-3
 7=9+1-3=9-2
 8=9-1
 9
 10=9+1
 11=9+3-1=9+2
 12=9+3
 13=9+3+1=9+4
 14=27-(1+3+9)=27-13
 15=27-(3+9)=27-12
 16=27-11
 17=27-10
 18=27-9
 19=27-8
  …
 各数の表現方法は
 一通りしかない
    

1と3で2も出る。3−1=2
次は5だけど、これを差で求めると、4+5=9あれば大丈夫。
同様に1+3+9=13の次の14は、13+14=27。
つまり、1,3,9,27gの4種類で40gまで出せると気がついた。

これって、3=1,3=3,3=9,3=27・・・だ。
3進法が2進法よりも少なくて済むということか。
そんなはずはない・・・。なぜだろうか?

課題 【なぜ3進法が2進法よりも少なくて済むのだろうか?】

(1)先ず、2進法から調べてみよう。
 1,10,11,100,101,110,111,1000・・・だから
 1, 2, 3,  4,  5,  6,  7,   8

1,2,4,8,16,32gの錘だと、63gまでの全ての重さを測ることができる。

(2)では、3進法だとどうだろうか。
 1,2,10,11,12,20,21,22,100,101,102,110,・・・
 1,2, 3, 4, 5, 6, 7, 8,  9, 10, 11, 12

1,3だけではダメで、2が必要。
だから、1,3,9,27gだけでは求められない。
1,1,3,3,9,9,27,27gでないとだめだ。
つまり、同じ数が2個ずつ必要だ。

(3)4進法だと、
 1,1,1,4,4,4,16,16,16・・・
と3個ずつ必要となる。

でも、これらはてんびんの片方だけに乗せる場合。
そこで、3進法を見ると、2個ずつ必要だが、
 −27,−9,−3,−1,1,3,9,27
と考えたら、加法だけで40までの数を全て表わすことができる。
つまり、これはてんびんの逆の皿に載せることにあたり、結局4種類で済むことになる。
もちろん4進法ではこの考え方は使えない。

なるほどそういうことだったのか。
数って不思議だな。

課題 【3進法を硬貨や札にしたらどうなるのだろうか?】

このことをお金にあてはめてみたらどうなるのだろうか。

(1)「1000円までの全ての金額を払うことができる硬貨の一番少ない個数は?」

という問題ならば、2進法を使って、
1,2,4,8,16,32,64の7種類のコインで127円までの全ての金額を払うことができる。
でも、
1円硬貨、2円硬貨、4円硬貨、8円硬貨、16円硬貨、32円硬貨、64円硬貨、128円硬貨、256円硬貨、512円硬貨・・・
と作らなければならない。

実際のお金の種類は、
1円硬貨、5円硬貨、10円硬貨、50円硬貨、100円硬貨、500円硬貨、1000円札、5000円札、10000円札
の9種類。これは10倍(5×10=50)ずつになっている。
でも、おつりがだんだんたまってきて、財布の中が硬貨だらけになるという経験をした人は多いだろう。
1000円までの全ての金額を出すためには、
1円硬貨4枚、5円硬貨、10円硬貨4枚、50円硬貨、100円硬貨4枚、500円硬貨
の15枚が必要だ。硬貨がたまるはずだ。
もっと硬貨の数を少なくできないものだろうか。

2進法の硬貨の数は少なくなるけど、種類があまりにも多くなるのが欠点である。
そこで、上のてんびんの考え方を使ってみよう。

(2)「お釣りも含めて1000円までの全ての金額を払うことができる硬貨の一番少ない個数は?」

お釣りも含めてできるだけ少ないコイン・札の種類の数を求めることになるので、てんびんの3進法を使えば良い。
これは、本当は各種類の硬貨について2個ずつ必要なのを、店側に1個ずつ持ってもらうことにあたる。
考えてみれば、買い物は金額を出す方とおつりを出す方の共同作業なので、両方ができるだけ少ないコインの方が効率が良い。
ちなみに、
1円硬貨、3円硬貨、9円硬貨、27円硬貨、81円硬貨、243円硬貨、729円硬貨、2187円札、6561円札、19683円札
の10種類になる。(1000円までなら729円硬貨までの7種類)
例えば、7円を出す時は、1+9円を出して、3円おつりをもらえば良い。
計算が大変だが、このようなコインだと常に考えなくてはならないので、脳が活性化される。

こんな効率の良いコインを作る国がないだろうか。
きっと数学が得意な国民ばかりなると思う。
しかし、2000円札がいつの間にやら消えてしまったように、10進記数法は強力だ。
10や100は何も特別な数ではないのに、特別な数のように思い込んでいる。
結局、硬貨・札も10進記数法に対応させた方が混乱しないのだろう。

 数学的帰納法を使って天秤の錘が3になることを示す。
 新しい錘を作り出す方法は2倍して1を足すこと。
  2(1+3+9+…+3k)+1・・・(1)
  一方、1+3+9+…+3k=Skとすれば、
  3Sk=3+9+…+3k+3k+1
 −)Sk=1+3+9+…+3k
  2Sk=3k+1−1
 よって、Sk=(3k+1−1)/2
 (1)にあてはめると、
 2(3k+1−1)/2+1=3k+1
 となり、3kまで成り立っているならば、次の錘は3k+1になる。

39、パズルから数学へ、数学からパズルへ「ユーロのお金の種類」

課題 【「てんびん3進法」の演算を考えてみよう】

ここでやめようと思っていたが、【マイナス2進法】で演算を考えたことを思い出してしまったら、やめられなくなってしまった。
この3進数は、てんびんの反対側に乗せる方をマイナスで表わすと次のようになる。

十進法  9  3  1
 1  1
 2  1 −1
 3  1  0
 4  1  1
 5  1 −1 −1
 6  1 −1  0
 7  1 −1  1
 8  1  0 −1
 9  1  0  0

ここで、マイナス1をローマ数字Tで表わすと数になる。マイナス符号を使わなくても負の数が表わせることに注目。
この記数法を「てんびん3進法」と名づけよう。
3進法と同じで3個の数を使うが、「3進法」で2の入っている数に対応する「てんびん3進法」は補数のようになっている所が違う。

十進法 33210  3進法
 −3    T0  −10
 −2    T1   −2
 −1    T0   −1
  0     0    0
  1     1    1
  2    1T    2
  3    10   10
  4    11   11
  5   1TT   12
  6   1T0   20
  7   1T1   21
  8   10T   22
  9   100  100
 10   101  101
 11   11T  102
 12   110  110
 13   111  111
 14  1TTT  112
 15  1TT0  120
 16  1TT1  121
 17  1T0T  122
 18  1T00  200
 ・・・
 27  1000 1000

次は、足し算を定義してみよう。
1+1=1Tだが、これはどの桁でも当てはまるのか確かめてみよう。
もちろん1+T=0。11(4)+11(4)=1T+1T0=10T(8)となる。どうやらOKだ。
とすると演算の規則は次のようになる。

 + T  1
 TT1  0
 1 0 1T

   1T   100   111   1TT
  +1T  +100  +  1  +1TT
   T1  1T00  1TTT    T1
  1T                T1
   11              1T00
                    101

次は、かけ算の規則を見つけてみよう。足し算よりも自然に定義できる。

 ×T 1
 T1 T
 1T 1

   1TT (5)
  × 11 (4)
   1TT
 +1TT0
  1T1T (20)

この演算は、マイナス2進法よりも簡単で、マイナスも表現できるし、応用も広そう。
こうやってみると、いろいろな記数法があるものだ。


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